鼓動
7:00のアラームが鳴る。
予定通りその人はこの部屋の中に入ってきた。
「朝までやっていたのか。」
「あぁもう約束の時間なんだなぁ。このファイルのリズム練習は一通り終わったぜ。」
「そうか。じゃあ今日はドラムを実際に触るぞ。」
「お願いします。」
そういうと彼はこの部屋に2つ置いてあるドラムのうち奥側に置いてあるドラムへ腰掛けた。
「そっちを使ってくれ。今から椅子の調整方法を教える。」
「うっす。」
「座ってペダルを踏む際足が直角ではなく、少し膝側が下がる方がいい。」
「なるほど。それでこの椅子どうやって調整するんだ?」
「椅子の裏側をよく見てみろ。」
「裏側ぁ?おおっ!ここかっ!この部分を回せばいいのか?」
「ストップ。」
そう言うと彼は自分の座っている椅子から立ち上がり、椅子の台座に1番近いネジを回し始めた。
「ここをまず回して、それから台座の部分を高くするなら反時計、低くするなら時計回りに回せ。位置が決まったら台座の下のネジを先程と反対に回せば固定される。」
言われた通りに椅子の高さを調整した。
「よしっ!これで良いか!?」
俺は座って足の角度を確認した。
「そうだな、ちなみにそのまま一度ペダルを踏んでみてくれ。」
俺は言われた通り、右足にあるペダルを踏んだ。
ドンと言う重低音の音が響いた。
続いて右足にあるペダルを踏んだ。
今度はカシャっと音がした。
それを見ていた彼は少し唸りながら呟いた。
「ペダルを踏む時足が直角になるのも良くないが遠いのも良くない。明日をもう少し前にしてみるといい。もう一度踏んで見て先程とどちらがやりやすいか確認してみろ。」
俺は言われた通り、少し椅子をドラム側に寄せてペダルを踏み込んだ。
うん。よくわからない。でもまだ演奏してないし、後々言ってる意味がわかるだろう。
「これで大丈夫っすか?」
「あぁ取り敢えずはそれでいい。次はスティックの持ち方か。いくつかあるが、基本的なの持ち方を教える。もし違うやつ試したかったらSNSでも見て調べてくれ。スティックは指全体で強く握りすぎると身体に余計な力を入れてしまうから、親指と人差し指で軽く握り、残りの3番の指でスティックを動かすイメージだ。」
そう言って彼はスティックを持って試しにスネアドラムを叩いてみせた。
「おおっ!!そう言う感じか!」
俺も真似してスネアドラムを叩いてみる。
「うぉーなんだかそれっぽい!!」
まだスネアドラムを叩いただけなのにだいぶテンションが上がった。
「早速ドラム叩いていく。8カウントで行くから、右手はハイハット・左手はスネアドラム・右足はバスドラムを叩いてくれ。左足のハイハットのペダルは踏んでおいてくれ。右手は拍子・左手は3・7・右足は1・5。」
「えーっと。右手が1〜8。左手は3・7。右足が…。」
「1・5」
「そうだ!1・5。」
「今から叩くから聞いてみると良い。」
「うっす。」
そう言って彼は実際に叩いて見せた。
ドンシャカシャドンシャカシャ
「…」
繰り返し聞くとタンタンタンタンでバスドラムとスネアドラムで交互に繰り返される感じか。
よしっ。ドラムに向き直り呼吸を整えて、スティックで1・2・3・4と拍子を叩き、バスドラムとハイハットを叩き1泊おいてスネアドラムまたおいてバスドラム次はスネアドラム。
おおっなんとなく形になったんじゃないか。
ちらっと彼の方を見ると彼は
「その感覚忘れるなよ。次行くぞ。」
そう言って次のリズムを教えてくれた。
その後もレッスンは続き、小休憩を挟みながら18時まで続いた。
「よしっ今日はここまで、後は自主練してくれ。明日も7時からよろしく。」
「ありがとうございます。」
俺は頭を下げた。
まさかこんなにずっと練習に付き合ってもらえるとは思ってなかったが、どうやら明日も教えてくれるようだ。
この人が普段なんの仕事をしているかは把握してないが、防音設備もあるし、ドラムもおいてあるしおそらく音楽関係者なのだろう。
この人との出会いは昨日。
蓮の演奏を聴いてその足でドラムの売っているお店を探し回り店員とおすすめのドラムや予算など話しているときに、たまたま声を掛けてきたのだ。
店員さんはその人を”
久藤さんは店員さんに何度か話した後、俺の方に向き直り
「ドラムを探しているのか。」
と声をかけてきた。
俺は先ほどまで聞いていた蓮の演奏の感動を他人にも話したくて、少し早口になりながら蓮のことを話した。
「あぁ幼馴染にすげぇ曲を作る人がいてその人と一緒にバンドを組みたいんだ。今1人でやってるけど、絶対ギター意外の音があった方が音楽の立体性を生み出す。まぁ実際はあいつが決めることだけど、だから俺はそいつを口説き落とすためにドラムをやろうと思ったんだ。そいつの演奏聞いてみてくれよ。本当に本当に凄いんだぜ。」
俺は返事も聞かずにSNSに上がっている蓮の動画を久藤さんへ見せた。
しばらく久藤さんは動画を見た後、俺にこう言った。
「これは中々…彼を口説き落とすのは骨が折れそうだね。おそらくずっと1人でやって来たんだろう。曲に対する想いが強い。中途半端な気持ちじゃ彼を口説き落とせないよ。」
「あぁそんなのわかってる。でもそんな中途半端な気持ちじゃない。蓮の音楽はもっと広まるべきだし、もっともっとこいつが奏る音楽をたくさん聴きたい。俺だけじゃなくてもっと多くの人に知って欲しいし聴いて欲しいんだ。あいつはずっと音楽と向き合ってきたから、ここまで凄い曲ができるようになったんだ。」
久藤さんは目を細めしばらく考え込んでいたが、俺の方に向き直りドラムを教えてあげるから、その代わりと条件を出してきた。
俺はその条件を了承し今に至る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます