クラスの美少女を助けたら?勘違いしてクールだと思っていた婚約者がデレ始めた

岡 あこ

第1話 婚約者と僕 1

学校から帰ると家の前に1人の女性が立っていた。

美しい黒色の長い髪、整った目鼻立ち、全てを見透かしたような冷たい眼、端的に言うと美少女だった。そんな美少女が家の前に立っていた。僕は彼女のことを知っていた。でも彼女がここにいる事を全く想定していなかった。


その光景は、僕にとっては少し、いやかなり驚き、緊張する状況だった。


「天音さん、えっと、どうしてここに」

それは目の前の美少女兼、僕の婚約者の名前であった。婚約者と言っても親が決めただけだし、親も嫌なら嫌でも良いよ。そんな感じだった。


僕の言葉で彼女は僕の姿を認識して、それから僕の場所まで駆け寄って来た。

それから彼女は、声を震わしながら

「私を、捨てないで、」

そう言って、その後、その場で彼女は泣き崩れた。


彼女とは3年ぶりにまともに口を聞いた。

そんな婚約者が、僕の目の前でいきなり良く分からない事を言って泣き崩れたのだ。

はじめ、その状況を理解出来なかった。

正確に言えば、理解は出来た。疎遠だった婚約者がいきなり来て泣いている。それを現実として受け止めることが出来なかった。


それに、どちらかと言うと僕は捨てられる側の人間だし、てっきり彼女は僕の事を嫌っていると思っていた。


彼女と出会ったのは約10年前、僕が7歳で、彼女が6歳の時に彼女の事を婚約者として紹介された。はじめの頃は仲良く彼女と会話をしていたが、徐々に彼女の口数は減って行き、3年前には、もう彼女が話す事は無くなった。

話しかけられる事も無くなったし、話しかけても言葉が返ってくる事は無かった。


だから嫌われているって思っていたし、婚約なんて無くなってしまうと考えていた。だから、その感じで両親には話していたりした。それに婚約が無くなった方が彼女の為になると思っていた。


僕の方は、あまり喋ることが無くなっていたが、僕は彼女の事が、嫌いではなかった。彼女の事を婚約者でありながら彼女の事を良く知らなかった。でも出来れば彼女と仲良くしたかった。でも無理だと諦めていた。


「えっと、話が良く分かんないだけど、天音さん、とりあえず落ち着こう。」


落ち着かせる為にかけた言葉だったが、逆効果だった。

「ごめんなさい 私、良い子になるから、捨てないで、怜さん。」

そう言って何故か更に泣き出した。


本当に状況が掴め無かった。

彼女が何を知って、何を思って、何の為にここにいるのか、僕にはやっぱり良く分からなかった。


「えっと、天音さんは、十分良い子だと思うよ。えっと、その、急にどうしたの?」

彼女がこんなに感情的になる姿を僕は初めて見た。

それを見て少し驚いた。

そして少し不謹慎だが、嬉しかった。

感情を僕に見せてくれる事が、少し嬉しかったのだ。今までのクールな彼女では無い何か新しい一面が見れた気がした。


「だって、だって、怜さんが婚約を破棄する方が、解消する方が良いんじゃないかって、父と相談したり、それに、その、あの綺麗な人と一緒にいたり、だから…」

そう言って彼女はさらに泣き出してしまった。これはどうやらちゃんとした話し合いが必要らしい。


「天音さん、ここで話すのもあれだから、ひとまず、うちの中に入って話しませんか?」

そう僕が言うと彼女は泣きながらもコクリと頷いた。

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