第7話
数日後、俺は姉様と、都内にある仕立て屋を訪れていた。
もう一週間後には玲明学園初等部の入学式がある。玲明は、国内でも随一のお金持ち学校であり、当然ながら生徒も企業の御曹司や令嬢が多い。通うこと自体がお金持ちであることの証左でもある、特殊な学校だ。
だからなのか、制服も学園指定の仕立て屋で直接仕立ててもらうことになっている。なお、その仕立て屋も、このお店のような高級店ばかりだ。
姉様が同行している理由だが、この後仕事から中抜けしてくる予定の父様と合流して、母様のお見舞い兼治療に行くためだ。
仕立て自体は俺と父様の二人で行く予定だったので、わざわざついてきてもらうのも悪いし、店には俺一人で行けるから姉様は後から来てくださいと伝えたのだが、「私も一緒に行く」と言われてしまったら、これ以上は断れなかった。
とはいえ、俺はまだ全裸事件のダメージを少し引きずっているし、姉様もなんだか朝からソワソワしている。
「……」
つまるところ、気まずいです。
この前の件については、能力が発現した日に、身体が動くようになってから姉様の部屋へ行き、見苦しいものを見せたことへの謝罪を済ませている。姉様も、自分も言い過ぎたと謝ってくれたし、一旦はこれでチャラになったはずなのだけど。
別の何かがある?
俺、何か他にもやらかした?
いや別に全裸にはなってないしなあ。漏らしかけたことはあったけど。
と、思っていたら、姉様がおずおずと話しかけてきた。
「あの、咲也」
「何、姉様?」
「…………ありがとう」
あれ? 怒ってない?
むしろ感謝されているみたいだ。
「ほら、お母様のこと」
ああ、なるほど。
「あれは、俺ではなく、俺の能力がたまたま治癒だっただけですよ」
「それでもよ。私に能力の発現について聞きに来たのは、そのためだったのでしょう?」
それはそうだけれど。
「もしかしてだけれど、……咲也は、自分の能力が何なのか分かっていたの?」
ぎくり。
知らないよ。転生なんてしてないですよ。
「何でそう思ったのですか?」
「なんとなく、咲也は自分の能力が病気を治せるものだって分かっているのかと思ってたけれど」
「そ、そんなことありません。あの時は、母様を救うためには自分の能力に賭けるしかないと思っただけですよ」
姉様は、俺の回答に納得はしていない様子だったが、もう一度「ありがとう」とだけ言うと、これ以上は追及せず、窓の外に視線を逸らした。
危ねえー!
さすがに前世やゲームの話なんて言えないし、誤魔化すしかない。あまり追及されなくてよかったが、何かを隠しているのは分かったらしい姉様は、窓の外を見ながら頬を膨らませて拗ねていた。
おいおい、天使か。
じゃない。俺は残り店に着くまでの間、姉様のご機嫌どりに務めたのだった。
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