本番

翌日やはり7時ちょうどに久藤さんはやってきた。

久藤さんからクラッシュシンバルやタムをどのように使うかを教えてもらい、

夕方には蓮からもらった曲の練習を始めることができた。


「久藤さんここはこう言うアレンジにしてもいいですか?」

そう言って俺は久藤さんから教えてもらった叩き方ではなく、少しアレンジを加えてみた。

「そうだな…。君はこの部分をどうとらえているのかね?」

「うーんどうかな…。歌詞的には前向きな感じだけどまだもどかしさがあってちょっともやもやした感じかな…。」

「そうか君はそう感じるのだな。それなら君がアレンジした方があってるかもね。」

「よっっしゃあ。」

「一通りゆっくりだが叩けるようになったが、全体を通してドラムの叩く強さが、単調になってしまっているから強弱をもう少し意識した方がいい。後は叩く位置によって音が違うからそこも意識した方がいい。」

「うっす。」

「明日からは学校だろうから、今日は早めに家に帰るように。リズム練習用のファイルも持って行きたかったら借りていいぞ。」

「おう!」

「それじゃあ俺は仕事に戻るから。明日から来る前に連絡を入れてくれ。」

それじゃあと出て行く久藤さんを俺は止めた。

「あの。朝練とかって難しいですか?」

「朝練?…学校行く前にここに来るのか?」

「少しでもドラム叩きたくて…。」

「何時だ?」

「…?」

「何時から来る予定だ?」

「えっ!!いいんすか!?」

「そう言っている。俺は5時には起きてるから、好きな時間に来るといい。」

「ありがとうございます。」

俺は深々と頭を下げる。

久藤さんはそのまま防音室を出て仕事へと戻っていった。

俺も久藤邸を後にした。


俺は早めに家に戻ることにした。

自宅へ戻り夕飯を食べるためリビングで行くとテーブルの上にヘルパーさんが残したメモが置いてあった。

“お食事は冷蔵庫に入れておきました。温めてお召し上がりください。”

俺は冷蔵庫を開くと中から食事を取り出しレンジで温めた。

温まるのを待っている間は、今日のレッスンを思い出しリズム練をしていた。

するとガチャっと急にリビングの扉が開き父親が入ってきた。

しかし俺のことを一瞥すると、リビングを出て行った。

くそっ…。タイミング悪りぃ。

普段は仕事でほとんど家に帰ってこない父。たまに帰ってくるが、基本時に俺が自室にこもっているので会うことはほとんどない。

俺は母が大切だった。母の容体が悪くなった時も毎日病院へ行った。

しかし父はほとんど病院へは行かず、母が息を引き取る際もその場にはいなかった。

俺はそれが許せなかった。だから俺は父を責めてそれから良い子でいるのを辞め、髪を染め、ピアスを開け父へ反抗した。

父はそれから俺に侮蔑的な視線を送るようになり、俺を見ると溜息を吐くようになった。

父は俺に期待しなくなった。


電子レンジのチンという音がなり、食事が温まったがリビングにいるとまたあいつと会う気がしたので自室へ戻って食べることにした。

食事を済ませ早めにシャワーを浴びると俺は23時には就寝した。


翌朝、久藤さんへ連絡を入れ朝練へと向かう。

久藤さんから先に自主練しててくれと言われたので、1人で練習をしていた。

蓮の曲に合わせてドラムを叩いてみるが、まだ慣れていないため所々叩けない。

苦手なところは一度曲なしで練習し、そして曲に合わせて叩く練習をひたすら繰り返す。

途中から久藤さんがやってきて、細かなアドバイスをくれた。


そんな感じで朝練→学校→夕練と毎日送りとうとう蓮との約束の日がやってきた。

自宅にドラムは届いていたが、久藤さんも立ち会いたいとのことで、久藤邸にて披露することとなった。

蓮と久藤さんは挨拶を交わした。蓮が敬語で話していたので少し驚いた。

俺は深く深呼吸をすると。久藤さんが用意してくれた音源に合わせて思い切りドラマを叩く。

よしっ。今のところミスはない。

あぁいいなぁ〜蓮の曲やっぱり凄くいい。

何度も何度もこの曲を聴いて何度も何度もドラマを叩いて、それでもこの曲は飽きることがない。

いくつもの顔を持っているようだ。

蓮の曲を初めて聴いてこうしてドラムを叩いて…まだ1週間しか経ってないのか…。

でもやっぱり良いなぁ。

一緒にバンド組みたいなぁ。

最後に思い切りシンバルを叩いて終わりだ。

はぁはぁと肩で息をしながら蓮を見る。

しばらくの沈黙の後、蓮は顔を上げた。

「だめだ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る