電子書籍版『ゴルゴ13』1~55巻 購入

『ゴルゴ13』の電子書籍が1~55巻まで各55円というセールをやっていたので購入した。


 私が持っている『ゴルゴ13』の本は、その大半がコンビニで売っている廉価本。『ゴルゴ13』の単行本は、分厚いこともあって、背の糊が剥がれてページがバラバラになりやすい。また、どの本に何のエピソードが収録されているかもわかりにくい。

 コンビニ本は単行本よりも丈夫でページが分離しにくく、テーマごとに似たような作品を収録しているから、読みたいエピソードを探しやすい。


 というわけで、私は基本的にコンビニ本を優先して購入し、コンビニ本で見つからないが読んでみたいエピソードがあるときだけ単行本を買っている。



 1~55巻までで、私がすでに持っていたのは4冊。38巻「鬼畜の宴」、39巻「軌道上狙撃」、51巻「毛沢東の遺言」、52巻「沸騰・第四帝国」。

 ただ、55巻までのエピソードの大半は持っているコンビニ本に収録されていた。未読エピソードは20くらい。



 読んでいてちょっと気になったのは、5巻収録の「飢餓共和国」。冒頭で、台風が接近する中、ゴルゴと白人女がセスナに乗ろうとするのだが、黒人の先客がいるのを見て、女は、金を払うからこいつらを降ろせと言い出す。それに対してゴルゴは、台風が接近してるんだから早く飛ぼうと言う。そこで白人女は「あなた……こんな人たちと同席でもなんとも……」とゴルゴに言うと、ゴルゴは「あんたにそんなことを、言う権利があるのか……」と返している。


 私は「飢餓共和国」の収録された本は持っていないが、以前どこかで読んだことはある。私の記憶によると、ここのセリフは、元は違っていたような気がする。確か、「お前は白で、俺は黄。色とりどりでいいじゃないか」みたいな感じだった。記憶違いでなければ、ここは自主規制でセリフを変えたと思われる。

 変えるのは仕方ないとして(変える必要のない箇所だとは思うが)、意味の通るセリフにして欲しい。ここで女はゴルゴに対して「あなたは黒人と同席して平気なのか」と訊いている。それに対して「そんなことを言う権利があるのか」では会話が成立していない。せめて「同乗者が誰であろうと、俺にとっては関係のないことだ」とか、そういうニュアンスのセリフにしておかないとダメだろう。



 未読エピソードの大半は、さほど重要な作品ではなかったが、いくつか注目すべきものもあった。


 まずは、3巻の「ベイルートVIA」と「最後の間諜・虫」。

 話自体は特に言及するほどの内容はないが、このエピソードではおそらく初めて、他のエピソードに登場したキャラクターが再登場している。特にMI6のヒュームやCIAのフーバー、「狙撃のGT」で登場した調達屋が出てくる点で重要。



 次に30巻「氷結海峡」。

 このエピソードが重要なのは、ゴルゴファンの間でぶっちぎりのワースト1エピソードだそうだから。

 その理由は、ゴルゴがターゲットを始末するために、ターゲットの彼女を拉致ってレイプし、その音声を録音して、それをエサにターゲットをおびき寄せる手段を採ったため。あまりに卑怯だということである。


 私は、このエピソードにおけるゴルゴの手口が卑怯かどうかは考えなかった。ゴルゴが卑怯なのはいつものことだし、女性の扱いが酷いのも同様。

 卑怯云々を議論するなら、そもそも狙撃自体が卑怯だと私は思う。


 私はただ、「ゴルゴめ、ずいぶん楽に稼ぎやがったな」と思っただけだった。ブリザードの吹き荒れる北極圏を自宅の庭のように闊歩する非常識な能力を持つターゲットを、一体ゴルゴはどう始末するのか!? などとさんざん盛り上げておきながら、こんなにイージーに仕事を完遂しちゃっていいの? と。

 楽に仕事を片付ける方法があるなら、その方法を取るのは当然のことだし、そのことは批判に値しない。ただ、物語の構成としてどうなのよとは思う。


 これはゴルゴが悪いのではなく、ソ連海軍や諜報機関がちゃんと仕事をしなかったことが問題。ちょっと調べれば、ターゲットに彼女がいることは簡単にわかったし、それがわかれば彼女を拉致して脅せばよかっただけである。高い金を払ってゴルゴを雇う必要など全くない案件だった。



 36巻「おろしや間諜伝説」。

 私はゴルゴの過去に興味がない。ゴルゴの過去シリーズでよく出てくるジャーナリストのマンディ・ワシントンはいいキャラだと思うし、マンディが面白いから読むことはあるが、ゴルゴの過去そのものには全く関心がない。どうでもいいことだと思うし、なんでそんなことを知りたがる人がいるのかが全く理解できない。

 それもあって、このエピソードは読んだことがなかった。


 しかし、これはちょっと面白かった。よりにもよって日本の自衛隊が、ゴルゴを専属スナイパーとして雇おうと企てるという、あまりにも馬鹿すぎる内容だったからである。


 ゴルゴを専属として雇おうとするのは66巻「ロックフォードの野望」シリーズにもあるが、ロックフォードは世界中の企業はおろか、アメリカ大統領すらも顎で使えるという巨大財閥で、ゴルゴの銀行口座を全部凍結させたり、ゴルゴに仕事を依頼しようとする人物を片っ端から抹殺したりと、やっていることのスケールが大きくて面白い。


 そのロックフォードよりも先に、よりにもよって日本の自衛隊がゴルゴをお抱えにしようとしていたとは驚きであり、お笑いである。しかもその手段は脅迫。「お前の過去を知っているぞ」と脅したら、ゴルゴは素直に自衛隊の専属スナイパーになってくれると考えたらしい。ここまでアホだといっそ清々しい。


 このアホエピソードをさらに盛り上げるのが、ゴルゴシリーズ名物「謎の確率」。このエピソードで取り上げられているゴルゴの過去説は、確度85%くらいらしい。そして、それが95%くらいにまで高まったら、ゴルゴを脅迫するのに充分といえるほど確度の高い説になるらしい。

 この「85%くらい」というのが、何を根拠にはじき出された数字かは明らかになっていない。根拠不明な謎の数字を85%くらいから95%くらいにするために、自衛隊の人々は多大な労力と犠牲を払う。その努力は涙ぐましいものであり、滑稽でもある。むしろ笑い過ぎて涙が止まらない。


 結局、調査の過程で優秀な人材を数多く失ったものの、謎の確率を95%くらいにすることはできずじまいで終わっているが、ならなくて良かったと心底思う。もし95%くらいになっていたら、日本はゴルゴのすさまじい報復の嵐に曝されることになっただろう。……いや、もしかすると、報復によって馬鹿が一掃されたほうが日本にとっては良かったのか?



 私は今回初めて、ほぼ発表順に『ゴルゴ13』を読んだ。こうして読むと、このシリーズの変遷が見えて面白い。


 最初期のゴルゴは、ちゃんと漫画の主人公らしいことをしている。敵にも味方にもあまり敬意を払われていないし、ほぼ毎回依頼人に裏切られている。仕事を果たすのに相応の苦労をしているし、予想外の出来事に翻弄されたり、すぐ裏切られたり殺されそうになったりしている。油断してピンチに陥ることもある。


 今のゴルゴはもはや神格化されており、ちょっと無言で睨まれただけで依頼人は恐れ慄き、狙われたことを知った時点でターゲットがすべての抵抗を諦めてしまうこともあるくらい、もはや人間にはどうしようもできない存在と化している。

 苦境に陥ることはほぼないし、たまにピンチらしき状況に陥っても、だいたい事前に何か対策していたり、なくてもアドリブであっさり切り抜ける。読者も「どうせ切り抜けるんだろ」と思うだけで、何も緊張感がない。


 今のゴルゴは、ゴルゴ自身がどうやって仕事を果たすのかよりも、誰がどこでゴルゴという最終兵器を持ち出すのか、ゴルゴに狙われた人々がどう足掻くのか、といった方に焦点が当たる方がずっと面白くなっている。

 ゴルゴというジョーカーを用いたババ抜きみたいな感じで、ゴルゴそのものを抹殺したり、仕事を妨害するのは絶対に不可能だから、いかにしてゴルゴを相手の手札に押し付けるかが、今のゴルゴシリーズの焦点になることが多い。


 そんなデウス・エクス・マキナ化した殺人マシーンゴルゴを見慣れた目からすると、初期のゴルゴの人間臭さは衝撃である。ゴルゴも平凡な人間だったときがあったんだね。



 ゴルゴがスナイパーなのにM16を使用していることはよくネタにされるが、今回掲載順に読んで驚いたのは、最初期のゴルゴは、そもそも長距離狙撃自体をしていないことだった。

 最初期のゴルゴは、スナイパーというよりはフリーのスパイといった感じで、要するに"007"みたいなことをしている作品が多い。女スパイとイチャイチャし、敵の基地内に潜入して、至近距離から標的を殺害して逃走する。そしてイチャイチャしていた女スパイに裏切られて返り討ちにする、といった感じ。明らかに"007"の影響を感じる。


 連載が進むにつれて徐々に狙撃のお仕事が増えてくるが、この方向転換が作者の意思によるものだったのか、それとも読者に「ゴルゴってスナイパーらしいことしてなくない?」という批判を受けてそうなってきたのかはわからない。私はなんとなく後者の要因が大きい気がする。

 連載開始当初にゴルゴを「狙撃屋」としたのは、「スパイ」とか「暗殺者」とかだとありきたりだから、なにか変化球を投げたくてそういうことにしただけで、特に狙撃屋という肩書には意味はなかったのではないかと思える。


 ともかく、007気取りだったゴルゴも、そのうち本業に目覚めて狙撃をやるようになるのだが、その際にはM16ではなく、競技用銃をカスタムしたものを使用している。なぜか22口径の銃を30口径に改造するという無茶をやってはいるが。それなら最初から30口径の銃を土台にしたほうがいい気がする。あるいはいっそ、M16を30口径にするとか。……いやまあ、それなら素直にG3を使うべきか。


 余談だが、149巻「激突! AK-100 vs M-16」では、カラシニコフのそっくりさんが、ゴルゴがAK47を使わずM16を使うのはなぜだ! とか悩んでいたが、ゴルゴがAK47を使わない理由は明らかだろう。反動が強くて命中精度が低いからである。いくら扱いが楽で壊れにくくても、命中精度が低いのではゴルゴにとっては致命的。ただ、ゴルゴがAK47を使ったこと自体は、確かあったはずである。何のエピソードだったかは覚えていないが。

 G3と比較するならまだわかる。G3は命中精度が高いし、口径7.62mmだから威力も高い。1970年代にドイツはG3を土台にしてPSG-1という軍用狙撃銃を作っているくらいだから、狙撃銃へのカスタムの土台としてもぴったりである。


 ゴルゴがM16を使用することはさんざん批判されてきたから、私は最初期のゴルゴはもっと銃に関する設定がめちゃくちゃなのだろうと思っていた。しかし実際には、最初期のエピソードのM16の扱いは適切なように感じた。

 ただ、「飢餓共和国」でセリフの書き換えがあったことから考えると、銃に関する設定がオリジナルから書き換えられ、それによって適切に見えるようになっている可能性も考えられる。この点はオリジナルを読んだことのない私にはわからない。



 銃に関する設定が怪しくなってくるのは、連載最初期ではなく、もう少し後になってからのこと。特に顕著なのは42巻「海神が目覚める」で、ここでゴルゴはM16で距離1500の狙撃を行っている。この1500には単位が書かれてないが、状況から考えると1500mだろう。

 M16の有効射程は500m程度で、この銃で1500mの狙撃をするのはいくらなんでも無理がある。なぜいままでは狙撃時には競技用銃を使っていたのに、このときはM16を使ったのかは謎。

 しかしまあ、「狙撃のGT」で22口径ライフルを30口径に改造する依頼をしていたわけだから、同じ理屈でこのM16も7.62mm弾が使えるように改造されていたのかもしれない。それなら一応説明はつく。


 なお、この単位がメートルじゃない説を取るのは難しい。

 1500フィートなら450mとなり、これならM16の射程内だが、漫画で描かれている船とタンカーとの距離を目測すると、その距離を450mとするのは無理がある。タンカーを全長300mと仮定し、これを基準にざっと距離を測ると、やはり船とタンカーとの距離は約1500mなのである。

 海では距離の単位としてマイルを使うことが多いが、1マイル=1609.344mなので、1500の単位をマイルだと仮定すると余計に大変なことになる。1.5マイルだとしても2400mとなり、1500mよりも状況は悪化する。



 先にも書いたが、『ゴルゴ13』の単行本は、どの巻にどのエピソードが収録されているかがわかりにくいという問題がある。

 そのため私は『ゴルゴ13』用の索引ノートを作っている。持っている巻に収録されているエピソードの一覧と、「ヒューム卿」「監獄」「連絡方法」など、特定のタグからエピソードを検索できるように作ってあって、読みたいエピソードの収録された巻を素早く見つけられるようにしている。


 今までは巻数が少なかったので管理が楽だったが、今回は一気に51巻も増えたので、各巻のエピソードのタイトルを書き写すだけでも大変だった。さらにタグ付けと、タグから逆引きできるように紐付けを行わねばならない。

 非常に面倒くさいが、これをやらないと、特定のエピソードが読みたくなる度に、単行本を片っ端から開いては目次を調べなければならなくなる。


 どの巻にどのエピソードが収録されているかわかりにくい、という問題は出版社も認識していたようで、102巻以降は裏表紙に収録エピソードタイトルと概要が記載されるようになった。これにより、最近のゴルゴ単行本はいちいち本棚から本を取り出し、開いて目次を調べなくても良くなり、だいぶマシになった。

 しかし、電子書籍だとその配慮も意味がないし、そもそも1~55巻にはその親切設計もない。

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