第2話 婚約者と僕 2
うちに入ると、少し落ち着きを取り戻したのか、天音さんは泣きやんでいた。
目の周りは真っ赤になって、普段とは全く違った。ひとまず彼女を客間に案内して、(客間と言うほど大層な物ではないが)僕は、言葉に詰まった時に、間を埋めるためのお菓子と飲み物を取りに向かった。
ふと、お菓子を手に取った時に気が付いてしまった。今、うちには僕と彼女しかいない事に。
それに気が付いて急に緊張した。
別に多分、何も無いけど、でも心臓の高まりが緊張が止まらなかった。緊張するでしょ。
「ごめんね、天音さん。それで、うん、落ち着いて話して見てくれないかな。」
そんな風に客間に戻り、お菓子や飲み物を机に置き彼女に飲みものを渡しながら少し余裕がある風に僕は言葉を発した。
実際は、死ぬほど緊張をしていたし、今すぐこの場から逃げ出したいぐらいの気持ちだった。
彼女に飲み物を渡す時に僕の右手は少し震えていたし、あり得ないほど喉も渇いていた。
その僕の言葉を受けて彼女も深呼吸をしていた。まあ緊張しているのはお互い様だろう。
僕の知っている彼女は学校や普段の生活でも基本的に無駄な事は話さずにいつも凛としており、あんまり表情を変えないので何か美しさと共に近付き難い感じがあり、少し凄みがあった。同じ人間とは思えなかった。
しかし、目の前で目を晴らす少女はそんな感じでは無くて、僕と同じただの人間だった。目の前の彼女はポツリポツリと涙混じりに言葉を紡いだ。
「なんで、なんで、なんですか?私と婚約者辞めるって。怜さんはなんで私を捨てるんですか?」
彼女は涙を拭いながら、涙を交えた声で言葉を続けた。
「それは、私が、私が、ダメな子だからですか? それとも、あの可愛い人がいるから、私が、私の存在が婚約者が邪魔に邪魔になったんですか?」
あの可愛い人がすぐには思い付かなかったが、しばらく考えて、最近助けた人の事かなと予想を立てた。
「確かに、私はあの人みたいに、可愛いげもないし、愛想も胸もそんなに無いし、料理も家事とかの女子力も無いかもしれません。全然ダメかも知れないですけど。でも、でも、怜さんのことは、私の方が私の方が絶対知って、知ってますから。」
僕はその彼女の涙混じりの言葉を聞いて、ついに感極まって泣いてしまった彼女を見て、率直に彼女に悪いことをしたなって思った。
ここまで感情的な彼女は初めて見た。
彼女の為を思った彼女との婚約破棄は、僕が最善だと思ってやろうと事は、僕の勝手な思い上がりでしか無かった。
彼女が何を考えているかを僕は決めつけて、考えようとしていなかったのだ。実際、分からないのだ、彼女が僕と喋っていないからって言って、僕の事をどう思っているかなんて。
今も分かってはいないが、まあだからせめて自分の思いを言葉にして、僕の気持ちを思いをしっかりと伝える事にした。
「僕の話を聞いて下さい。」
そう僕は真っ直ぐ彼女を見て言葉を放った。
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