第79話 観られていない男 ~「お前毎日酒池肉林なんだろう!」ガツン!!!
午前中盛大に功績を祝う会場となっていた大広間。
興奮冷めやらぬ諸氏を一度退場させ別室にて待機させるとその部屋は大急ぎで模様替えが行われた。
夕刻前から始まるアンコール伯爵主催の懇親パーティーの会場になるからであった。
大テーブルが各所に設けられ中央には生花が色取り取りに飾られ花を添えていた。
今一段高い壇上の片隅には数名の演奏者が会場を和やかに包み込むゆったりとした曲を静かに演奏して雰囲気を演出している。
既に準備が整った会場には気の早い招待者が三々五々集まり談笑しその人々の間を縫うように使用人たちは次々と料理や飲み物の準備に余念がない。
開始予定時刻が近づくにつれ招待客は次々入場してくる。
下級貴族の夫婦もいれば騎士や上級兵も見受けられ貴族の婦女子たちは華やかなドレスに身を包み少しだけアクセントの貴金属や宝石をさりげなく身に着けるのが帝国流である。
話に聞くところによるとかの南の大国 ”ルドマリッド人民共和国”では真っ赤や真紫の装いに金の刺繍で飾り付けられた服やドレスをまとい、首には金キラのネックレス、大きければ大きいほど誇れる真珠のネックレス、指には金の指輪にこれでもかと大きな宝石を括り付け指と言う指に付けるらしい。
彼の国は金が冨と幸福の象徴で赤と紫の色が国民の好む色である。
それがルドマリッド人民共和国流であった。
そんな国の事はさておき帝国の話に戻りたいと思う。
このパーティーの出席者は伯爵麾下の者だけでは無くラグーンに於いて豪商と言われる者達や冒険者ギルド、商業ギルド、船運ギルド、傭兵ギルド、工業ギルド等の関係者も招待されている。
各商会やギルドは長を筆頭に右手と成りうる者や妻子を伴う事が許されていた。
さて、会場を眺めてみる。しかし知矢の姿は見受けられない。
いや、よく目を凝らしいや気配を探ってみよう。
パーティーが開始されるまでもう少しとなったころ入退場口になっている大扉から堂々と入ってくるではないか。
いやしかし扉の左右に控えている使用人は知矢に全く関心を示さず逆に視線も送らず通してしまった。
とうの知矢は一歩会場に足を踏み入れると周囲を見渡し何かを探している様子だ。
あっ誰かを見つけた様子で一目散に歩み寄る。
その際もすれ違う下級貴族や上級兵士、商家の婦女子なども知矢に全く関心が無い様子でその男を見ようともしていない。
知矢が目指す方向が見えてきた。
やはり冒険者ギルドの集団を探していたようだ、いやニーナのみを探していたと言う方が正解であろう。
人ごみの中を誰にぶつかるわけでもなく見事な体さばきで人の間をすり抜けた知矢はニーナの側へたどり着いた。
「ニーナさん!」
周囲は楽しく歓談する人々で賑わっているがそんな中で知矢はそっと小さな声をかけるのだった。
すぐに気が付いたニーナが振り向き「あら、トーヤさんやっと姿を見せましたね。どこにいらしたのですかとニーナの方も知矢を探していた様子で笑顔で迎えてくれた。
「今日はおめでとうございました。そしてお疲れ様です。」
「目出度いのかは正直微妙ですが疲れたのは確かです。これなら街道を駆け抜けて森で魔獣狩りをしている方が楽でしたよ」と正直な感想を述べた。
「何言ってやがる、疲れる程なにもしてねえじゃねえかお前は。先に入ってお前の登場を待ってた俺たちの方が疲れたわ」
横で話を聞いていた冒険者ギルド長ガインが口を挟む。
「ギルド長、トーヤさんのおかげでご招待の恩恵を受けられたのですからそんな言い方はいけませんよ」とニーナはたしなめるのだ。ガインは話を変えてはぐらかす。
「しかし伯爵も大盤振る舞いだったな。俺の推測より3割は報奨金が高かったぞ。まあそれだけ魔鉱石の埋蔵量が予想より多く収益や経済効果が見込めると言う事だからな。
冒険者ギルドとしても警護の依頼や採掘場付近の魔物の討伐依頼なんかも殺到していて冒険者が足りない位だ。
そのおかげで依頼料も少し上がっている。そう言った意味ではお前に感謝しなくてはな」
珍しく知矢の功績を褒めるガインを見て知矢は調子のいいやつだと思いつつも多くの冒険者にもより依頼料が高い仕事が回せる事を内心ほっとする。
これだけ盛大に知矢の功績を喧伝され広報されれば再び以前のように知矢へ付け入ろうとする者が増えたり冒険者からは嫉妬の目で見られるのではないかと懸念もあった。
しかしその話を聞いて冒険者の方は嫉妬をしている暇も無く、知矢に付け入ろうなどと無駄な時間を過ごすような輩はこの好景気に気づかぬ出遅れている2流以下の者だろう。
そう考えた時この間の様に隠れて過ごしたり気配を消して移動するようなことは少なくなると想像した。
「そういやお前何で気配遮断使っているんだ。おかげで声がかかるまで気が付かなかったぞ」
そう、知矢は控室を出てからすぐに気配遮断の魔法を使って移動していた。だから出入り口の使用人や会場で歓談する客の間をすり抜けても誰も気が付かなかったのだ。
「ええ、使ってますよ今も。だからあんたやニーナさんのように声をかけられたもの以外は今も俺の存在は認識できていないはず、余程の術者や気配感知の使い手でもなけりゃね。
午前中にあれだけ注目を浴びたんだ、物好きが興味本位で近寄ってくるのも面倒だ。俺はこのまま気配を消して静かに飲み食いだけさせてもらう」
「ふふふふっ」とニーナが微笑む
「えっニーナさん可笑しいですか?」と少しすねたような表情をする知矢。
「いえごめんなさい。何かでもこっそり会場を抜けだしたりしないで食べたり飲んだりはして帰ろうと思っているのかと思うと、ふふふっ」
とまた微笑むのだった。
「そういやそうだ。しかもお前は既に金持ちの部類に充分属しているんだ。日頃から豪華な料理を食ってんだろ、別にそんな気配まで消して無理に食べるこたあねえと思うがな」
とガインもからかい始めた。
「何言ってんだ。日頃からって、俺は毎日朝晩は使用人と同じメニューだし昼は出先で屋台を覗く程度だぞ。たまに飲みに行ってもミンダの宿で飲む程度だ。
ねえ、ニーナさん!」と同意を求める。
知矢をからかいながら談笑する三人であったが知矢の気配遮断の影響を受けているのか周囲は全く三人に興味を受ける様子が無かった。
しかしそんな中
「お話し中申し訳ありません。少々よろしいでしょうか」
と三人に声をかけた者がいる。
振り向くとそこに居たのは一人の少女だった。いやよく見るともう少女は卒業し女性と呼ばれる年齢にも見える。
女性は歳の頃はマリエッタと変わらぬ様子だがその低い身長とキリットした顔つきだがどことなくあどけない様子が余計若く見えるのだろう。
「ハイ、私たちにご用でしょうか」
にこやかにその女性に笑みを返すニーナ。どうやら彼女はその女性と面識がない様子だ。
女性は黒いワンピースを着ているが華美な装飾は身に着けておらず唯一身に着けているのは首から革ひもで下げているペンダントのみだ。
そのペンダントも宝飾などでは無く革に色付けされ六角形に成形しその各頂点に各々4原素を表す色のついた石と闇、光を現す黒色と白色の何かの原石がはめられているように見える。
この事からこの女性が魔法に関する立場、魔導士か魔法使いであることは推測される。
魔導士魔法使いの象徴たる杖を持っていないのは今日がパーティーと言う場を考慮しての事であろう。
あるいはそのペンダントも杖と同じ魔法の触媒の役目を持っているのかもしれない。
一瞬でその女性の素性を推測したのはニーナである。
彼女は仕事柄毎日のように多くの冒険者と出会うがおおよそ冒険者の3割程度が魔法使いでもあるから解ったのであるが。
「申し訳ありません、私が用があるのはあなた、ツカダ様です。」
「えっ?俺ですか」
「はい、先日一度お会いしましたが・・覚えていらしゃいませんか?」
とその女性は知矢を指名してきた。
「おいおいトーヤ、こんな若いかわいこちゃんとどこで会ってんだよ、隠すな。なあニーナ」
と知矢の弱点でも見つけたかの様に口撃を始めしかもニーナまで引き入れようとするガインだった。
「ええ、っと」記憶を呼び覚まそうとするが思い出せない知矢は逆に狼狽しているように見える。
「若い、失礼ですがこちらの女性は冒険者ギルドのスコワールド様ですよね」とガインの言葉を受けて今度はニーナの方を見る。
ニーナは名前を知っているこの女性に全く覚えが無い為知矢と同様に少し狼狽しながら
「はい、その通りですがどちらでお会いしましたか。申し訳ございません失念しているようです」
とどうしても思い出せない事を先に詫びるのであったが、
「いえ、詫びは必要ありません。こうしてお会いするのは初めてです。ギルド長のガイン様と冒険者の知矢様そして一緒に居られるのを見て冒険者ギルドはこの人で持っていると言われる鋭才スコワールド様とお見受けしたまでです」
その女性はあまり感情の起伏も無く当たり前のように答える。
「はあ、そうでしたか・・」と気の抜けた返事を返すしかできなかったニーナの脇で「何だこの人で持っているってのは」と憤慨する駄目ギルド長のガインであったが誰も相手にしていなかった。
(確かにどこかであった気がするんだが・・誰だ、どこで会った?)
知矢はニーナを前にこの女性との関係が思い出せず知矢の中では窮地に陥っているのであった。
「その上で失礼いたしますが、私の聞き及ぶところ、私はスコワールド様より一つ年上であったと記憶しています」
「「「えーっ!年上!!」」」
大変失礼な話ではあったが三人して声をそろえて驚きをつい口にしてしまうのであった。
その頃、知矢の店魔道商店2階では
「「・・・あのう」」
「・・・」フリフリ
「「ピョンピョン様」」
「・・・」びよんびよん
「ダメだわ、私には何を言っているのかわからない・・・」
「私も獣人なら話が通じると思ったけど」
知矢に留守中従魔のピョンピョンを頼まれた使用人たちであったが指定された夕食を皿に入れて持ってきたミミとマイは食事を差し出したらその従魔が手を振ったり脚を伸び縮みさせ状態を上げ下げする様子を見てどうしていいやら戸惑っていた。
ピョンピョン『・・・(わーいご飯だ! ありがとうございます!』
後書き
よくほかの作家さんのお話も読ませて頂いております。
正直皆さん素晴らしすぎて夢中で読んでしまいます。
作品名を挙げていいものかわかりませんが
★★★「無職転生 - 異世界行ったら本気だす」
★ 「異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~」
★★「ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた」
★★「異世界のんびり農家」
★★「八男って、それはないでしょう!」
★「転生! 竹中半兵衛 マイナー武将に転生した仲間たちと戦国乱世を生き抜く」
「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
「アラフォー男の異世界通販生活」
★★「異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず) 〜再生魔法使いのゆるふわ人材派遣生活〜」
「本能寺から始める信長との天下統一」
★★「戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。」
「おかしな転生」
★★★「家の猫がポーションとってきた」
★★ R18「せっかくチートを貰って異世界に転移したんだから、好きなように生きてみたい」
などです。本当はもっといっぱいあるのですが特にお気に入りの素晴らしい作品を勝手に列挙させて頂きました。
何か不味ければ後日削除いたします。
上記の作家の方とは無関係なのですが最近読んだ”錬金術師の女性”の話なのですが
話自体は面白く現在更新しているところまでは前話読んでしまいました。
ただ、毎回あとがきがしつこく
「評価をお願いしますお願いします」
とまあその他も色々書いてありますが
毎回のコピペで強要されているみたいで最後まで目を通すのが苦痛に感じたのは私だけでしょうか?
余計な事をだらだら失礼いたしました。
では次話もどうぞよろしくお願いいたします。
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