第75話 凱旋  ~ キャー!!!!!!!!!!!!

 知矢とニャアラスは少し疲れてはいたが受けた依頼に一応の目途をつけた事もあり時間的には夜が明ける前、騒動の現場を冒険者ギルドから派遣された調査員と商業ギルドから来た多数の人員に事後を託しそのまま勢いに任せ夜を徹したまま帰路に付いた。



 街道を歩く二人と一匹。


 暑い夏から秋を迎え、朝晩は昼との寒暖の差が大きくなっていよいよ冬が迫ってきた。


 知矢がこの世界へ転移し半年が経過。その間感じた季節の変遷は今のところ日本の季節の移り変わりと何ら変わらないように感じていた。


 ニーナやニャアラスから聞く冬の寒さは厳しそうではあったが戸外で人が凍結して死亡する、とういう寒さでは無く寒い南風が吹き荒れる日が何日か続いたり時に雪が降り積もる程度らしい。

 日本の暖かい家や進化した防寒着などが無い分寒いのであろう。


 知矢は未だ日本にいた頃の感覚が体に染みついているせいか今年の夏の暑さはそれほど負担に感じなかった。逆に都市部のヒートアイランド現象やエアコンの室外機から出される熱交換された廃熱、自動車などからもしかりそしてエンジンの排熱、それらが無い分この世界の暑さは知矢にとっては心地よい暑さであった。

 だが冬はどうなるか不安を覚えている。

 なにせ知矢は寒さが苦手であったのだから。



 そんな冬の話をニャアラスと歩きながら交わしていると魔力を使った暖房器具の制作を急がねばと考えていた。


 そして歩いているうちに夜が明始め林を抜け視界が広がるとそこに見えるのは”商業中核都市ラグーン”の城壁であった。

 小川にかかる橋を越え真っ直ぐに延びた街道の最後を進むと城門が見てきた。

 この光景は知矢が最高神により転移されて初めて見た光景であったので何か懐かしさを覚え「帰ってきたな」と思わず呟いててしまった。


 「ニャア、何言ってる。たった数日だニャ」

 ニャアラスが笑うがニャアラスも「帰って来たにゃ」と追従するのだった。


 都市を眺めながら知矢は肩に乗る従魔に

 「おいピョンピョン、これが俺の住んでいる街だ。お前は街の生活に慣れていないんだから勝手に行動するなよ。あと食べ物を見つけても勝手に触ったり食べたりしない事!守れるか!」

 人の街で暮らしたことが恐らくないであろう従魔に最低限の注意を促すのだった。


 従魔は「了解!」と元気よく足を振り思考を送ってきた。


 知矢は出会ってこの数日しかたっていない従魔との主従ラインによる意思疎通が時間を追うごとに明確になってきたことを感じていた。


 そして何か言葉を発する様に感じるその意識は言うならば”テレパシー”のようだと感じ素直に受け入れていた。


 ラグーンの城門は既に開かれて場外へ出かける人々の姿が多く見受けられた。

 それは旅を急ぐ商人であったり依頼を受けた冒険者だったり中には林に何か採取に行くのか籠を持つ普通の市民の姿も見受けられた。

 通行、交差のルールにのっとり二人は右側の城門より入場するべくギルドカードを手に門番へと近づき

 「おはようございます。冒険者のトーヤとニャアラスです。」

と元気良く挨拶すると


 「おお!お帰りなさいトーヤ殿」と顔見知りの門番や騎士に声をかけられた。


 「噂程度ですが聞きましたよ。今度は六角獣を討伐したそうで、おめでとうございます。」

 騎士が尊敬する様なまなざしで握手を求めてきた。

 礼儀として握手を返すが「いやそれは残念ながら間違った情報ですね。討伐では無く六角獣が家族を連れて自分で森へ帰ってくれた。と言った方が正解です。後日ギルドから広報されるでしょうから詳細はそちらで」としっかり情報を訂正するのだった。


 討伐で無かったことに驚きと口惜しさをにじませながらも「いやそれでも二人で無事帰還したのは驚異的な事です。」

と温かく出迎えてくれた。


 そして門番や騎士たちへ挨拶をしその脚で二人は冒険者ギルドへと報告の為足を向けた。



 そこには剣と矢をモチーフに竜をあしらった看板と威厳を現すためか単に実用的か両開きの大きな扉が存在感を示していた。


 朝の出入りの多い時間のせいかその扉は大きく両側に開かれている。


 ニャアラスと並び扉をくぐり冒険者ギルドへ足を踏み入れるとすぐ見える依頼掲示板に群がらる冒険者、奥のカウンターへ依頼受付を行う職員と冒険者、そしてその右奥に設けられた食堂では朝から酒を飲んだり食事をしたり、打ち合わせをする多くの冒険者の姿が見える。


 「何か朝のギルドって活気があっていいな」と知矢は素直に思った。

 実際知矢は余り早朝のギルドへ来た回数は多く無い。

 日常的に依頼をこなすと言うよりニーナに相談をしたりギルド長に談判したり無理を言われたり、そんな事の方が多かったのでギルドの手が空く昼間や深夜に訪れる事が断然多かった。


 しかも先日までは堂々とというより姿をフードで隠したり気配遮断を使用して目立たない様にしていたりだった事も影響している。


 「さてニャアラス今回依頼を受けたのはお前だから報告もお前がするんだよな」

とニャアラスに成果報告を譲るのだった。

 達成成果を報告する事は冒険者にとって華であったためグループだとリーダー、今回の場合はニャアラスの受けた依頼に知矢が手を貸す形であったから当然の事だ。


 「ニャア、俺でいいのかニャ?」


 「良いに決まってる、ほれさっさとカウンターで報告して来いよ」と背中を押すのであった。

 気恥ずかしさからなのかおずおずと空いているカウンターへ向かうニャアラス。

 歴戦の冒険者であるニャアラスではあったが今回のようなB級以上A級とも言われる魔獣が関係する依頼を無事完了した経験は余りない。

 普通の冒険者だとパーティーやレイドを組んでもおかしくないぐらいの内容だ。

 それが結果討伐で無かったとしても生きて達成し帰還する、これだけでも十分誇れる結果であった。



 「おはようニャ、六角獣の依頼を完遂したニャ」と依頼達成のサインが刻まれた書類を職員へ提出する。



 「ハイ、無事達成おめでとうございます。依頼書を確認しますので少々お待ちくださいね」とにこやかに応対するギルド職員はニャアラスの出した完了書とギルドに控えてある依頼書を確認し始めた。


 「あっ、少々お待ち下さいね」と言葉を残し奥へ入って行った職員。

 少しすると別の職員、ニーナとギルド長のガインを伴い戻ってきた。


 「ニャアラスさん、依頼無事達成おめでとうございます」と目一杯の笑みで迎えるニーナ。


 「おいニャアラス、やったなこれでお前は名実ともにBランクの冒険者だ!おめでとう!」とガインはニャアラスの肩を叩きながら一緒に喜んでいる。


 周囲にいた職員や冒険者もニャアラスがBランク昇格の依頼を達成したことを聞きつけ集まり盛大な拍手がニャアラスを包んだ。


 「おめでとうございます」


 「ニャアラスさんBランクですってすごいっすね」


 「いやあとうとう追いつかれちまったな!やったな」


 一気にギルド内は依頼完遂とニャアラス昇格のお祝いムードに包まれるのだった。



 その様子を少し離れて拍手をしながら見ていた知矢はニャアラスが皆に愛された冒険者なのだなと感じ、全力でお祝いしてくれている光景に思わずうるッとしてしまうのだった。


 ひとしきりお祝いを受けたのち

 「おいそういやトーヤの奴は一緒じゃないのか」とガインが声をかけ周囲を見回した。


 「ニャ、トーヤはそこにいるニャ。おいトーヤお前も一緒に達成したんだからこっちに来るニャ」

と知矢を呼ぶ。


 あまり目立ちたくはなかったがお祝いムードを崩すのは失礼だと思い呼ばれるがままに割れた人垣の間を進み出た。



 「おお、こいつ他人のような振りしやがってお前とニャアラスの共同受注だろ胸を張・・・・・」

 大声をあげて盛り上がってしゃべるガインが突如言葉を失った。

 「・・・・・お、お前そっ・・その肩にい・いっ、いるのは・・ゴールデン・デス・スパイダーじゃねえか!!!!!!!!!!!」

と叫ぶように知矢を指さした。


 すると周囲にいた冒険者もその肩でくいくい脚を回す様にうごめいている物を確認し


 「ギャアアアアア!!」


 「逃げろ!!!!!!」


 「キャアアアア!!!」


 「トーヤ動くな!今槍を持ってくる!動くなよ!!」

 もう冒険者ギルドは大騒ぎになってしまった。


 「待て!!!!静まれ!!!!」叫ぶ知矢


 「慌てるな!!大丈夫だ!」



 「何が慌てるなダ! お前解ってんのかゴールデン・デス・スパイダーって言ったらA級の魔物だぞ」



 「こいつは大丈夫だ。俺の従魔になり言う事を聞くし何も危険な事は無い!」

と必死に叫び周囲に危険の無い事を訴える。


 知矢は従魔に驚くかな?位に簡単に考えていたがまさかここまで、元とはいえA級冒険者だったギルド長のガインまでもが恐怖で顔を引きつらせ普段携帯していない腰の剣を探して手に空を切らせたり慌てていたのだから。



 「従魔だと!まさか、えっ?」

 未だ半信半疑なガインである。


 ニーナもとっさに目を覆っていたがその指の隙間から怖いもの見たさなのか必死に様子を窺がっていた。


 「みんなも聞いてくれ。」と騒然とした周囲へ訴える。


 「先に紹介しなかった件は済まない。まさかこんな大騒ぎになるとは思いもしなかった。

 この魔物、ゴールデン・デス・スパイダーは本当に俺の従魔になった」

と言いながらAランク冒険者カードの裏を周囲に見せて確認をさせた。


 「こいつは皆が恐れるようなものでは無い。

毒も持たないし、人を襲う事は絶対ない。

 しいて言うとお腹が空いているときは獣や魔獣を見ると餌認識して勝手に食べる傾向はある。だがしかしこいつと俺は主従ラインで繋がりきちんと制御できている。

 その証拠に。オイ、前脚を振ってみろ、下せ、今度は一周してみせろ。

 よし最後は頭の上へ登って皆にアピールだ。可愛いとこ見せろよ」

 従魔のピョンピョンは知矢の言う通りに動き最後はするりと知矢の頭のてっぺんに登り後ろ足で立つと周囲へヤアヤア!と片手を振り上げるのだった。


 「どうだ、こんな風に言葉も理解して言う事も聞く。食事も俺と一緒に三食与えられた肉などで満足している。全く危険はない安心してくれ。」

 知矢の説明と実際ゆう事を聞く魔物を見た皆は唖然として言葉も無かった。


 そこに

 「あの・・トーヤさん、宜しいですか」とニーナが少し怯えながらも前へ進み出てきた。


 「あっニーナさん、ごめんなさいニーナさんまで脅かしてしまいましたね。こいつの名前は”ピョンピョン”と言います。どうかよろしく」

 ニーナに従魔を紹介するとニーナは顔を引きつらせて笑っていたがピョンピョンは紹介されたことを理解しニーナへ脚を振り振り挨拶をするのだった。


 その様子を見たニーナは引きつった笑顔が失せぱっと本当の笑顔を見せた。

 「いまこのこ私に挨拶しましたよね!うわーよく見ると可愛いですね!」

 と従魔へそっと指をさし出すとピョンピョンは背中を見せる。


 「ニーナさん、良かったら背中を撫ぜてやってくれますか、喜びますよ」

という知矢の声にまだ少しだけぎこちないが知矢を信じるニーナは優しくそっとピョンピョンを撫ぜるのであった。


 「うわ~!柔らかいフワフワの触り心地ですね。あなたはピョンピョンっていうのね。これからよろしくね。私はニーナよ。」

と声をかけるのだった。


 周囲にいた者達はニーナの行動に緊張を一気にとき警戒心はいささか和らいだ様子だ。


 「いや、だがしかし・・・・従魔ねえ・・」

 今一つ得心できない様子のガインだがそこへ


 「ニャア、今回の一番活躍したのはこの従魔かもしれないニャ!こいつ六角獣と話が出来たらしく怒り狂う六角獣を諫めたんだニャ!ホントこいつは良い従魔ニャ!」

とニャアラスの援護もあり次第に周囲は 「従魔だしな」 「あんなに小さしな」

など受け入れる雰囲気になって来て知矢も一安心した。



 その後次第に落ち着きを取り戻したギルドは平常に戻ったがやはりクモを見る女性冒険者やギルド職員の顔はいささか強張っていたのであった。


 しかしそんな彼女らにもピョンピョンは


 「イエーイ!よろしく!!」

 と手を振るのであった。

 しかしその念は他の物には届かずただただ手を振るだけであった。





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