挑戦
その人は目を大きく開いて少し意外そうな顔をした。
「本当に来たんだ。それで?」
「1週間でドラムをできるように鍛えてください。」
俺は勢いよく頭を下げる。
「1週間…。学校はどうするつもり。」
「勉強に関しては手を抜くつもりはないですが、1週間はドラムだけに集中したいので休むつもりです。」
「あっそう。でも学校はちゃんと行ってくれる。というか学校にきちんと通うことが条件。」
「…わかりました。学校はちゃんと通います。それ以外の時間は全部ドラムの練習に注ぐつもりなので、お願いします。」
改めて深く頭を下げた。
「はいはいわかったよ。それで何の曲やるの?」
俺は先程蓮から渡された楽譜を渡した。
楽譜をしばらく眺めたその人はふぅとため息を吐いた後こちらに向くなり
「無謀だね。」
と言いさらに続けた。
「まぁそれでも君はやるというのだろうから、精一杯教えてあげるけど、1週間で確実にできるとは言えない。むしろ最後までできると思わない方がいい。」
「…それでも俺はやります。」
「あぁそうだね。できるかできないかを今議論しても意味ないね。取り敢えずやろう。その代わりちゃんと契約は違えないでくれよ。」
「はいっ。」
そういうと早速その人の家の中へと足を運んだ。
ドラムが置いてある作業部屋へと着くと
「さっきの譜面のドラム叩いてみるから、よく見ておいて。」
そういうと彼はドラムの前に座り、ドラムの位置を少し微調整するとスティック同士でカウントを取りドラムを叩き始めた。
おいおいおいっ。さっき楽譜見ただけでドラム叩けるのかよ。しかも早すぎて追えねぇ…。テンポが単調なところは何となくわかるけど…。いやっ…集中集中。俺がこれを演奏する事になるんだから。
シンバルのシャーンという音ともに演奏が止んだ。
「これがお前が演奏する最終目標だ。わかったか。」
「…お…おぅ…。」
圧巻されていた俺の返事は少し小さいものとなってしまった。
「大丈夫か。1週間しかないから取り敢えずセッティングとか細かい事については省くぞ。」
「あぁ頼む。」
「それじゃあまずはお前のリズム感をの確認とリズム力鍛えるぞ。真似する通りにやってみろ。」
そういうと”パン・パン・パン・パン”と手拍子をした。
俺はそれを真似て”パン・パン・パン・パン”と手拍子を返した。
その後もいくつか続きた後、右手と左手で別のリズムを取ったり、椅子に座り足もつけてのリズムをいくつかやった。
さすがに足と両手で違う拍のリズムを叩くには時間を要したが、慣れてくるとだんだん楽しくなってきた。
そろそろ次何か教えてもらえるんだろうか。と内心で思いつつ、ちらっと横を見ると彼は何かの作業をしているようだった。
彼は視線に気づいたのかこちらを見ると
「何?もう覚えたの?覚えたならこれに書かれたリズム一通りやってみろ。」
そう言うと1冊のファイルを渡してきた。
俺は黙ってそれを受け取ると、黙々と進めた。文句を言う時間すら惜しかった。
しばらくリズムの練習を黙々としていたが、お腹が空いてきたらしく集中力が切れてきた。
パッと室内を見回してみたが、時計らしきものは置いていない。携帯を取り出し時間を確認すると深夜3時を指していた。
ここに来たの23時くらいだからもう4時間くらい経ってるのか…。そりゃさすがにお腹も空くか。
何か食べ物欲しいなぁと思い家主の姿を探すが、いつの間にかこの部屋からいなくなっていた。
どうすっかなぁ。取り敢えず一旦部屋を出て探してみるかぁ〜。
椅子から立ち上がり部屋のドアを開けると、そこにお皿に乗っているおにぎりと水の入ったペットボトルそしてメモが残されていた。
”お腹空いたら食べろ。トイレは自由に使ってくれ。ドラムの練習は明日朝7:00から始めるから仮眠も取っておけよ。”
あの人こんな優しい場面もあるんだな。おにぎりを室内で食べるのは気が引けたので、廊下でメモを読みながらおにぎりを頬張る。
ってかドラムの練習朝7:00からかよ。一旦仮眠とった方が良いか。でも時間もないし取り敢えずおにぎり食べてトイレ行ったらリズム練の続きをするか。
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