第73話 奇跡の魔法(ワザ) ~オイオイこれからどうすんだ



 細い足が優しく


 「ツンツン!」


 巨体から伸びる足が優しく


 グイグイ!


 ツンツン!!


 グイグイグイ!!


 ツンツン…………ペシペシ!!!!!!


 グイ………ガコーン!!!!!!!


 「うわっ!イテッ!!!!何だ何だ!!…………わあっ!!」

 知矢は意識を失い草むらに横たわっていたが優しい衝撃を受け覚醒した。

 そして目を開け最初に目にしたのは恐ろしい魔獣の顔が目の前にいる光景だった。


 「………」驚き声に成らず固まっていると何かが意識に問いかけてきた。


 「……ピョンピョンか!」

 恐ろしい魔獣の顔の前には懐かしい?従魔の顔が見えた。

 ピョンピョンを目にした事で気を落ち着かせた知矢はやっと状況を確認し何が起こったのか記憶を蘇させた。



 六角獣の群れが捕らえられていた檻。

 防御魔道具で固く守られどんな攻撃や衝撃からも守り耐え抜く強固な物に対し仲間の救出の為、己の身を犠牲にしてでも破壊しようと血を流す姿を見せた六角獣。

 その姿にニャアラスと知矢は代わりに檻の防御魔道具を解除し助け出そうとした。

 だが肝心の防御魔道具を動作させている魔法陣の操作が不明で下手に破壊すると魔力タンクに蓄えられた残存魔力が暴走爆破する可能性があり困難を極めた。


 知矢は何とか解除するため自身の鑑定魔法を行使した。するとその時鑑定魔法が進化を遂げたのである。


 それは "解析補助魔法、Analyzeアナライズ"


 その新機能を用い知矢の活動を助けているしているコミュニケーションサポート機能が補助しながら魔法陣の制御を解析したのだった。


 知矢のSS級魔力の半分以上を注ぎ込み解析に成功、防御魔道具を停止する事に成功した。

 しかし知矢はその成果を確認する前に膨大な魔力放出した反動で意識を失ったのであった。


 「そうか、俺は気を失っていたのか」とピョンピョンに尋ねた。

 すると両足を振り上げる様に身振り手振りで「体が光ったと思ったら急にご主人様が倒れて驚いた」様な事が伝わってきた。


 「心配してくれたのか、ありがとな」と知矢はその小さな従魔の背をやさしき指で撫ぜるのだった。



 「Busyuu・Bururu」ドスンドスンと前脚を地に軽く打ち付ける様にしながら何かを話す様に発する巨体、六角獣が知矢の傍らでその存在をアピールしているかのようだ。

 どうやら六角獣にも揺り起こされていた様で最後の衝撃がそれであった。


 その巨体からは先ほどまでの怒りに満ちた気配は消え失せ落ち着いた様子に見えるが流石に先ほどまでその象徴たる六角錘の角に金色の怒りの電撃を満たせていた者と同一とは思えない落ち着いた様子を見せていた。


 横たえていたその身を起こしゆっくりと立ち上がった知矢に六角獣は鼻先で何かを確認する様に匂いを嗅いでいる様子だ。


 目の前にその巨大な顔を寄せられ(パク)っと一口で食べられそうな大きな口もすぐそばにある。


 知矢は(大丈夫だよな)と少しドキドキしながら六角獣が何をやっているのかわからなかったが動いてはいけないのかと思いその身を任せていた。


 しばし匂いを嗅ぐようなしぐさをした六角獣は顔をあげようやく知矢を解放した。

 「ふ~っ」と息を吐き緊張を解く知矢。


 「おーい、トーヤ」少し離れた大木の影から半身を覗かせ様子を窺がうニャーラスだ。


 「何隠れているんだ、出て来いよ。六角獣は大丈夫そうだぞ」

と声をかけ改めて六角獣、その巨体を下から眺めるのと先ほど一閃し巨体の下をすり抜けた時には感じなかった大きさを実感するのだった。




 「しっかしやはり大きいなこいつ」と呟くと肩にピョンと従魔の気配がしピョンピョンが今は定番になりつつある知矢の肩へ姿を見せた。


 「ピョンピョンのおかげで何とかなったみたいだな。ありがとうピョンピョン」

と脇を見ながら従魔に声をかけると「お腹空いた」と言う声が伝わってきた。


 「なんだもうお腹空いたのか」との問いかけに「あっちあっち」と前脚を示す方をみると大小数匹の六角獣が防御の魔道具によって奪われていた自由を取り戻し狭い空間で身動きも取れなかったのであろうおずおずと感覚を確かめる様に壊れた檻から出て周囲を歩いていた。



 「ああ、そうか。奴らの分か成るほど。暫く閉じ込められていてろくなエサも与えられていなかったのか」


 知矢はそう言いながら無限倉庫に収納していた魔獣の内臓と切り分けた肉の塊を地面に並べてみた。


 その様子を離れて窺がっていた六角獣たち。どうやら肉が気になるようだ。


 「おい、ピョンピョン食べて良いよって伝えてくれるか」

と肩の従魔へ問いかけると無言で前脚を振りながらコミュニケーションをとっているとどうやら上手く通じた様子でゆっくりと知矢を気にしながらも食欲には勝てない様で一頭が食べ始めると他の六角獣も追従し競って食べ始めるのであった。



 「そうとう腹が減ってたニャア」ニャアラスも六角獣を警戒しながらも知矢へ近づいて来た。



 「ニャアラス、俺の魔法が行使された後見てたか?どうやら俺は気を失っていたみたいだな。」


 「ニャア、見てたニャ。知矢が気を失った後にゃ、淡い光に包まれたと思うと防御結界がまるで何かがはじける様に霧散して消えてったニャ。

 上手く行って良かったけど自由になった六角獣たちが檻の作を壊して出てきた後あのデッカイのが気を失っているトーヤに近づいて脚を振り上げた時は”もうだめニャ!”ってびっくりしたニャ。

 おかげでその時の逆立った毛がまだ直らないニャ」

と毛が逆立ち全身が一回り大きくなったように見えるニャアラスが話をしてくれた。



 「そりゃあ心配かけたな。どうやらピョンピョンが上手く話を通してくれたみたいだ。」

 再び方の乗る従魔、ピョンピョンの顔を見る。

するとピョンピョンが逆に再び何か願うように身を左右に振りながら訴え足を六角獣の足元の方へ向け盛んに振るのであった。

 「えっ、ああそうか。もちろん可能だが奴がそれを良しとして受け入れるのか?」

 従魔の訴えに知矢は賛同を示すが相手有っての事だと懸念を示した。


 「今度はニャんだって?」


 「ピョンピョンが俺との戦闘で傷ついた奴の怪我を直せないかってさ。どこまでもこいつは気の回るやつなんだ、大したもんだよ。 しかし六角獣がそれを受け入れるかだな。

 人族の、しかも俺の攻撃で負った傷の治療をその張本人から受ける。どうだろう、六角獣が受け入れるなら俺は全力を尽くすが。」


 するとピョンピョンは知矢の肩からぴょ~んと宙を駆け空腹を満たすために夢中で食事をしている仲間を見守っていた六角獣の鼻先へと降り立った。

 また先ほどの様に身振り手振りそれこそ全身を駆使し自分の考えや知矢の魔法の事であろう、それを魔獣へと訴えている様子だった。



 しばし無言の会話が続いた後その仲間を救うためにそれこそ命を懸け傷つき満身創痍と言っても良い体躯であるがそのどっしりとした威厳に観満ちた姿でゆっくり振り返りまたもや知矢をじっと見つめるのだった。


 知矢はその視線を動じることなくそして先ほどの戦いも卑下することなく敢えてじっと見つめ返す。

 暫し見つめ合った互いであったが従魔と異なり何かパスが繋がれた訳では無かったが思いも届きそれを受け入れたかを確信できた。


 知矢はゆっくりと巨体に近づき先ほど自分が刀で一閃し、さらに下方より放った手裏剣(投てき用小型ナイフ)による傷を確認した。


 併せて防御魔法陣をその身で破壊しようと突撃や打撃を繰り返してできた傷、裂傷や打撲、骨折らしき骨の変形も外部から見て取れる。

 それらをまとめて癒す、治療できるか少し考えながら自分のステータスを再度確認した。



生活魔法のLV6・・・回復(小)

       ・・・状態異常回復(小)



 知矢は特殊な魔法を作って活用していたが今まで怪我や病気に無縁な生活が災いし回復系の魔法のLVを上げていなかったことを少し後悔した。



 回復(小)では腱に届く様な深い切り傷や骨折は完全に回復させるには難しそうである。

 ましてや体を大きく深く削られている裂傷等は無理であろう。


 優しい従魔の願いではあったが力が及ばない事に悔しさを滲ませて悩んでいた、その時ふと思い


 「おい!・・あれそういや何て呼び出せばいいんだ。

 神様から授かったサポート役の人!聞こえていたら返事してくれ!」



 「”ピーン”お呼びでしょうか」


 「おっ、聞こえていたか良かった。その前にお前の事を呼び出すには何と呼べばいいんだ、教えてくれ。」

 すっかりコミュニケーションをとっていなかったので呼び出す方法も名前も解らなかった知矢は呼びかけに答えてくれてホッとしていた。


 「”ピーン”私は双方向コミュニケーション・ナビゲーターと申します。個別呼称は設定されておりません。ご自由にお呼び下さい。」



 「それじゃ呼び出すのも不便だな。俺が勝手に名前を付けてもいいのか」


 「”ピーン”ハイ結構です。なお地球で実在した呼称をそのまま使いますと著作権侵害等の問題をはらむ場合がございますのでご注意を。

 具体的には  ※1)・ドラ◎もん、アナ◎イザー、タチ◎マ、レ◎、等アニメ系は特にご注意ください。」


 何か変な回答があり余計困惑する知矢だった。


 「呼び方、名前かお前が変な例を出すからそっちに思考が引っ張られそうだ。」と他のアニメから流用しようかなどと思考が偏重してしまった。


 「ああ、もう。済まないが呼称(仮)でも良いか。何か別案が思いついたら変更したいが」

 一度偏重した思考はすぐに戻せなかった知矢は逃げを打った。


 「”ピーン”ハイ結構です。登録名称をお願いします」


 「コ、ナビ、そう”コナビ”と仮登録してくれ」


 「”ピーン”仮り呼称 ”コナビ”登録しました。変更の際はお申し付けください。」

どうやら仮であったが名称が決まったよだ。


 「ではコナビ。ここに居る六角獣の傷を治してやりたい。全ての怪我や傷などを俺の生活魔法では今回復(小)しか使用できない。

 そこで創造魔法を使って今の俺に作れる新しい魔法でこの傷を治せるものは出来るだろうか。」


 本来創造魔法は知矢の知識を具現化させる魔法でありその魔力量に比例させ知矢の知識とイメージで作り上げる者だったが医療系の特に外科系の知識は持ってはいたが実際の治療実務の知識が曖昧だったため具現化する事を躊躇してしまったため”コナビ”のサポートを求めたのだった。


 一応知矢は医者を一族に持つ家系であり知矢自体も学術書や医療マニュアルなどを多く目を通し知識はあったが自分のみならいざ知らず他の者へ実際に治療する程責任のある知識では無かったからである。


 「”ピーン”ハイ回復魔法をより身体全体を広範囲の傷なども修復できる ”リバイブ(中)”を作成が可能です。使用魔力量は現残量魔力の2%ほど。

 なお、知矢さまの魔力回復量は30%/hになりますので先ほど”アナライズ”使用にて減った魔力量は既に50%回復しており仕様に対する身体への負担は有りません」


 知矢の魔力量はSS級、さらに回復速度もSS級である。よって魔力枯渇が起きたとしても数分休めば10%程はすぐに回復する。


 しかし先ほど使用量55%で気を失ったのは初めて莫大な魔力を一気に放出した反動。いわば慣れない事をしたために起きただけであり、それが知矢の身体へ死の危険を及ぼすほどの事では無かった。


 この魔力法質量を経験した為今後は心身共により強化され再び意識を失うような事は無い。


 ただし完全枯渇した場合は別であったが。


 「よし問題ないのなら”リバイブ(中)”を作成する。サポート頼む」


 「”ピーン”了解しました。では魔力集中を始めてください。知矢さまが創造魔法を行使し私が”リバイブ(中)”作成構成を組み上げます」


 「わかった!”創造魔法”!」

 知矢は魔法を唱え魔力を放出しながら掌の中に練り上げていった。


 その知矢の一連の行動を見守っていた六角獣は先ほどの膨大な魔力放出時にも密かに慄いていたが再び魔力を練り上げるその姿を見て密かに「勝てん」と心の中で呟いていたのは誰も知らない。無言で会話できる一匹の従魔を除いて。


 そして従魔、ピョンピョンも知矢の傍でわらわらしながら見守っている。


 ニャアラスも次から次へと凄い事を始める知矢についていけず黙って見守るしかなかった。


 なお、ニャアラスの体毛は未だ毛立ったままである。



 「”ピーン”リバイブ(中)魔法陣構成完了いたしました。対象物を特定し行使が可能です」


 「よし、ありがとう。」

 ”コナビ”に礼を言うと知矢は早速治療を実行する為傍で黙って見守っていた魔獣”六角獣”に向き直る。


 そして「リバイブ!!」と唱えると対象に選択された六角獣が淡いそして眩い光に優しく包み込まれた。


 「Guuuu!!」


 光に驚いたのかそれともリバイブで再生されていることに痛みでも伴うのか六角獣は低い唸り声を上げたが暴れ、拒否する様子はなく必死に何かに耐えているようだった。


 発光する時間はほんの数秒だったのかもしれない、だが知矢やその周囲で見守る者達、仲間の六角獣達にとっては長い刻を感じた。


 次第に静まる光の中から姿を現し始めた六角獣。

 眩い光が完全に消えうせた時、その体躯は悠然と立ち、毛並みも何か光輝いて見える。


 「成功かにゃ?」黙って見守っていたニャアラスも思わずつぶやいた。

 その言葉が聞こえたのか、六角獣は首を周囲に回し自らの体を確かめる様子だ。


 体の様子を確かめた後前脚や後ろ足を盛んに踏みしめたり軽くジャンプしその場でクルクル回って見せた後知矢へと向き直り


 「Guooooon!!!」と大きな嘶きを発した。

 すると周囲で見守っていた仲間たちも呼応するかのように


 「「「「「Guooooon!!!Guooooon!!!」」」」」」

 一斉に嘶くのであった。



 「どうやら上手く行ったみたいだな。コナビ、ありがとう助かった」

 欠損部を再生させたり腱や裂傷、骨折を一気に回復させるいわば大魔法であった。


 死者を詠みがえさせる事は叶わないにしてもこれほどの大けがを修復する魔法だ。他に知れたらまた大騒ぎになるであろう。

 今はそんな事は何も考えていなかった知矢である。


 「”ピーン”どういたしまして。またご用の節はお呼びください」

と一言残しその無機質な声は途絶えた。



 「ニャア!知矢。おみゃあ凄い魔導士だったんだニャ!剣士かと思ってたにゃ」

 興奮気味に続けざまに大魔法を見せられたニャアラスは知矢の両肩をパフパフ肉球で叩きながら嬉しく飛び回る。


 「何言ってんだ、俺はあくまでも剣、刀で生きる冒険者だ。魔法はたまたまだ。そうたまたま、だからお前は他の奴には黙っててくれよ。こんなのがばれたらまた身を隠さないとならなくなる」


 おどけながらもキッチリニャアラスにくぎを刺す知矢であるがニャアラスなら心配ないとも既に分かっている。



 ひと時の嘶きに満足したのか体の確認を終えたのか、六角獣は群れを伴い知矢達の方へ近づいてきた。

 二人を囲むように見下ろす六角獣達。


 その内の一匹、未だ子供であろうがその体躯は既に知矢達を大きく凌いではいたが未だ体つきは子供の様子であった者が一歩前に進み出代表する様に知矢とニャアラスそしていつの間にか戻って知矢の肩にいたピョンピョンをひと舐めしていった。


 「礼のつもりか?」と呟きながら一閃交わしリバイブで傷が癒された六角獣へ視線を向けると互いに再び見つめ合った。


 何か会話を交わした訳では無かったが暫し無言で見つめ合ったのが男同士の会話だったのであろう。


 六角獣は視線を外すと群れを見回し


 「Gururururu!」


 ひと言声を上げると他の六角獣は静かに踵を返し東の大森林へとゆっくり歩を進めていった。




 仲間が森の入り口からだんだんとその姿を大木の影へ溶け込ませたとき未だその場に残り知矢達を見下ろしていた一頭も最後の挨拶なのか”ズシーン”前脚を一踏み鳴らし踵を返すと群れに続いて大森林へと帰って行った。






 「・・・行っちまったな」


 「ニャア、帰って行ったニャ」


 暫くその後姿を見つめその最後の巨体が生み出す大きな足音が聞こえなくなるまで二人は見送っていた。






 「さあて、これからどうする。傭兵たちの弔いとかもあるし一度ラグーンに帰り人を出してもらわないとな」


 「ニャア、これはこれで後始末が大変ニャ」



 大森林へ帰って行った六角獣。

 しかし残された二人は周囲を見回しながらその後の事を思い出し考えると頭が痛いのであった。




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