天河に秘めたる ~奏琶国烈女伝~

五十鈴りく

第1部

序章

 今は昔、この奏琶国そうわこくの歴史の中で語り継がれる女性たちがいた。


 男社会の中、女性が名を残すのは並大抵のことではない。

 一人は、奏琶国の礎となったちょう貴妃。


 容色に優れるはもちろんのこと、彼女が爪弾く琵琶の音色は誰もを魅了してやまなかった。外交においても遺憾なく力を発揮し、弱国と侮られがちだった国が近隣国から一目置かれることになったのはこの妃の功績である。それ故、名を奏琶国と改めたという。


 趙貴妃は死後も神仙のように崇められ、真偽のほどが怪しい逸話も多く残っている。


 その後、百年余り。

 第五代皇帝の母堂、ふう皇后。


 彼女は子を十一人も産み、そのうちの十人が公主こうしゅ(姫)であった。その十人の公主たちは美しいばかりか聡く、半数は国内の重臣、半数は国外の王族に嫁した。十人の公主は母の教え通り、調和を好み、夫を巧みに操った。五代目皇帝の治世が三十年に渡り戦知らずであったのは、皇太后と十人の公主によるところが大きいとされる。

 そして――。


 第十一代皇帝の御世。

 国が傾きかけたその時に、戦地に身を投じた一人の少女がいた。

 年若くして武術に優れ、馬をよく操り、八面六臂の活躍をしたとされる。


 それこそが、後に烈女と語り継がれる娘である。

 その名は――。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る