第9話 登校前と婚約者 2
「あの…お口に合いますか?」
天音さんは僕が食べている所をまじまじと見ていた。
お口に合う。すごく美味しい。
ご飯に味噌汁、卵焼き、それにお茶、いつもの僕の朝ごはんだ。
そう、いつもと全く同じなのだ。
見ていたのかってぐらい完璧にいつも母親が作ってくれた朝食と同じメニューなのだ。なんで知ってるのだろうか。
同じなのはメニューだけでは無い。
味が、味までもがそっくりなのだ。
いつもの昨日までのうちのご飯と多少の誤差はあれども味が同じ。間違えなく味付けは一致している。
お口に合うに決まっている。
「美味しいよ、すごく美味しい。」
でも少し怖い。
昨日から少し思っていたのだが、彼女は天音さんは僕のことやうちの事に詳しく過ぎないか?
僕はクラスメイトの楓さんを助けたせいで生じた、約束と言うか脅しと言うか人助けの話は、 誰も知らない。諸事情により1番仲が良い、徹にすら言っていない。つまりどこからも情報が漏れていないのだ。天音さんが直接見ていたかどちらかしかあり得ないのだ。
それに天音さんは高橋 徹と言う名前を見てすぐに僕の友人と分かった。まず僕は彼女に徹の話しをした事は無いし、それにここ3年は会話が無かったのだ。何故、僕の友人が分かるのだろうか?
極めつけはこの朝食だ。もしかしたら僕の家族に教えて貰っていたのかも知れないのか?
「えっと、怜さん?美味しく無かったですか?」
そう固まって思考をしていた僕の方向を見て天音さんは少し悲しそうな顔をしていた。
その後に小さな声で「おかしいな、同じ味のはずなのに…」そう言った。間違えなくそう言った。でも、彼女の表情があまりにも悲しそうで、とりあえずそれはどうでも良くなった。
「えっと、天音さん、、その朝ごはん、美味しいんですよ。すごく美味しいです。でもですよ。あまりにも、うちの味と同じで驚いているって言うか。混乱しているって言うか。」
そう気がつけば言葉を発していた。
いきなり核心をついてしまった。
完全にミスだ。どうしよう、彼女が、、
いや怜、お前は自意識過剰か。
そうだよいくら婚約者でも、話して無かったって言っても、僕のストーキングを天音さんがしてたなんてあり得ないでしょ。うん、そうだよ。僕の思い違いだな。
僕の言葉にしばらく彼女は口をパクパクさせて、それから
「えっと、バレちゃいましたか。私、練習してたんです。」
彼女が少し耳を赤くしてそう言った。
あっ可愛い。ストーキングなんて、酷い想像をしてしまったんだ。うん、可愛い。それ以外の思考をする事が出来なくなった。
僕が気が付かなかっただけで、うちの母親に教えて貰ったのかな?
うん、きっとそうだよ。そうに違いない。
婚約者が健気すぎて、やばい。
「美味しいよ。すっごく美味しい。」
気がつけば僕は笑顔でそう言っていた。
頭で考えていないから、もはや脊髄反射だったのかも知れない。
「嬉しいです。」
そう彼女は言った。
彼女の頬を赤くして浮かべるその可愛い笑顔を見て、他の疑惑はもう正直どうでも良くなった。
ひとまず今は目の前にある美味しい食べ物を食べよう。
朝ごはんが美味しい。
婚約者の天音さんが可愛い。
朝から新婚みたいで幸せ。
もうそれでいいや。
僕は思考を放棄した。
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