第6話 距離感が0か100の天音さん 2
「あの、怜さん、距離感の練習って何ですか?」
天音さんに真顔でそう聞かれた。
僕も何なのか聞きたい。
物理的距離と精神的距離…
そもそも距離感って何だ?
「その、距離感の練習って言うのは…」
僕が必死に言葉を紡ごうとしていた時、
必死に体裁を作ろって、少し見栄を張ろうとしていた時。タイミング良くか悪くか僕の携帯が鳴った。
「怜さん、携帯鳴ってますけど?どなたからですか?」
そう彼女は笑顔で言ったが、笑顔の前に一瞬、強烈な何か殺気に近いような、何かを感じとった気がした。気のせいだよ気のせい…
僕はひとまず携帯を手に取って画面を見た。
画面には高橋 徹と言う名前が映っていた。珍しい、あいつから電話なんて…そう思いつつ、電話に出る前に天音さんに携帯の画面を見せた。
見せる必要は無いのだが、何故か見せないといけない気がした。
「徹から電話が来たから、少し電話に出ても良いですか?」
そう僕が言うと
「ご友人さんからの電話でしたか。早く出て上げて下さい。私は、ここで距離感って言うのを考えて練習しときます。」
彼女は、そう言った。
「じゃあ、僕はちょっと電話に出るよ。」
そう言って少し部屋を出るために席を立つと
「でも、怜さん、その寂しい。寂しいのでなるべく早く戻って来てください。」
そう彼女が少し言った。
それによって友人との電話の時間が短くなる事が決まった。
部屋を出て部屋から少し離れた廊下で僕は電話を取った。
「もしもし、どうかしたの?電話なんてかけて来て珍しい。緊張事態なのかな?それだったら気が合いそうだけど。」
そう僕が言うと携帯から小声で焦り気味の彼の声が聞こえた。
「気が合いそう?まあ緊急事態、その、最近妙になついて来る後輩がいるって話をしただろ。」
ああ、最近そんな事を言ってた。あいつは顔を覚える事がかなり苦手で付き合いが長い僕とか周りの仲が良い人しか、心を開いて無かったから少し楽しそうに後輩のことを話している所を見るのが嬉しかった。
「ああ、分かるよ。1回教室にも来た、小動物感がある子だろ。それがどうかしたのか?」
「それが、家出をして来たらしく。今うちにいるんだよ。家出の理由も分かんないし、とりあえずどうすれば良いと思う?」
そう携帯の反対側から聞こえた。
「知らないよ。こっちも聞きたいよ。今まさに同じような状況。」
「はぁ?」
「今、婚約者とうちで二人っきり、それで僕なんか、距離感の練習って言う良く分かんない概念を作ってしまってもう、どうしようって感じ?」
「何してるの?」
「本当に何してるんだろうか?はぁ、まあ真面目に答えると、ひとまずご飯か何か上げて、その後輩がゲームとかするならゲームでもして、それで落ち着いたら家出した理由、話してくれるんじゃない?」
僕はそんな事を友人に告げた。
彼が僕と同じような状況なのは面白いが …
いや、面白いって言ってる場合ではないのだが
「ありがとう怜。じゃあお礼にこっちからもアドバイスをするよ。距離感の練習って良く分かんない事を口走ってしまったら、普通に、良く分かんない事を言ってしまった。って謝るのが良いと、ちょっと待って、後輩くん…泣きながらくっついて、」
電話が切れた。頑張って徹。
僕も頑張るよ。
そんな事を思って「ファイト」とメッセージを送ってから部屋に戻ると
目は真っ直ぐクールで、口元だけ笑っている天音さんがいた。その表情は少し怖かった。
「何をしてるの?」
そう僕が言うと彼女はその表情で
「距離感50って事は半分笑って、半分笑わないで接する事かなって思って、だからやって見ましたどうですか?」
そう少し上がった声のトーンで言った。
訂正しよう、怖くない。可愛い。
それと素直に彼女に謝る事を決めた。
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