第8話
到着した仕立て屋は、海外へ渡り現地の大手ブランドで修行をした一代目が開業し、現在は三代目が店を継いで切り盛りしている。
職人気質で堅実な仕事をするため、父様のスーツもオーダーメイドでここで仕立ててもらっている。学園指定の店ではあるが、明前家御用達のお店でもあるのだ。
店の前で父様と無事合流し、中に入ると、顔見知りなのだろう、店主らしきおじさんが父様に挨拶にやってきた。
「これは明前様、いつもお世話になっております」
「ああ、今日は息子の制服の採寸をよろしく頼む」
「ええ、玲明でしたね。御子息は明前様に似て身体のバランスがよろしいですから、きっと制服もよくお似合いになりますよ」
え!? ほんとに?
俺って身体のバランスいいの? 足がスラリと長くなってくれると嬉しい。
「それは楽しみだな」
俺もです。
元々顔のパーツも整っている方だと思うし、原作絵でもだとビジュアル「だけ」はいいからな。平穏無事に過ごしていれば、この世界では青春を謳歌出来るだろうか。あまり目立つ行動はとりたくないが、彼女と下校時に寄り道したりとかしてみたいなあ。
自分の成長が待ち遠しい。
なんてニマニマしていると、
「ところで明前様。せっかくお越しいただいたところ、大変申し訳ありませんが、実は先客の採寸が思ったより長引いておりまして、少しお待ちいただくかもしれません」
おじさんの言葉に首を傾げる。
先客? たしかに、店の奥に親子だろうか、女性と女の子が並んで店員さんと話をしている。
この時期に採寸。まさか同じ玲明学園の入学生とかだろうか。
何か嫌な予感がよぎるんだけど、これは考え過ぎか?
でもこういう予感って大体合ってたりするんだよなあ。
「あら、明前様ではありませんか」
「雨林院様、いつもお世話になっております。この前の周年記念パーティー依頼ですか」
店の奥の方にいた二人のうち、母親らしき女性の方がこちらに気づき、父様に挨拶にやってきた。
げ。
雨林院。
この苗字には聞き覚えがあるぞ。
「ええ。……あら? そういえば明前様も御子息が今年玲明に入学でしたわね。ごきげんよう、お父様に似て利発そうな子ですわね」
当然、横にいた俺の存在にも気づいた夫人が、嬉しそうに声をかけてきたので、挨拶を返す。
「明前咲也と申します、雨林院様。いつも父がお世話になっております」
「あら! まだ小さいのにしっかりしてらっしゃるのね。うちの娘にも見習って欲しいですわ」
「そういえば、雨林院様も上の御令嬢が今年玲明に入学でしたね。このとおり、大人しい子ですから、是非うちの咲也と仲良くしていただけると助かります」
父様、余計なことを!
というか、誰が大人しいのだ。内気な子供が全裸でベランダにいたりするか?
「こちらこそ、是非お願いしますわね。そうですわ! せっかく同い年なのですもの。入学前に少しでも仲良くなっていただきたいわ。今呼んできますわね。……ねえ、希空さん、こちらにいらして? 玲明学園に今年ご入学される明前家の咲也さんよ」
雨林院夫人は、店の奥から娘と思しき女の子を呼び寄せ、横に立たせた。
「雨林院希空です。六歳です」
「……明前咲也です。同い年、よろしく」
手入れの行き届いた長く黒い髪、顔は子役モデルかと思うほど小さく、それぞれのパーツも整っており、取り巻く空気がキラキラと輝いている。
雨林院希空(うりんいん のあ)。
原作「のノア」において、メインヒロインとして登場し、主人公と一緒に咲也と対峙することになる女の子であり、また原作のストーリーの根幹となる存在だ。
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