第6話
結果から言うと、俺の能力を使って母様の病気を治癒することは成功した。しかしながら、やはり発現したばかりの能力ということもあり、完治とまではいかなかった。ゲーム的な表現をするなら、レベルが足りなかったというわけだ。
それでも、自宅での緩和ケアから病院に移って医師の管理下での治療に切り替わったので、一安心ということは出来そうだ。
当面は、俺が父同伴の元、病院へ通って能力を使うことになっている。
俺の能力を使うなら自宅の方がいいのではとも思ったが、病院の方が医師がすぐ駆けつけられるし、何より能力によって難病が治癒したケースの経過観察はきちんとしたいらしい。
というのも、かかりつけ医によれば俺の能力は大変珍しいものらしく、だからどのように体内の病が無力化されているのか興味深いという。
たしかに、治癒能力者がはびこれば医師という職業は必要なくなってしまう。
そうなっていないということは、つまり俺のような能力を持つ者は稀であるというわけだ。たしかに、原作でも治癒を使えるキャラはほとんどいなかった。
というか、割とその辺トントン拍子に進んだのは、ここがゲームの世界だからなのか、それとも、明前グループの力なのか。後者だったら怖いけど。
「…………」
あらためて、ホッとする。
母様が、命の危機から脱して本当に良かった。ゲームとはいえ、一人の人間の運命を無理やりねじ曲げてしまったことにもなるのだが、それでも、俺は家族が死ぬところを見たくなかった。
もちろん、自分の平穏な生活のためでもあるけどね。
それにしても、母様の病院が治癒できたと知った時の父様の顔はすごかった。普段の仏頂面が嘘のように、顔をぐしゃりと歪めて「よかった……」と男泣きする様は、申し訳ないが逆に怖かった。
お医者様も少し顔が引き攣っていた。
そんな父に俺は痛いくらいに抱きしめられて、気恥ずかしいやらホッとしたやらといったところだ。
さすがにこれ以上仕事に穴はあけられないと、仕事に戻っていってしまったが、本当に母様のことが好きなんだなあと感じる。俺と同じように大企業の御曹司として生まれたであろう父様が、母様と恋愛結婚をしたらしいことはなんとなく知っていた。
「…………」
俺も、そんな風に誰かを好きになることができるのだろうか。今は平穏に高校生活を乗り切ることが第一だが。
でも、ゲームの舞台でもある玲明学園高等部において、ヒロインは軒並み主人公を好きになるし、咲也を敵視して嫌ってるんだよなあ。
友達すらできるか危ういレベルだ。
欲しいなあ、友達。
「…………」
しかし、暇である。
自室のベッドに横になってもうどのくらいになるだろうか。
実は、能力を使うと、俗にいうマジックポイントとでも言おうか、それが減って身体が疲弊するらしく、母様の病気を癒した後、俺は倒れて動けなくなってしまったのだ。
これが、能力者として未熟だからこうなるのか、能力を使う代償のようなものなのかは、これから検証しないといけないが、無闇に使えないのは中々不便だ。
頭は中途半端に冴えているから、眠ることもできず、困っていた。
助長抜きに指一本動かせないので、真っ白の天井を見ていることしかできない。
仕方ない。
今後の作戦を立てながら身体の回復を待つことにしよう。
「…………」
あ、どうしよう。
これ、トイレに行きたくなったらどうすればいいんだろう……?
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