第78話 大報奨授与式と知矢の怒り  ~「その報奨はわがドミワ家の!!」こらそこの奴隷!!黙って働け!



「「「パーパパパーッパッパッパパパパーーパパパパーーーーー!!!」」」



城内謁見の間として使われている大広間、そこに盛大なラッパの音が響き渡る。



「管理貴族、アンコール伯爵様のご入来!!」



広間に通る声でアンコール伯爵の入場が告げられると居並ぶ騎士は全員腰の剣を抜き目の前に捧げ、下級貴族や官史、市民代表者たちはは軽く頭を下げて待つ。




 コツコツコツと静まり返った大広間に響く一人の足音。




 「皆の者待たせた、楽にしてくれ」

 一段高いところから静かだが全員に行く渡るような通る声で発せられるのは威厳に満ちたこの城、館の主アンコール伯爵その人だ。



 伯爵の声に騎士は納剣し他の者は頭を上げ姿勢を正す。


 皆の視線を一身に浴びる伯爵は満足げに睥睨し間を置き話を始めた。



 「此度の参集、皆ご苦労である。

 周知の通り先日来この都市は近年まれにる大きな発見に伴い色々な物が一斉に動き出した。

 それは皆が存じている”魔鉱石発見”の報である」


 一度言葉を切再び皆を見渡しながら続ける。


 「魔鉱石発見に続き帝都の担当者による埋蔵量が調査され紛れもなくこの数十年来稀に見る膨大な埋蔵量であった事が判明した」


 伯爵の言葉にその量が今まで秘匿されてたこともあり下級貴族はおろか市民たちにも「おーっ!」という深いため息にも似た声が漏れた。


 「この発見により現在採掘場の建設及び加工施設の準備。付帯する住居やその他施設の建設も続々と開始された。これは何を意味するのか。勿論魔鉱石の採掘や加工武器の製造に寄り莫大な利益を生むだけでなく採掘する人工、精製加工職人、武具の加工、更には輸送に至るまで多くの人員を必要とする。

 人が集まれば生活するために商人や店を必要とし食事もしなければならない、たまに酒も飲みたかろう他にも娯楽も必要だ。

 それにはもっと多くの人の力がいる。

 これだけの経済が動き人が集まれば数年いや数十年に渡りこの都市と将来衛星都市になるであろう採掘現場周辺には巨万の富と人があふれるのだ!」


 興奮立ってきた伯爵の演説はなおも続くが聴衆たる下級貴族を始め列席の皆にも興奮が伝播し大きな渦に成ろうとしている。


 「その巨万の富は誰か一人が独占するのではなくこの大事業そしてそれに付随するすべてに関わる皆が一応に分け与えられる事となる。

 だがそれには今まで以上に皆の協力と団結が必要だ。

 この冨の匂いを嗅ぎつけさらに魔鉱石の魅力におそらく、いや確実に南のかの国はその触手を伸ばしてくる。いや既に入り込んでいるに違いない。

 奴らの魔の手からこの帝国を守る為、そしてこの都市の人々のより良い生活の為皆の力をわしに貸して欲しいそして皆の手でこの都市を帝国一の大都市へと発展させようではないか!

 そしてそれこそが我がアンコール家の責務なのである!

 それが叶った時わが身は建国の礎になった多くの国民たちの英霊の元へ安心して旅立つことができる!

 繰り返す、皆の力をわしに貸してくれ!それが全都市市民と帝国国民の為になるのだ!」


 アンコール伯爵の演説が最高潮に達した時聞き入っていた列席者の感情も頂点に達し皆が声を上げて声援を送る



「「「「帝国バンザーイ!」」」」


「アンコール家よ永遠なれ!」


「南の国を追い払え!」


「帝国バンザーイ!」


「アンコール家よ永遠なれ!」


「南の国を追い払え!!!ウワー!!!!」




 広間に響き渡る人々の興奮。暫くの間その様子を満足げに睥睨していた伯爵はおもむろに右手を上げ人々の興奮を抑え話を続けた。


 「諸君の気持ちは十分に分かった。ありがとう。そしてこれからも頼む。

 そして皆よ、忘れてはいけない事が有る。

 今日はその為に皆に集まってもらったのだからな。

 数十年誰一人として魔粉花の群生地を見つけることが叶わずにいた。

 だがそしてある一人の若き冒険者がその謎に迫りついに魔粉花が成長し魔粉草へと進化するを事を突き止めたのだ。


 その大いなる偉業より魔鉱石を発見しこの都市や帝国の未来に太陽のように明るい未来への道を指し示してくれたのである!。


 そんな偉業者に対し皇帝陛下、帝国政府は莫大な報奨をもって応える事となった。

 そのいわば英雄をこの場に呼ぼうではないか!

 皆、偉業を成し遂げた若き冒険者に喝采を送ってほしい。


 では入ってくるがいい。

 ラグーン冒険者ギルド所属、Aランク冒険者 トモヤ・ツカダ殿!!」




 部屋中に響き渡る様にして知矢を紹介したアンコール伯爵の手が居並ぶ者達の中央へ差し伸べられるとその先にある大扉が左右にゆっくり開かれ眩しい太陽光が大広間に差し込んで眩い光により大扉を注目していた者が皆目を細めるとその輝きの中からゆっくり近づいてくる影が見えてきた。


 勿論知矢である。


 知矢はゆっくり真っ直ぐに敷き延べられている赤い絨毯の中央をアンコール伯爵の元へ歩き始めた。


 眩しさに慣れた者達がその知矢の姿を眼に捉えると一斉に大きな拍手が会場を渦巻こだまし

 「若き英雄よ!」

 「ラグーと帝国の救世主だ」

 「キャー格好いい!」

 「バンザーイ」

と再び大広間を熱狂の渦へと変えていった。


 その熱狂の中当の本人は静かに粛々とその歩みを伯爵の元へ向け伯爵の数メートル手前に一度止まる。

 すると興奮のるつぼと化していた人々の完成がピタッと静まるのだった。


 静まるのを待っていたかのように知矢は右足を一足引き右ひざを折り片膝立ちでこうべを垂れ


 「この度はご招待いただき誠に恐縮至極。平民冒険者の私の為のこの様な盛大な場をご用意くださいました事に厚く御礼を申し上げます」

と挨拶を述べた。


 「トーヤ、よく来た。此度の功績誠に上々。帝国本都におわす皇帝陛下からも格別の報奨を戴いた。よってソチに授けるゆえ受け取るが良い」


 「ハハーッ」と更に頭を下げる知矢。


 すると伯爵の後ろに控えていた部下から赤いビロード地に金糸を織り込んだ目録が伯爵へ手渡された。




「ラグーンAランク冒険者 トモヤ・ツカダ。

貴殿のこ度、多大なる偉業・功績をたたえそれを評する。併せて報奨を授けるものとする。


目録


 ・魔鉱石発見の功績により 青金貨3枚を贈るものとする


 ・魔鉱石鉱脈の埋蔵量算定に結果に対する報奨として 白金貨3枚を贈るものとする


 ・副賞として商業中核都市ラグーンに土地と屋敷を与えるものとする。

なおこの所有権は後世子々孫々永久とする。



 以上である。

 謹んで皇帝陛下のお心を受けられよ」


 皇帝よりの報奨目録を読み上げたアンコール伯爵は知矢へと視線を移した。


 知矢は微動だにすることなくうつむいたまま大広間へ通る声で


 「謹んで報奨ありがたく頂戴いたします。」


と答礼すると周囲で固唾をのんで見守っていた騎士や下級貴族などから一斉に大きな拍手を送られその拍手に見守られながらゆっくり立ち上がった知矢は伯爵の元へ一歩一歩近づくとその目録を捧げながら受け取り上目遣いに伯爵を一睨みすると何もなかったように一歩下がり振り返ると割れんばかりの拍手を送る皆へ目録を掲げながら深く頭を下げるのであった。



 その様子を背後から見守っていたアンコールは一瞬見せた知矢の強い視線に内心「わわわ、やり過ぎたかの?だいぶ怒っとるわい・・・」

と背中は汗でびっしょりになり心臓はバクバクであった。




 その後知矢は入室してきた道を再びゆったりと歩きながら周囲に居並ぶ者達から暖かい喜びに言葉を受け退室していったのだった。



 「アンコールの奴覚えとれよ!こんな大げさにしおって!」

と笑顔で居並ぶ者に軽く会釈を送りながら心の中では怒り心頭であった。



 その後控室へ一度戻った知矢は「ふ~っ」と息を抜きだらしなくソファーへと体重を預けていた。


 その傍らには先日大騒ぎの訪問になった折にいたメイドがびっくりした顔で知矢の姿を横目でみながら知矢の要望である熱い紅茶をいれるのであった。




まだこの後、懇談パーティーが続くのであった。





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