そうめん
突然気温が高くなり、突然そうめんが食いたくなった。
こういう日がいつか来ることを予想して、私は2月の内からそうめんを買っておいた。暑くなると必ず発作的に食いたくなるもの。それがそうめんである。
以前の雑記にも書いたが、めんつゆは白だしとしょうゆで自作するから常備する必要なし。いい白だしと酸化防止ボトル入りのしょうゆさえあれば、うどん、そば、そうめんなど、あらゆるつゆは即席で専用つゆに匹敵するものを用意できる。
なお、うちで使っているのはにんべんの白だし。にんべんのそばつゆがうまかったので、白だしもうまいんだろうということで選んでいる。
今回食べたのは三輪そうめん。日本三大そうめんのひとつであり、現在のそうめんの源流とされる。三輪そうめんはたぶん全国的に有名だと思うが、関西では揖保乃糸に押され気味。三輪そうめんも奈良なので関西だが、関西でそうめんというと、たいがい揖保乃糸のことを指す。
揖保乃糸は、やはり三大そうめんのひとつとされる兵庫の播州そうめんのブランドだが、たぶんほとんどの人は揖保の糸が「播州そうめん」だとは知らない。揖保乃糸は揖保乃糸である。
なんでこんなに関西で揖保乃糸が普及しているのかは知らないが、ともかく関西の多くの家庭では、子供の頃から当たり前のように揖保乃糸を食っている。ケチで食い物に金をかけるのを嫌う家でも揖保乃糸。ただし子供なので、それが揖保乃糸だとは知らないことが多い。
夏にテレビで「そうめんやっぱり揖保乃糸」というCMを観て、いつか揖保乃糸を食ってみたいなあと思いながら、揖保の糸を貪っていたりする。
私が、子供の頃から当たり前のように食っていたそうめんが揖保乃糸だと知ったのは、自炊するようになってからだった。スーパーでそうめんを買おうと思い、棚で、安いそうめんと、その倍くらいする揖保乃糸を見比べて、「まあ、安いのでいいか」と安いのを買う。そしてゆでて食ってみて、あまりのコシのなさに驚く。
ゆがき過ぎたか? と思い、ゆで時間を調整したりしてもうまくいかず、そしてあるとき悟る。今まで当たり前のようにガブガブ食っていたのは揖保乃糸だったのだと。
安いそうめんが悪いわけではないが、子供の頃から当たり前のように揖保乃糸ばかり食っていると、もう安いそうめんには戻れない。「高いなあ」と思いつつ揖保乃糸を買うしかなくなるのである。
というわけで、関西ではそうめんはほぼ自動的に揖保乃糸を買うことになりがちなのだが、今回はあえて三輪そうめんを買ってみた。
三輪そうめんを買う上で難しいのは、三輪そうめんと書いてあるからうまいとは限らないこと。揖保乃糸には厳格な規定があり、品質にばらつきが少ないため、ブランド買いすれば間違いなく期待通りのものが食える。しかし三輪そうめんは、三輪で作ってないのにそう名乗っていたりするものがあったりして、そこまでブランドを信用できない。最近になってようやく三輪そうめんもブランドの信用を高めるための活動が活発化してきたようだが。
私が以前買った三輪そうめんはパチモノだったらしく、コシも何もあったもんじゃなかったので、今回はちゃんと鳥居マークの付いているのを確認して買ってみた。このマークは地元組合が認めたそうめんにのみ付くものである。細さに応じてランク分けされているが、そこはあまり気にしなくていい。ともかく鳥居マークが付いているんだから、少なくとも地元組合が「三輪そうめん」と名乗っていいと認めたものであることは間違いない。これでまずかったら三輪そうめんはまずいということである。
そうめんをゆがくのは、高級そうめんの方が失敗しにくい。高級そうめんはコシがあり、伸びにくいので、多少ゆがき過ぎたりしても、そうまずくはならない。
ただ、よりおいしく食べたいなら、即ゆでて即食うのがいい。お湯はしっかり沸騰させ、麺を投じた後も強火を維持する。ゆで加減の理想はアルデンテ。袋に書かれてあるゆで時間より気持ち早めに上げる。
パスタは試食しながらゆで加減を調整できるが、そうめんは数秒が命なので、そんなことしている暇はない。信じるのだ。
ゆであがったそうめんは冷水で冷やしてぬめりを取って水を切り、器に盛り付けて完成だが、高級そうめんを高級に食いたいなら、そうめんを氷水を張った器で出したり、流しそうめんにしたりはしないほうがいい。伸びにくいとは言っても、やっぱり水気に触れさせ続けると伸びていく。
冷水による冷やし方だけだと満足できないなら、つゆに氷を入れればいい。
子供の頃に家で食べた揖保乃糸にイマイチ高級感がなかったのは、たぶん、ゆがき過ぎの上に伸びていたからだと思う。とはいえ、伸びた揖保乃糸でも、安物そうめんに比べればずっとうまいのだが。
なお、安物そうめんをおいしくゆがくのはかなり難度が高い。ゆがきが足りないと粉っぽいし、ゆがきすぎるとすぐ伸びたり崩れたりする。
まず、最適なゆで時間を確認するため、はじめて買う銘柄はいきなり調理せず、数本ずつ試しゆでしてみる。袋に書いてあるゆで時間はあてにならない。どうせ約2分とか書いていると思うが、2分だとまずゆがきすぎになる。1分30秒を基点に、5秒刻みでベストな時間を見つけたい。見つけたら忘れないようメモっておく。
最適なゆで時間が見つかったら、迷わずその時間を厳守してゆで、即上げる。お湯の高温維持が大切なのも忘れずに。お湯が少ないと、麺を投じたときに温度が下がって調理不足になることがあるので、湯量は少ないよりは多めがいい。
ゆであがったら速攻冷水で冷やしてぬめりを取り、水気を切って速攻で食う。高級そうめん以上に水気を避け、素早さを重視すべし。ちょっとでも隙を見せたら奴らはすぐ伸びて崩れる。安物で流しそうめんとかにゅうめんとかは以ての外である。安物のそうめんでにゅうめんを作るくらいなら、細いうどんにでもにしておいたほうが絶対にいい。
もともとにゅうめんは奈良の郷土料理で、つまりは三輪そうめんだからこそできる料理だったりする。安物そうめんだとコシがなくてかなりマズくなる。
うまくすれば安物でも、絶対的なコシのなさは隠しようがないが、値段のわりにはいい感じに仕上がる。そして、安物をうまく作れるなら、高級そうめんもおいしく作れるであろう。
なお、麺すくいがあれば、いちいち湯を捨てることなく麺を上げられるので便利。
何度も言うが、そうめんは即ゆで即食いが基本なので、一気に大量に作るよりは、食べる時に食べる分だけ少量ずつ作った方がいい。その度にお湯を捨てるのは無駄だし時間がかかるので、麺すくいで麺をすくい、お湯はキープしておくといい。幸い、そうめんのゆで時間は2分前後と短いので、都度ゆでしてもそう時間はかからない。
麺すくいがひとつあれば、そうめんに限らず、いつでもゆでたて麺を食える幸せを堪能できる。買わない理由はない。
ネットではゆがかないそうめんのゆで方が紹介されている。湯が沸いたらそうめんをいれ、ほぐしたら火を止めて放置するやつ。
これは簡単でおいしく作れるみたいに紹介されているが、実際はそうでもない。ゆでるより時間がかかるし、水気に触れる時間が長い分、柔らか気味のそうめんになる。それが好みならありだが、ゆでるよりもいい調理法というわけではない。そういう方法もある、という程度のこと。
このやり方だと麺がくっつかないとか言われているが、そんなもん、普通のゆがき方でも、きっちりぬめりを取りゃいいだけである。
あと、そもそもそうめんは即ゆでて即食うのが原則だから、くっつくまで放置せずにさっさと食えばいい。
余談が長くなりすぎだが、ともかく、三輪そうめんを即ゆでて即食してみたが……今回の三輪そうめんは、揖保乃糸とほとんど変わらない味わいだった。コシがあってツルツル入る。やはり、前回買った三輪そうめんは偽物だったらしい。
揖保乃糸と比べると、三輪そうめんのほうがあっさり気味かもしれない。三輪そうめんは気がつくとなくなっている感じ。いくらでも食えそうな勢いで食ってしまう。「え? もうないの? もっと食いたい! もっとよこせ!」となる。揖保乃糸はもう少し「食った」という満足感がある。
私は最初、1人前だけ作ったが、物足りずにもう1人前作った。しかしまだ物足りなかったので、さらに1人前作った。恐るべし三輪そうめん。食っても食っても飽きたらぬ。
しかし、そうめんは結局のところ小麦粉であり、うどんと同じく腹持ちがいい。そばは消化が早いが、そうめんはのどごしの清涼感とは裏腹に、結構ヘヴィである。
三輪そうめんの罠に嵌ってついつい3人前も食った私だったが、それから数時間後、床に転がって後悔することになる。
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