第13話
あの後、昇降口で貼り出されているクラス分けの掲示を確認し、俺たちは付添の保護者と一旦別れる。新入生は、一度自分たちのクラスに集合してから担任教師に誘導されて会場へ行くのだが、保護者は直接式典会場へ向かうことになっている。
ちなみに、母様は残念ながら今日は大事をとって病室で待機している。無理して体調が悪化しても申し訳ないから仕方ない。危機は去ったとはいえ、体力は落ちているしね。それに、父様が動画を撮っておいて後で上映会をやるらしいので、それを楽しみに待っているそうだ。うちの家族仲良いな。
さて、肝心のクラス分けだが、希空とは違うクラスだった。やったぜ!
しかし、喜ぶのも束の間、どちらかというと希空よりも接触を避けたい奴らの名前が同じクラスの名簿に記載されていることに気づく。
銀水亜梨沙(ぎんすい ありさ)と義弥(よしや)。
双子の兄妹だ。
彼女らもまた、「のノア」に登場するメインキャラである。大企業に生まれ、能力と容姿から「最強の双子」と作中呼ばれていた。
いや、双子って普通クラス別にならない? ゲームの世界だから?
片方だけならともかく、よりによって両方ともとは。参ったなあ。
教室行くの嫌だなあとか思いつつ、希空と他愛のない話をしながら一年の教室がある区画へ向かう。
途中、トイレがあったので、せっかくだから寄っておこうかな。
「雨林院さん、俺お手洗いによっていくから」
「そうですか? では、ごきげんよう明前様。また後で」
「うん。……うん?」
また後で?
ああ、そうだ。入学式の後、生徒会に選別された新入生の顔合わせがあるのだった。
憂鬱だなあ。
用を足してから、トボトボと教室へ向かう。
それにしても、希空と一緒の時もだが、すごい遠巻きに見られている。俺を見ながらヒソヒソと話している。
珍獣かな?
冗談はさておき、おそらく将来の生徒会役員である俺のことを興味半分恐怖半分で、見ているのだろう。
話しかけてくれないかなあ。俺から話しかけると、きっとびっくりされてしまうと思うと、勇気が出ない。
溜息をつきながら、自分の教室に入る。途端、しんと静まり返る。
え、何。
「来ましたわね」
え、誰。
教室の真ん中辺りで話をしていた金髪の美少女が、ツカツカとこちらへやってくる。
うわ、本物の金髪だ。ウェーブがかかっているそれは、艶があり、よく手入れされているのが一眼でわかる。眼も澄み渡る空のように青く、まるで本物のお姫様のようだ。
思わず見惚れてしまうが、
「明前咲也さん! あなたをこの銀水亜梨沙の仲間にしてあげますわ!」
彼女の言葉で我に帰る。
目の前まで近づいて、金髪碧眼の少女、銀水亜梨沙はこちらを指差して言った。
人のことを指さしたらだめよ。
どうしてこう、接点を持ちたくない奴に限って向こうからやってくるんだ。
とりあえず、彼女の誘いは断る。
「いや結構です」
「へ!? なぜですの!」
「初対面なんですし、そう言われてもすぐに分かりましたと返事はできないですよ」
そう言って、自分の机に向かう。後ろから「このわたくしが誘っているのに!」と喚く声が聞こえるが、聞かなかったことにしよう。
途中、今度は金髪碧眼の美男子に声をかけられる。
「やあ、明前くん。初めまして。僕はあのごめんの兄で、銀水義弥。妹が急にごめんね」
「初めまして。明前咲也です。別に気にしてないので、大丈夫です」
「それならよかった。ねえ、聞いてもいいかい? なぜ妹の誘いを断ったの? ああ見えて、あの子も見た目は悪くないと思うんだけど」
「いや……」
いや、別に容姿で仲良くする人を決めてるわけじゃないし。ゴテゴテのお嬢様を相手するの疲れそうだし。
それに、原作の亜梨沙は性格がアレだったしなあ。きっと、俺に話しかけてきたのも、明前家の家格だけを見て、自分が仲良くするのに相応しいと思ったからだろう。
「まあ、亜梨沙はたしかにちょっとアレだけど、根はいい子なんだ。せっかく同じ生徒会選別メンバーなんだし、仲良くできると嬉しいな」
義弥は爽やかな笑みを浮かべる。周りにいた女子はうっとりその顔に見惚れているが、裏のありそうな笑顔だ。俺は騙されない。
「裏なんてないよ。少なくとも僕は、本当に明前くんと仲良くしたいと思ってるからね」
ちょっと、俺の考えを読むな!
義弥って、こんな胡散臭い奴だったのか。というか、希空もそうだが本当に六歳児か? 亜梨沙が、年相応に生意気なクソガキという感じに見えてくるな。おっとクソガキとは失礼だったかな。
銀水家は、古くから貿易関係で成功を収めてきた企業である。会社の規模こそ明前家や雨林院家に一歩及ばないものの、利益額だけみればそれらを抑え日本トップクラスの成績を誇っている。
銀水兄妹は、現会長の跡取り息子と取引相手の海外大手企業の令嬢との間に生まれた子だ。
原作において、妹の亜梨沙の方はわがまま放題で選民思想の強い、まさに女版咲也といっても過言ではないようなキャラとして登場する。プライドが高く、変なところで高潔だから、嫌がらせ等はしてこなかったが、序盤では事あるごとに庶民の静樹を見下してきて鬱陶しかった印象が強い。だから、あまり絡みたくないんだよなあ。
一方、兄の義弥は、スラリと高い身長に金髪、さらには儚げな雰囲気の美少年というルックスから、「玲明の王子」と呼ばれ、女子生徒から絶大な人気を誇るキャラとして登場する。
妹と違い、選民思想もそこまで強くないため、割と序盤から静樹の仲間としてパーティに加入してくれる。でもどことない腹黒さの見えるイベントがちらほらあって、こっちもこっちであまり絡みたくはない。
ちなみに、この双子の能力は対になっていて、亜梨沙が「氷」、義弥が「炎」の能力だったはずだ。
俺は、荷物を置きたいと話を切り上げて、自分の席に逃げる。
しかし、
「たしかにあなたの言う通り、互いを知ることは必要ですわね! 生徒会の顔合わせが終わったらお茶でもいかが?」
「明前くん、ごめん。亜梨沙は諦めが悪いんだよ。観念した方がいいよ」
今度は、双子に回り込まれてしまった。
逃げられそうになかった。
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