第72話 魔道解析  ~ ピョンピョン「・・・・・」六角獣「・・・」何話してるニャ?



 「ニャアラス!不味い、この魔法陣解除の仕方が解かんねえやつだ!」


 魔法陣の構成や魔力の流れを観察している知矢は焦りながらニャラスに助けを求める。

 別の魔法陣を破壊したニャアラスは素早く知矢に駆け寄り脇からその魔法陣を観察する。



 「おいお前分るか?」


 「ニャア、こんなのぶっ壊せば良いニャ」と簡単に言うが知矢には万が一魔力暴走が起こり檻に閉じ込められている六角獣たちにもしもの事が起こる事を懸念するのだ。


 「いや、あっちのお前が解除したシールドと違いこれは魔力タンクを備えた制御型だ。万が一暴走したら檻の中は魔力の渦が巻いて爆発するかもしれないぞ」


 「ニャァそんなのありなのかニャ。じゃあどうするニャ」


 「うちの使用人のサーヤなら魔法陣も得意だが今から戻って連れて来るなんて2日は掛かる。それまで六角獣をピョンピョンがなだめててくれる・・・・のは期待しない方が良いな。」

と六角獣の鼻先で今も何か話をしているような素振りの従魔を見て思い悩むのだった。



 「とりあえずやれるだけやってみる!」

とニャアラスへ告げた知矢は再び魔法陣の並ぶ制御回路とも言える魔道具の心臓部を見つめ解析魔法を唱えた。


 すると“ピーン”いつもの音が脳内に響く。


 “解析魔法がレベルアップしました。

 これより解析補助魔法、Analyzeが発動出来ます。”




 「アナライズとは何が出来るんだ」

 突然のレベルアップ、知矢は藁をも掴む思いで問いただす。



 「指定された物に対する個別解析及び解明、動作方法の確認、構成物資の解明等です」

 未だ少し無機質なアナウンスがそう告げたが余り意味が解らなかった。


 「で具体的には」



 「今解析中の魔法陣の使用方法及び制御方法を解析し動作制御の方法を案内できます。ただし魔法陣への直接干渉にはその魔法陣に設定された魔力を超える魔力を要します。

 実行致しますか?」

 目の前のスクリーンには “イエス・ノー“ の選択肢が表示された。



 僅かに逡巡した知矢だったが自分の魔力SS級と魔力回復速度を信じて

「イエスだ! 直ぐに解析してくれ」

と告げると両手で魔法陣を覆う様に翳し魔力を注ぎ込むのだった。


 両手を通じどんどん自分の魔力が放出されるのを感じる。

 今まで魔力枯渇等無縁で通してきた知矢だが放出される魔力が時間につれ全身の喪失感を覚え始めた。


 今まで体験した事の無い感覚であり防御の魔道具に込められた魔力とどちらが上なのか、不安を覚えた時再びアナウンスが流れた。


 「”ピーン”、魔力放出量が全保有魔力の5%に達しました。

残り放出量推定は不明。解析を続けます」


 知矢は「これで5%?」ともう既に感覚的には枯渇しそうな気でいた。

 だが実際に5%だとするとまだまだ行ける!と更に魔力を込めるのだった。


 その様子を見守るニャアラスは知矢から放出される魔力とその魔力量により知矢の周囲に浮かび上がる魔力の残滓がまるでオーラを放出している如くの光景に息を呑みながら注視していた。



 「トーヤの魔力はまるで上級魔道士みたいだニャ」と呟きながら感じる力に冷汗をかく。


 ニャアラスの呟きの様に知矢の魔力はこの世界の最高を誇る魔道士に比するどころか、遥かに凌ぐ魔力を有していた。


 最高神より得た力ではあるが元々のその力を受け容れられる器が無ければ成し得ない力だ。

 その知矢の力の根源は何処から来たものか。

 ニャアラスには伺い知れないが実は日本で鍛え上げた武術、取り分け居合術や抜刀術、そして1番には弓術で鍛え上げた精神力に依るものが大きい。


 魔力の制御や運用には殊更精神力、集中力が不可欠である。

 さらに長年鍛え上げた肉体とのバランス。

 此等が噛み合う事により膨大な魔力を持ち、種々の魔法を行使する事か出来るのであった。




 余談になるが


 現代日本における武道の数々はあくまでスポーツであり、覚えた技の訓練と発動に於いては素晴らしい成果を試合では出せるがあくまでも試合である。

 武術におけるそれとは全く異なるのは先ずは相手を殺すか殺されるか、武術と言うものは其処が大きく異なる。


 実戦で敵に対した時「メーン!(面)」等と大声を振り上げて突進してもただ相手に避けられるだけである。


 さらに大声出すと言うことは息を吐くと同意であり、本来息を詰まらせ丹田へ気を込め僅かに口から白糸の様に薄く細く息を吐きながら歩を進め刀を振り抜くものだ。


 息を大声で吐いて気の抜けた剣先、ヘロヘロの剣の軌道など何の技も力も無い。

 あれはただ筋トレで力を付けただけの棒を振り回しているに過ぎないのである。

 故に剣術家と剣道のスポーツマンが対すると勝てないのが道理であった。




 閑話休題


 知矢はひたすら己の魔力を流し続ける。それは今まで”創造魔法”で新たな魔法を作り上げる時に用いた魔力の比ではない。


 確かに創造魔法にはもっと魔力を必要とする根源魔法や瞬間移動などの魔法ならば莫大な魔力を注ぎ込む必要があるかもしれないが未だ知矢の創造魔法のレベルではそれらを作り出す域には達していなかった為これほどの魔力を一気に放出する機会が無かったのである。

 知矢は今、体中の何かが吸い上げられ力が枯渇しそうな感覚を延々味わっていた。

 それは終わりの見えない感覚でここで意識を失えればどんなに楽であろうかと本気で思う程であった。

 意識は希薄になり自分が今何をやっているのか判らなくなりそうな状態で体もふらふらとし力が入らなくなってきた。

 見た目だけは何とか歯を食いしばり踏ん張っているように見えるのだが。


 「トーヤ・・・」ニャアラスも傍らで声をかける事しかできないが一緒に歯を食いしばって手に汗を握っている。



 「”ピーン”、魔力放出量が全保有魔力の50%に達しました。

 残り放出量推定は不明。解析を続けます」

 既に半分の魔力を放出した事に成る。


 あとどれくらいか、魔力タンクにはどれだけの魔力が残っていたのか。傭兵たちが存命だったら分ったかもしれないその情報の当てが今はない。

 知矢は一度失いかけた意識を取り戻そうとさらに食いしばり耐えている。


 ニャアラスは無言で手に汗握るのみ!


 ピョンピョンは相変わらず六角獣と無言の会話中!



 知矢にとって無限とも思える時が流れた。そして



 「”ピーン”解析完了。残量魔力45%。魔法陣の作動を停止しますか  イエス ・ ノー 」

 やっとの事で魔道具の動作解析が終了した。


 知矢は虚ろな思考ではあったが”イエス”を選択し、そして意識を手放すのであった。





後書き


「・・・・・・」


「・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・」




「トーヤ、あいつら本当に会話してるのかニャ?」


「してるんだろ、じゃなきゃ今頃俺たちは灰になってるぜ」



 ※ピョンピョン 「でね昨日ご主人さまから貰ったご飯がとてもおいしくてね、しかもおかわりし放題なんだよ」



※六角獣 「何!そんな好待遇なのか、わしも従魔にしてもらうか!」


※ピョンピョン「うん!そうしようそうしよう!」






なお本編とは一切無関係だと思います。



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