第15話
校舎内を三人並んで歩き、初等部のある西棟から中央棟を目指す。
渡り廊下を抜けると、当然だがすれ違う生徒が中等部や高等部の先輩方に変わる。
中等部は東棟、高等部は北棟にあるのだが、中央棟は特別教室が多数あるため、移動教室の生徒が多く行き交っているのだ。
どの先輩も、制服の着こなしが綺麗だと思うと、ついつい目で追ってしまう。
玲明は、初等部から男子の制服は紺のブレザーにネクタイとスラックス、女子は紺のブレザーにリボンとチェックのプリーツスカートだ。やはり玲明だけあって、他校よりもお高いのだが、デザインが凝っていて、学外からも人気が高いらしい。
ちなみに、ネクタイとリボンは初等部にはない。また、中等部と高等部で色が違うため、行き交う先輩方がどちらなのかはすぐ分かる。
俺や隣を歩く銀水兄妹も、一応同じものを着ているが、やはりどうしても着られている感がある。まだまだ俺たちはお子様だ。
こちらまでくる初等部の子は珍しいのだろう、すれ違う先輩方はみんな好奇の目を向けてくる。それでも、話しかけてくる先輩がいないのは、俺たちが生徒会の証である徽章をブレザーにつけているからだろう。
少し寂しさを感じつつ、中央棟のエレベータで最上階へ上がる。廊下の奥に生徒会室の扉が見えた。
「失礼いたします」
ノックして中に入ると、「良くきたね」と先輩方が迎え入れて中へと案内してくれた。
生徒会室とは名ばかりで、中はとても広くテーブルと椅子がいくつも並び、まるでサロンのようだった。これ、このフロアの半分くらいは生徒会室だな。これがトップクラスのお金持ち学校かあ。
先輩は、いくつか並ぶテーブルの一つへ俺たちを案内し、少し待つよう言うと、元々座っていたのだろう、別のテーブルへ戻っていった。
案内された卓にはすでに先客が座っており、俺たちが近づくと声をかけてきた。
「ごきげんよう、朝以来ですね、明前様」
「雨林院さん、早いね」
「ええ、放課後のこの時間が楽しみでつい早足に来てしまいました。お恥ずかしいです」
「へえー」
まあこれだけすごい設備だし、実をいうと俺も来ること自体は聖地巡礼ができる思い、楽しみにしていた。
そして、希空がいるということは、ここはどうやら今年の新入生が座るテーブルのようだと気づく。
同時に、周りに座る先輩方から注目されているのを感じる。悪い気はしないが恥ずかしいな。
あ、姉様も二つ隣の卓にいる。制服着ている姉様はとても綺麗だなあ。目があったので手を振ると、軽く頷いて返された。クールだなあ。
とか考えていたら、
「明前さん、私を差し置いて、希空とは随分と仲がよろしくてね?」
「入学前にたまたまお会いする機会がありましたので」
向かいに座った亜梨沙が絡んでくる。
俺だって仲良くなりたくて仲良くなったわけじゃないんだよ。
「あら、亜梨沙様。銀水様もごきげんよう。亜梨沙様とは先日のお茶会以来ですね。あの会でいただいたお菓子はどれもとても美味しかったです。また是非お茶会を開きましょうね」
「ごきげんよう。こちらこそ楽しんでもらえて何よりですわ。今度は、銀水家が贔屓にしている美味しいケーキを出すお店へ一緒に行きましょう」
「贔屓ってもしかしてあの店? だったら僕もご一緒してもいいかな。あそこのタルトはとても美味しいんだ」
「あら、是非。私、楽しみにしていますね」
あれ、なんか俺を置いて話が弾んでない?
というか、希空と亜梨沙は顔見知りだったのか。話している感じ仲も良さそうだ。そりゃそうだ、同い年でお互い大企業の令嬢なら、色んな場所で会う機会があるはずだし。
亜梨沙も、銀水家より家格の高い希空は、自分の友人に相応しいと考えそうだ。ゲームでも、親友とまではいかずとも、二人が仲良さげにしている描写はある。
俺はというと、次期跡取りでもあるので、パーティーに同席させられることはあったが、料理に夢中で会った人の顔まで良く覚えていない。前世の記憶戻るまでの咲也、さすがにやばすぎないか。
破滅の矢がどこから飛んでくるかも分からないし、今度からはその辺りもきちんとしなければ。
「明前様も、もし良ければいかがですか?」
「えっ、何が?」
「もしかして聞いてらっしゃらなかったんですの?」
いかん。全然聞いてなかった。
しかし、ジトリとこちらを見る亜梨沙の表情から察するに、正直に言ったら心証が悪くなりそう……。
「もちろん聞いていましたよ。是非お願いします」
とりあえず肯定しておく。こういう時否定的な発言はご法度だ。
「結構。では、また日時を連絡しますので、携帯のアドレスを教えてくださいな」
「俺、携帯持ってないですよ」
「ええ!? それは本気で言ってますの?」
「そりゃもう」
本当ですよ。だって外出る機会なんて習い事の時だけだし。
前世でも入院生活が長かったから、携帯はほとんど使ってなかったので、途中で解約してしまっていた。だから、久しくそういったものには触れていないのだ。
「はあ……明前様は意外と浮世離れしているんですのね。そしたら、決まったら学校でお伝えしますわ」
「お願いします」
嘆息している亜梨沙へ頭を下げると、義弥がフォローするように提案してきた。
「明前くん、もし携帯を持つことが嫌じゃないなら、今後もそうして連絡をとることがあるかもしれないし、ご両親に話して買ってもらったらどう?」
「そうですよ。私も明前様にご連絡差し上げるかもしれませんし」
希空も便乗し、なんだか断りづらい雰囲気が出来ていく。ちょっと、別に俺から連絡とる理由はないんだけど。
「……分かりましたよ。近いうちに買いに行くようにします」
「あら、明前様、私が一緒に選んで差し上げてもよろしくてよ?」
「別にいいです」
結局、流れで携帯を買うことと連絡先を交換することを約束させられてしまった。
どんどん逃げられなくなっていくなあ。
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