Tigran Hamasyan "The Call Within"
"The Call Within"は、アルメニアのジャズピアニスト、Tigran Hamasyanの9thアルバム。
Spottifyのアドレスはこちら。
https://open.spotify.com/intl-ja/album/1KnvMsGgQMeB24GK75i2GL
[Spotify - Tigran Hamasyan "The Call Within"]
私はジャズは嫌いではないが、あまりアルバムは買わないし、詳しくもない。ジャズは即興性こそに本質があって、演奏されたその場にいることが重要な音楽、という側面が強いと私は思っている。たまたま通りがかった道端とかで、知らないバンドが知らない曲をやっているのを聴くことこそ、私にとっての「ジャズ」である。
録音で聴くジャズは、当たり前だが毎回演奏が同じなので、本当の意味でジャズとは言わない、と私は思う。
ジャズの本質は即興演奏だが、録音で聴くジャズにはある程度の構成美が必要だ、というのが私の持論。ダラダラと発展性のないソロを延々聞かされるのは、その場にいればアツいだろうが、録音として聴くとダレてしまう。そういうこともあって、私は録音のジャズはあまり聴かないし、詳しくもない。マイルス・デイヴィスとかアート・ブレイキーとかも、よく知らなかったりする。
じゃあなんでジャズのアルバムなんか買ったのか、というと、Youtubeでこのアルバムに収録されている"Lavitation 21"を聴いたから。
https://www.youtube.com/watch?v=Db3dHajCRRY
[Youtube - Tigran Hamasyan - Levitation 21 (Official Video)]
聴けばわかる。この曲はプログレである。ジャズじゃない。
プログレ好きはもちろんのこと、ゲーム音楽が好きな人にも刺さる曲だと思う。聴けば「ゲーム音楽じゃん!」と思うこと間違いなし。
この曲がプログレだというのは、21拍子の曲だから、ではない。そうではなく、曲の構成がきっちりしていることがジャズらしくなく、プログレらしいところ。
この曲の構成には無駄がない。各パートがそれぞれ別のリズムを刻むポリリズムで作られていて、全体のリズムはずっと21拍子だが、どのパートがリズムを主導するかによって、然るべきタイミングで4拍子メインから3拍子メインへと自在にリズムの印象を変化させている。演奏者は精密機械のように複雑なフレーズを正確に演奏し、その重なりが完璧に曲を作り上げている。ブレイクやキメ、コーラスパート、ソロパートの入り方も完璧で、このタイミング以外にあり得ないジャストなタイミングでジャストな尺だけ入る。
ジャズはきっちりと構成を固めない。ジャズが重視するのは即興性で、その場のノリでいくらでも曲が変わってもいいように作られる。
最初にテーマが提示され、そのテーマからインスピレーションを得て、演奏者がその場で音楽を作り上げていくところにカタルシスがある。
この曲はそうじゃない。スタジオ音源の時点で完璧に作られている。これは、聴けばわかってもらえると思う。この曲には1小節の無駄もない。
しかし、そのタイト過ぎる構成は、ジャズ向きではない。アドリブの余地がないからである。
実際、この曲のライブバージョンがいくつかYoutubeにあがっているのだが、それを聴くと、アドリブをぶっこんだせいで曲構成が崩れてダメになっていることがわかると思う。
これは"The Mars Volta"のライブ演奏がいまいちと言われる理由と似ている。"The Mars Volta"も、スタジオ版でかなり構成を緻密に作り上げていることが仇となり、ライブでアドリブを入れすぎて曲が空中分解していることがよくある。
プログレは、ライブでアルバムの演奏を完全再現すると喜ばれるが、それは、アルバム版の構成が完成されており、それこそがその曲の理想形となっている場合がしばしばあるため。
一方、ジャズは、スタジオ版とは全然違う演奏をする方が喜ばれる。
プログレとジャズはお互いに影響し合っているが、決定的なところでは相容れない部分もあるわけである。
というわけで"Lavitation 21"は、ジャズとしてはどうかと思うが、プログレとしては非常においしい。
このアルバムに収録されている曲の多くはこの系統で、ジャズ風味のプログレとなっている。ジャズ要素はあくまで風味だけで、即興で下手に曲構成をいじったら崩壊するような曲ばかり並ぶ。
"Voltex"に至っては、ディストーションギターが使われている。こうなると誰がどう聴いても完全にプログレである。
https://www.youtube.com/watch?v=VdoyOrZdl3Y
[Youtube - Vortex (feat. Tosin Abasi)]
というか、このギタリスト、Toshin Abasiだったのね。インストプログレメタルバンド、Animals as Leadersのバンドリーダーである。
ついでなのでAnimals as Leadersの方も1曲紹介しておく。
https://www.youtube.com/watch?v=q0ZrF7taMHA
[Youtube - Animals As Leaders "CAFO" official music video]
本当はこのアルバムの曲なら私は"On Impulse"という曲のほうが好きなのだが、Youtubeにオフィシャルの音源がなかった。
本来のターゲットであるはずのジャズリスナーがこのアルバムをどう評価しているかは知らないが、明らかにジャズリスナー向きの曲ではない気がする。どう考えてもこれは鍵盤プログレ好きが聴くべきものだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます