第3話

 そうと決まれば、行動あるのみだ。さて、上手いこと能力を発現させるにはどうすればいいだろう。

 ふと、真っ先に浮かんだ案は、すでに能力が発現している人から話を聞くことだ。

 二つ上の姉、明前輝夜(めいぜん かぐや)は、今年初等部三年生になる明前家の長女である。当然のように能力者であり、原作の咲也同様に初等部入学前後に発現している。

 やはりこういう時に頼りになるのは経験者だ。当時のことを聞くことで、参考になることがあるかもしれない。何事も先人にならえだ。

 というわけで、さっそく姉の部屋を訪ねてみた。


「姉様、入っていい?」

「どうぞ」


 ノックするとすぐに返事があるが、母様が病で臥せっているからだろう、どことなく声に覇気がない。あまり長居しないようにした方がいいだろうか。

 そんなことを考えながら中に入る。

 室内は、白系統の家具で統一されており、レイアウトを考えた人のセンスの良さが光っている。

 女の子らしく、ベットにはぬいぐるみも並んでいるが、どれもビッグサイズのものばかりだ。それでもベッドのほんの一部分しか占領していない。

 そんな、小学校低学年の女の子が使うには大きすぎるベッドに姉様は座って、こちらに顔を向けていた。

 前世では兄弟なんていなかったし、同年代の女友達だって殆どいなかったから、なんだか落ち着かない。


 明前輝夜は、見た目も家柄も完璧な、まさにゲームに出てくるような社長令嬢だ。

 サラサラの長い髪を靡かせ、凛とした様は幼いながらも周りの目を惹くことだろう。

 ……咲也も顔だけは綺麗なんだけどなあ。

 そんな姉様は、物体を見たり触れることで構造や構成物質を理解できる「分析」という能力を持っている。

 ただ、これはこの世界で姉様から直接聞いた情報だ。


 というのも、姉様は原作に登場しないのだ。


 だから、前世の記憶が戻った時、咲也に姉がいるなんて思いもしなかった俺は、姉様の存在を知って滅茶苦茶驚いた。原作でも存在を匂わせる台詞とかもなかったはずだ。

 何より、家に見知らぬ美少女がいたら、誰だってビビるでしょうよ!

 姉様は、母様に似て、選民思想をあまり持っていないように見える。

 もしかすると、原作で出てこなかったのは、選民思想の塊だった咲也に嫌気がさして、距離を置いていたからなのかもしれない。

 幸い、今のところはまだ関係良好のはずだ。

 事実、目の前にやってきた姉様は、俺が母様が倒れたことにショックを受けて寝込んだものと勘違いして、心配そうな表情を向けてくれていた。


「咲也、熱は大丈夫?」

「はい、おかげさまで」

「よかったわ。それで、どうしたの?」

「実は、姉様に能力が発現した時のことを知りたくて」

「あら、それは一体どうして?」


 う、理由か。俺の能力で母様を治せるから早く発現させたいなんて言えるわけもない。


「わかりません!」

「ええ……?」


 姉様は困惑していたが、子供なんだし、もうゴリ押ししましょう。


「俺にも能力が発現するのかもと思うと、少し不安になったから、その時のことを聞いてみようと思って。ねえ、いいでしょう。教えて姉様!」


 それらしい言い訳を思いついたので、それでさらに頼み込んでみる。

 姉様は少し考え込んでいたが、やがて、首を縦に振ってくれた。


「ええと、私の場合、きっかけのようなものはなかったと思うわ。朝起きたら、手に取った時計の構造が瞬時に頭の中に流れ込んできて、それで自分に能力が発現したと気づいたのよ」

「へえー」

「不安なのは分かるけれど、痛いとか、そういうのはないから。気長にその時を待っていればいいのだと思うわ」


 姉様の言葉に俺は頷く。

 やはりきっかけなんてものはないか。部屋にあった本を読む限り、殆どの者は、能力の発現にあたって、きっかけなんてものはなく、気づいたら使えたくらいのレベル感で目覚めるらしいし。

 一般的な認識としても、そんなものなのだろう。

 と、思っていたが、姉様の話には続きがあった。


「でも、友達には、能力に関連するきっかけがあって発現した子もいた、かしら」

「能力に関係のあること……」

「たとえば、キャンプ場でボヤがあった時、すぐに水が用意出来ずに困っていたら、水を生成する能力が突如発現して、火を消すことができたという子がいたわ」

「へえー」


 きっかけ、ねえ。

 ……あれ、これまさに俺の前世が関係ある能力では?

 もう少し前世を思い出してみることで、何か掴めるかもしれない。部屋でゆっくり横になって考えてみよう。

 俺は、考え事を寝ながらするタイプだ。


「姉様、ありがとう」

「いいえ、役に立てたかしら?」

「はい。では俺は部屋で寝ます!」

「ええ……え、寝るの?!」


 俺は姉様の部屋を後にした。扉を閉める間際、ぼそっと姉様の呟きが耳に入る。


「咲也、何か人が変わったみたいね。そういう遊び? それとも、熱で頭が変になってしまったのかしら……」


 失礼な。俺は真面目で謙虚に生きることにしたのです。

 というか、六歳の時から咲也って生意気なクソガキだったのだろうか。うわあ、やだやだ。

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