『カイジ』の大槻班長の月収とか

 寒すぎてセラミックファンヒーターの近くから離れられず、漫画ばっかり読んでしまう今日このごろ第三弾。ただし、今回は作品に関する話ではない。


『賭博破戒録カイジ』では、1000万前後の借金を抱えている債務者を捕まえて強制労働させる地下施設が登場する。その地下で敵役として登場する大槻班長は、物販とイカサマチンチロで荒稼ぎしている、という設定になっている。そして、その大槻班長を主人公にしたスピンオフ漫画が『1日外出録 ハンチョウ』。

 地下強制労働施設では、5万円払うと24時間だけ地上に解放されるという仕組みになっている。大槻はみんなから巻き上げた金で度々地上に出ては1日外出ライフを満喫しているらしい。



 大槻班長に関しては、登場したときから議論になっていることがある。チンチロで稼いだ金で借金を返してとっとと地下から出たらいいんじゃないの? と。

 その疑問に対するよくある答えは、地上に出るより地下で権力者でいるほうが気分がいいし儲かるから、というもの。

 私もなんとなくそう思っていたが、今年の冬はあまりに寒くて他に何もできなさすぎたせいで、本当にそうなのかを具体的に考えてみることにした。



『賭博破戒録カイジ』の2巻で、カイジは大槻班長の月収を概算している。それによると7万2000円らしい。しかしこれは少なく見積もった計算である。

 カイジはイカサマチンチロで巻き上げた金を計算に入れていない。物販と、45組(チンチロで負けて借金をし、給料の半分を金利としてピンハネされている連中)からピンハネしている金利だけで計算している。


 具体的な計算はこう。


 地下労働者の月給は9100円(実際は日給3500円の26日で月給9万1000円だが、日給から2000円が借金返済に充てられ、1150円は施設利用料として引かれる。残る手取りは350円の26日で9100円)。E班の人数は23人。そのうち6人は大槻から借金をしており、給料の4500円が金利としてピンハネされている。


 つまり、E班全員の毎月の手取りの合計は、


 9100円x17人=15万4700円

 4500円x6人=2万7000円

 154700+27000=18万1700円


 となる。

 労働者の給料はほぼすべて物販で消費される。物販の販売価格は原価の2倍で、利益は班長と施設側で折半。


 つまり、18万1700円の4分の1、約4万5000円が物販での収入。

 これに45組からピンハネしている金利、2万7000円を足して、7万2000円。


 この計算には少し疑問がある。というのは、E班23人には、大槻自身と腹心の2人も含まれているからである。大槻や腹心が物販のものを買う時は仕入れ値か、定価の何割引きかで買っていると考えるのが普通だろう。ただまあ、そこは細かい話ではある。カイジは大槻がどれだけあくどく大金を稼いでいるかを演説したかっただけであり、大槻の正確な月収を計算したかったわけではない。


 それよりも重要なのは、カイジの計算にはチンチロでの稼ぎが含まれていないこと。チンチロで巻き上げた金には仕入れや折半による減額はないし、他班からも賭けに来るらしいから、他班の金も巻き上げられる。つまり、大槻の月収は確実にもっとあるはずである。


 チンチロでどの程度稼いでいるかを計算するのは難しい。大槻のイカサマは倍付け、3倍付けになりやすいから、下手をすると勝ちすぎてしまう。勝ちすぎると種がバレたり、施設側から「秩序を乱す行為」とされて禁止を食らうかもしれないので、あまり連発はできない。ここ一番で1~2回やるくらいだろう。

 チンチロの賭場は通常、定期的に月2回行われる。掛け金の上限は一応2000円。月給が9100円しかないのだから、実際これが限界だろう。2000円賭けたカモから4~6000円勝つのを2回くらいするのが現実的なラインではないだろうか。つまり、1万2000円の勝ちを月2回で2万4000円程度。

 物販と金利収入7万2000円にイカサマチンチロでの収入2万4000円を加え、あと、自分自身の給料9100円を足すと、10万5100円。この辺が実際の大槻の月収ではないかと思われる。

 なお、カイジに負けたときに大槻が持っていた金は約183万円だった。


 大槻らの仕事は土木作業なので、地上で働けば日給1万円くらいはもらえるだろう。26日働けば26万円。ただし、地上ではそこから所得税が引かれ、保険に入るなら保険料がかかり、あとは家賃、光熱費、食費、消耗品などの費用も払う必要がある。そう考えると地下の方がいいのか? と考えそうになるが、地下の居住環境の劣悪さや食の貧しさ、外出するのにいちいち5万円かかることを考えると微妙である。出られるものなら出た方が良さそうな気はするが、大槻くらい稼げていれば、あえて地下にいるのもアリなのだろうか?



 では、巻き上げた金で借金を返すと何年くらいで出られるのだろう。


 地下に来る連中は1000万円程度借金をしている。地下で働くと金利はなくなり、日給から2000円が返済に充てられる。

 2000円x26日で月5万2000円、年間だと62万4000円返済している計算。


 大槻の借金が1000万円だとすると、この返済には16年かかる。一方、毎月稼いだ10万円を借金返済に充てた場合は約5年半。


 余談だが、『1日外出録』は100回を突破した。毎回外出しているわけではないが、仮にそうだとすると、外出権は1日5万円だから、500万円使ったことになる。外出しなければそれだけで借金の半分は返済できていたわけだ。



 逆に、帝愛は多重債務者を強制労働させて儲かっているのだろうか。


 この強制労働施設では、普通なら雇うのに日当1万円かかる労働者を3500円でコキ使っている。1人あたり1日6500円の儲け。

 地下施設の労働者の人数は不明だが、A~E班まであり、E班は23人で「大所帯」と言われているから、ここではA~D班までを15人、E班を23人として総計83人いるとしよう。


 6500円x83人x26日=1402万7000円/月


 つまり、毎月1403万円ほど安く労働者を雇えていることになる。……思っていたよりお得。

 これだけお得なら、黒服を10人ほど地下担当として張り付かせても充分利益が出る。



 ……と、どうでもいいことを考えながら寒さをしのぐのであった。

 いやほんと、寒すぎて生産的なことを何も考えられない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る