第4話 婚約者と僕 4
浮気をした人物はこんな気持ちになるのだろうか?
その鋭い彼女の眼光に僕は生唾を飲んだ。
別にやましい事が無くても、その彼女の眼光で見られれば、僕が悪い事をした気がしてしまう気がする。
先程とは異なる緊張感が流れた。
恥ずかしさによって跳ね上がっていた部屋の温度が一気に氷点下を割り込み絶対零度に達した。
「その、えっと、本当に何も無いんですよ天音さん。その、無表情でこっちを睨むのやめててくれませんか?笑ってください、さっきみたいな笑顔を見せてください、そっちの方が、可愛いですし…」
僕は、必死に言葉を紡いだ。それと同時にまあまあ失言した。
「怜さん、怒る時に笑う人はいません。それで答えて下さい。あの人は誰なんですか?私を捨てる気がないなら、婚約者を続けるつもりならば、浮気ですか?」
彼女は淡々とそう言葉を告げていた。
「いや、その」
僕が言葉を挟む間も無く彼女は言葉を続けた。
「そもそも、褒めれば許して貰えるって思ったんですか?まあ、可愛いって言われたのは、それはその嬉しいですけど、でもちゃんと説明してください。残念ながら、私はそんなにチョロくはありません。浮気じゃないならじゃあなんなんですか?」
そう彼女は少し表情を崩して、そう言った。
それでもまだ鋭い睨みが僕を刺していた。
「説明って言っても、そのただの知り合いって言うか、巻き込み事故と言うか貰い事故と言うか。楓さんは、災害と言うか。だから本当に別に何もないよ。」
彼女は災害だった。僕はむしろ被害者だった。
そう言うと彼女はむすっとした表情を浮かべた。
何か感情のタガが外れたのか、彼女の表情は目まぐるしく変わるようになっていた。
「嘘つき、知ってるんですよ。怜さんがあの人を助けた所も、怜さんがあの人と仲良く学校で話している所も、私知ってるんですから。だから、白状して下さい。私を捨てないって約束してくれるなら今回は許してあげます。だから白状しなさい。」
そう言ってこちらを今度は頬を膨らませながら睨んだ。
可愛いって思ったが、今はそんな事を思っている暇はない、ひとまず誤解を解く必要がある。
実際に、楓さんを助けたことも、彼女と学校で話していることも事実だ。
でも違うのだ、巻き込まれたのだ、もっと言えば脅されたのだ。
でもなんで天音さんは、その事を知っているのだろうか。今は考えないでおこう。
「正直に言いますよ。僕は、あの人を助けたせいで巻き込まれたんですよ。鬼頭楓さんが鈴木 ひろきを攻略するのを手助けするって言えば良いんですかね?まあそんな少しややこしくて意味の分からない事に巻き込まれたんですよ。」
そう僕は言ったが…彼女の目はまだ疑いがこもっていた。そりゃ、まあ意味わからないもんな。だから彼女を納得させるために言葉を続けた。
「分かりました。明日、明日一緒に楓さんの所に言って楓さんから話を聞きましょう。違うんですよ、本当に。」
そう僕が言うと彼女はしばらく、じっとこっちを見てやっと笑顔を浮かべた。
「分かりました、そこまで言うなら違うんでしょ。でも、一度楓さんって人には会っておきます。じゃあ、この話は終わりにしましょう。お騒がせしました。」
「よ、良かったです。それじゃあ、うん、今日はもう帰るん
ですよね。送りますよ。」
そう僕が言うと彼女は首を横に振った。送らなくて良いのか?
「その必要はありません。今日からここに二人で住むので、」
「えっ、うん?」
そうびっくりして声を僕はあげた。
それを気にせず彼女は続けた。
「怜さんのお父上とお母上には、別邸を用意しましたし、お姉様は、当てがあるからって言ってましたから大丈夫です。」
「えっ」
「元々、怜さんが婚約破棄をするって言っても、たとえ他に好きな人がいても絶対に逃がさないつもりでしたから。でも、本当に悲しかったので泣いてしまいましたし、本当に話す時に緊張していました。けど、もう吹っ切れました。ここから覚悟して下さい。」
言い終わった彼女は笑った。
「はははお手柔らかにお願いします。」
マジかよ。
僕、大丈夫かなぁ。
そんな不安と少しの期待が混じった複雑な感情になった。
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