躍起
右手・左手・右足・左足で違う動きをするのでとても頭を使う。
でも蓮とバンドを組むためにここで弱音を吐いている場合ではない。
蓮が1週間という短い期間を提示してきたのは、ドラムを叩いたこともない人間が1週間でできるようになるはずがないという目論見からだろう。
ただそれでもチャンスをくれたってことは、一緒に音楽をやる仲間は探しているに違いない。
あいつほんっと昔から素直じゃないからな。
よしっ!気合い入れ直し、自主練を再開する。
久藤さんにも指摘されたがやっぱり右足のバスドラムが右手とズレやすいみたいだ。
メトロノームを使ってちゃんと合わせる練習するよう言われたもんな。
メトロノームを80に設定しそれを聴きながらタイミングを合わせることに集中してみる。
バスドラムだけなら問題ない、ハイハットを入れてみるがやはり問題ない。
左手のスネアドラムを入れるとやはり少しズレるみたいだ。単に練習量が少ないというのもあるがメトロノームの音を聞く余裕がない。
もう少しゆっくりにしてみるかぁ。
メトロノームを60に下げて、もう一度同じリズムを繰り返してみる。
おっ!今度はメトロノームの音もちゃんと聞こえたしバスドラムも遅れなかった。
苦手なところは一旦速度を落としてゆっくりにして慣れてきたら早めて行くのが良さそうだ。
その後も苦手なところを挑戦してみるがテンポをゆっくりにし、リズムを掴んでから速度を速くすることでテンパることなく叩けるようになった。
めっちゃいいじゃん俺。
明日でどこまで進むだろうか。
さすがに明日曲の練習をできないと平日になってしまい、学校に行っている間練習ができなくなるのでできれば蓮の曲をやりたいなぁ。
ってか別に蓮の曲に合わせてみてもいいんじゃないか。
どんな曲だったかなぁ。
一度楽譜に目を通して見るが、楽譜を見ただけではよくわからない。
仕方ない…。蓮に連絡してみるか。
スマホを取り出し、蓮の連絡先に電話をする。
数コールの後、蓮が電話に出た。
「何っ?僕忙しいんだけど。」
「悪い悪いっ。この前もらった楽譜なんだけど、音源あったら送って欲しいんだけど?」
「ないよ…。音源なんてないよ。」
「えっマジか。困ったなぁ〜。ドラムを合わせるのにもう一度聞いておきたかったんだけど…。ないなら仕方ないかぁ〜。誰か弾けるやつに弾いてもらうか…。ごめん邪魔して悪かったな。」
「…。」
「それじゃあまた金曜日な!」
通話を切ろうとしたところ何かもごもごと聞こえてくる。
「ん?どうした?」
「…今弾いてあげる。1回しか弾かないから。」
そう言って、スマホを何処かに置くような音が聞こえた。
「ちょっ…。待っ…。」
どうしよう何か録音できるものあったかな。
そう言えばスマホの機能で録音できるよな。
えーっと確かこうだったか…。俺は記憶を探りながら急いで録音モードをオンにした。
ちょうどギターの音が聞こえ始めた。
ってあれこの曲この前のライブでやってた曲じゃないのか…。
久藤さんが演奏してくれた時はドラムだけだったから気付かなかったが、この前の曲じゃないのか……。
冷や汗が背中をつたう。
いや、でもこの曲もこの前の曲とはまた違う良さがある。
むしろライブでやった曲よりドラムがあった方が迫力が出そうな曲だな。
よっしゃ俄然やる気が湧いてきた。
1曲弾き終えた蓮は
「それじゃあ。よろしく。」
っと言って通話を切った。
通話を終えた後、俺はしばらく気持ちが昂って先ほど聞いた曲を何度も何度も頭の中で繰り返していた。
やっぱりあいつの曲はすげぇよ。
俺は俺でもっとドラムの技術あげないとな。
あいつの曲に合わせるじゃ意味ない。
それだけじゃ足りない。
それだけじゃあいつの曲は生き生きとしてこない。
ドラムをただ教えてもらった通りに叩くだけじゃダメなんだ。
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