第14話

 あれから、担任の先生が教室に入ってくるまでの間、ずっと双子と三人で雑談に興じていた。といっても、俺は二人の話に適当に相槌を打っていただけなんだけど。

 亜梨沙は、やれどこに遊びにいっただの、やれどこで食事をしただのといった話が多く、なんとなく自分のことを知ってもらいたいのかなという印象が強く残った。原作では傲慢な嫌な女だと思っていたが、少しだけその印象は変わったように思う。

 逆に、義弥はその合間を縫って俺のことを聞いてくることが多く、妹の話ばかりにならないよう場の流れをうまく調整していた。すごいなこの子。

 途中、好きな食べ物の話になり、前世では中々食べられなかったカップ麺とか好きだったなあとつい口に出してしまったところ、


「カップ麺って何ですの?」

「聞いたことはあるけど、食べたことはないなあ」


 と、二人の興味を引いてしまったようだった。これ今度一緒に食べましょうとか言い出さないよね? 慌てて話題を変える。危ない。

 程なくして担任の先生がやってきて、入学式の会場への誘導が始まったので、双子は名残惜しそうに自分の席へ戻っていった。


 入学式は、さすが玲明だけあって、校内にポツンと建つ歴史ある風格の講堂で行われた。静謐な雰囲気と木や埃の匂いが、古くからここにあるのだということを思わせる感じがして、なんとなく俺はここが気に入った。

 どうやら普段も開放されているようなので、一人で考え事をしたい時は来てみようかな。

 校長先生のあまり長ったらしくない要点を押さえた話しが終わり、新入生代表挨拶になった。名前を呼ばれ、壇上に上がったのは紛れもなく雨林院希空だった。

 そういえば、教室に向かう途中にそんな話を聞いた気がする。

 よく通る鈴のような声で、挨拶文をスラスラと読み上げる様子は、とても同級生には見えず、周りの男子が息を呑んでいるのが分かる。あなた、本当に六歳児ですか? じつは俺と同じとかじゃないですよね?


 その後、つつがなく入学式は終わり、教室に戻ってきた。

 担任教師の簡単な自己紹介があり、流れで生徒も一人ずつ自己紹介をすることになった。

 もっと話しかけてほしいなというメッセージを込めて「友達たくさんほしいです」と言いたかったけど、なんだか自分で言うのもどうかと思うと恥ずかしくなってしまい、結局は無難な挨拶だけになってしまった。

 そのあとは、時間割や授業に必要なものなどの説明を受けて、お昼前には下校となった。

 帰り支度をしていると、


「さ、明前様。行きますわよ!」

「うるさくてごめんね。でも、一人で生徒会室行くの緊張するでしょ。よければ一緒に行こうよ」


 銀水兄妹がやってきた。

 朝から割と雑めな対応してるはずなんだけど、全く物怖じせずに話しかけてくるメンタルはすごいな。

 そして、この子ら以外のクラスメイトは休憩時間とかも全く話しかけに来てくれなかったのはなんで? 俺もしかして嫌われてる? やっぱりきちんと自己紹介でアピールするべきだったか。


「明前くんは入学前から注目されていたからね。きっと、みんなどう話しかけたらいいのか分からないんだよ」

「俺の心を読まないでください」


 君の能力はいつからエスパーになったんだよ。

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