第3話 婚約者と僕 3
「はい」
「その、天音さん。まずね、僕が君のお父さんに婚約者を辞めた方が良いんじゃ無いかって言ったのは、君が、天音さんが僕の事を嫌っていると思ったから。」
「それは…」
何か言いたげな彼女は、言葉を詰まらせていた。
「君は、特にここ3年、僕と喋りたがっていなかったから。無視していたから。だから、僕の事を嫌ってるって思って、それなら、このまま婚約者を続けるよりも、君を自由にした方が君にとっても、僕にとっても良い事なのかなって思ってね。」
「それは…」
「だから、君が悪い訳じゃ無いし、むしろ、ちゃんと出来なかった僕が悪いのかなって、嫌われた僕が悪いのかなって。でも、もし、もし可能なら、君と婚約者を続けていたい。もっとちゃんと君の事を知りたい、です。」
彼女の涙の叫びに応える為に僕は、僕の心の想いを吐露した。
正直に言う事がこんなに辛い事だとは思ってもいなかった。
言葉を発しようとしても体はそれを拒絶して喉が閉まり…緊張でうるさいほど心臓は高鳴った。顔が徐々に赤く熱くなっていく事が手に取る様に分かった。
いつかは言うつもりだった、彼女にこの事を言って、それでこの婚約を終わらせるつもりだった。それを告げるのが今だとは思っても見なかった。
「そんな、怜さんは悪く無いです。私がいけないんです。」
その後、無言の時間が流れた。僕は言葉を発する事なく待った。彼女の次の言葉を待った。
「それに、き、嫌いじゃ無いです。怜さんを無視したのは、話すのが、緊張して恥ずかしくて、だから私、怜さんのこと、嫌いじゃ無いです。だからその、まだ私と婚約者を続けて欲しいです。」
僕の言葉に彼女は涙を拭いながらそう答えた。
顔を真っ赤にしている彼女を見て、僕は本当に悪い事をしていたなとそう思った。
それからしばらく、無言が続いた。その無言を割くように彼女が口を開いた。
「むしろ、むしろ、怜さんのことは、すす、好きです、多分、この…感情は好きってことだと思いましゅ」
可愛い。可愛い。可愛い。
真っ赤に顔をしながらそう少し噛みながら言った彼女を見て、率直にそう思った。
また、彼女のその言葉で僕の体温が更に跳ね上がり、心臓は破裂するのでは無いかと思うぐらい速くなった。
僕も、それに答えないといけないと思って、乾いた喉で必死に言葉を紡いだ。
「僕も、天音さんの事は、その、す、好きだと思う。好きとかまだ良く分かんないけど、この感情は多分好きって事なのかも知れないって思うから、だから、」
途中までありえないほどの早口で喋り僕は途中で言葉を詰まらせてしまった。
ダメなやつだと思う。
「嬉しいです。じゃあ、この感情が何なんかは、一緒に探しませんか。一緒に婚約者をしましょ。」
言葉を詰まらせた僕に対して、彼女は目を少し張らしたまま、笑顔でそう言った。
その笑顔はとても可愛いらしくて美しくて、何事にも変えがたいものだった。
今、ここにカメラが無いので僕の目に脳にこの光景を焼き付けようと思う。
しかし、次の瞬間彼女の表情は一変して、冷たいものに変わった。
「じゃあ、あの女は誰だったんですか?」
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