第10話
あれから数日。
明日が玲明学園の入学式である。
ついにきてしまった。
原作でこの先起こる展開を知っているならば、死を回避するために、別の学校に進学するのが最善の行動なのだろうと思う。しかしながら、前世の記憶が戻った時にはもう入学手続が終わっていた上、家族全員俺が玲明に通うのを当然と考えているのを目の当たりにしたら、とてもではないけど「入学やーめた」なんて言える雰囲気ではなかったのです。
「俺、玲明に入学すると高等部で死ぬんですよ」なんて言った暁には、別の意味で心配される。
となると、どうやって咲也にとってのバッドエンド、つまり死を回避すればいいだろう。
玲明は初等部から大学まで一貫校なので、きっとこのままエスカレーター式に大学まで進学することになる。
原作の舞台となるのは高等部なので、現時点での目標は、大学へ無事に進学することである。
その方法として、まず必要なのが、ヒロインなど原作の登場人物を徹底的に避けること。
関わり合いにならなければ、そもそも殺される謂れもないはずだ。
しかし、それにあたって問題が二つ。
一つ目は、生徒会の存在だ。
玲明は、通う子たちが軒並み財閥の子息令嬢であり、その生徒の親たちの莫大な寄付金によって高い教育水準や校内設備が維持されている。
それだけでも現実離れした話なのだが、加えて玲明には、初等部から在学している一部の高い家格の生徒のみが入ることを許される組織がある。
それが、「生徒会」なのだ。
玲明における生徒会は、一般的な公立校のそれとは大きく異なる。生徒会メンバーは、中等部一年から各学年数人ずつ選別され、玲明の生徒として皆の模範となるよう、放課後に生徒会室での活動を行う。
まあ、活動など名目だけで、実際にはサロンのようにくつろげる空間となっている生徒会室に集まって、ゆったりとお茶を飲んだりしているだけだ。
原作でも、ヒロインや友人として登場するキャラクターからその実態について聞いた主人公が驚くイベントがある。
正直、社交界の縮図みたいであまりいい感じはしない。とはいえ、咲也も生徒会に所属して、その威光を最大限に利用して周りから恐れられたりするんだけどさ。
それはともかく。
問題は、その面子なのだ。俺たちの学年にも何人か生徒会メンバーとなる生徒がいるが、その中に原作の主要な登場人物が三人もいるのだ。この前知り合ってしまった雨林院希空もその一人である。
ゲームと同様に咲也が生徒会に選別されたら、嫌でもその三人とは関わらなければならなくなる。
嫌だなあ……。
特に、希空以外の二人とはあまり関わりたくないなあ。
さらに憂鬱なのがもう一つの問題、雨林院真冬の存在である。
彼女はストーリーにおいてはあまり目立たないのだが、あるルートでは裏ボスのような立ち位置で登場する。
全ての元凶かのように見えた咲也は、実はその行動のほとんどを彼女にうまく誘導されて起こしていたに過ぎなかったことが判明するのだ。
いや、性格も最悪で、自身の行動に悪びれもせず、主人公をはじめ数多くの生徒を危険な目に遭わせた事実は変わらないので、そんな事実が分かったところで、咲也が悪くないとはならなかったのだけど。
つまるところ、表立って行動したくない真冬にとって、自己顕示欲が強く悪名高い咲也は丁度いい駒として使えたのだ。
そこで、彼女はうまいこと自分の望む展開になるよう、咲也を動かしていたのである。
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