第11話

 原作「のノア」は、主人公の橘静樹が特待生として玲明学園高等部に入学するところから始まる。

 玲明は、将来この国の主要な企業を継ぐであろう子たちが通うこともあり、セキュリティ関係にはかなり気を遣っている。頭が良ければ誰だって入学出来る場所ではないのだ。

 受験に際しては、身辺調査が入る上、家柄や生徒の資質などの条件を満たしていないと入学は認められない。

 一般家庭で育った静樹は、頭の良さに加えて、「未来予知」という非常に珍しい能力持ちだったことで、特待生としての入学が許されたという設定だった。


 合格発表があり、玲明への入学が決まった夜、静樹は「玲明の制服を着た女の子が殺されている」夢を見て飛び起きる。


 彼の能力は、その時点ではまだ不完全で、予知を見るタイミングもランダムだし、その内容も靄がかかったようで、鮮明に見ることは出来なかった。

 だから、単なる夢であればいいと思っていたのだが、殺されていた子が胸につけていたバッジが「生徒会役員」のものであったことが入学してから分かり、自分が知り得ない情報の入ったそれが、未来を映した予知夢だったのではと考えるようになる。

 以降、静樹は死ぬのが一体誰なのかを突き止め、その運命を回避させるために行動を開始する。

 しかし、外部生で庶民でありながら成績トップクラスの静樹は周りからよく思われておらず、咲也をはじめとした内部生の嫌がらせを受けたり、学内で起こる「とある事件」に巻き込まれたりしてしまうのだ。

 その解決に奔走していく中で、生徒会メンバーとも関わるようになり、なぜ予知夢に出てきた子は死ぬことになるのか、事故なのか他殺なのか、少しずつ真相に近づいていくというのが、大まかなメインストーリーの流れとなっている。


 そして、静樹が夢で見た「未来で殺されている女の子」とういうのが、雨林院希空なのだ。


 ちなみに、希空を殺すのは、この俺だ。……信じたくないけど、俺なんですよ。


 つまり、真冬の思惑により咲也が希空を殺したところを静樹は予知したわけだ。

 真冬が希空の死を望む理由は、「嫉妬」である。

 雨林院希空は「光」の能力を持つのに対し、妹の真冬は「影」の能力を持っている。正直、ゲームでの性能とかを見れば「影」の方が圧倒的に便利で使いやすい能力なのだが、「光」の能力の方が、大企業の令嬢の能力に相応しいと言う考えが世間には多かったのだ。

 結果、真冬は幼い頃から姉とずっと比較され続けることとなり、性格は内向的に、そして人格も少しずつ歪んでいってしまった。

 希空自身の容姿や人柄もまさに「光」を体現しているため、内向的になっていく真冬は格好の比較対象だったことだろう。いや、容姿は真冬も同じくらい可愛いんだけどね。

 そうして歪んだ彼女は、姉のことがたまらなく疎ましいと思うようになり、「影」の能力を使って間接的に姉のことを殺そうと動き始めるのだ。


 考えを整理しよう。

 玲明での俺の立ち位置は、とにかく敵を作らないように動き、生徒会メンバーとの接触は最小限にすること。

 しかし、雨林院真冬とだけは、なるべく早い段階で接触すること。

 彼女との接触については、そこまで難しいことではないはずだ。真冬も姉と同様に生徒会メンバーに選別されるから、一年だけ大人しく待っていればいい。

 初等部に生徒会はないが、将来加入するメンバーとして、選別された生徒は生徒会室への入室が許可されており、初等部からそこで過ごす子も多い。そこを狙って話しかける。

 全ては、彼女の闇落ちをなんとかして阻止するためだ。

 裏で動かれて、知らずに変なことさせられるのはごめんだし。俺は自分が死ぬのはもちろん、誰かを殺すのも勘弁ですよ。


 それに、闇落ちを回避させたい理由は他にもある。

 原作には、静樹の予知通りに希空が死んでしまうバッドエンドがある。そのルートに入ると、憔悴した様子で真冬が現れるイベントがあるのだ。

 これを見て、本当は、心から姉の死なんて望んではいなかったのではないかと、俺は思うのだ。

 自分を姉と比べ馬鹿にした者たちを見返したかったのか、姉に何がで勝るものが欲しかったのか、真相は誰にもわからない。増して、ゲームのキャラだ。制作陣もそこまで考えて作り込んでいるかは怪しいものである。

 しかし、そのイベントの雨林院真冬からは、誰かに認めてもらいたかったのが、どうしてこんなことになったのか、という悔恨のようなものを感じた。

 それは、ずっと病室から出ることができず、何も残すことができないまま家族を遺してきてしまった俺には、色々と思うところがある。

 原作でも、推しが真冬だったのは、そうしたところで感情移入してしまっていたからなのかもしれない。

 ともかく。

 俺は彼女に「君は必要な存在だ」ということをできれば伝えたいのだ。周りが姉と比較して妹を笑うなら、俺がその分そんなことはないと言ってあげたい。

 というわけで、平穏無事に生活していくためにできることをしていこう。

 彼女が闇落ちしたら死まで一直線なのだから

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