第71話 多大なる犠牲 〜俺の方が速いニャア!
六角獣の雷撃を受けた傭兵たちが全滅しニャアラスが戦闘不能かと思われたとき疾風の如く六角獣に駆け寄った知矢は前脚による攻撃を懸命に避けさらに踏み込み前脚を上げたせいで動かせない後ろ足を狙いその要ともいえる腱をめがけて刀を振るった。
後ろ足の腱を切り更に通り抜け様放った小刀の投てきが腹部へ刺さったのを確認する間もなく駆け抜けニャアラスの元へ戻った知矢。
一撃は放つことが出来た、だが未だ健在でさらに怒り狂う六角獣に如何に接敵するのか!
「ニャ、トーヤが一閃浴びせたんニャら俺も!」と槍を構えその俊足を誇る脚に力を込めた時
「いや待てニャアラス。」知矢が大声で今にも飛び掛かろうとしたニャアラスを制止する。
「どうしたニャ、動きが鈍い今がチャンスニャ」
「ダメだ、見てみろ。やつの角が変色し始めている」
ニャアラスは知矢の声で六角獣の象徴ともいえる六角錘の角を見ると薄青い角は今、黄金の輝きを放ち始めている。
「散開して距離を取れ。間もなく放たれるぞ!」
二人はまるで示し合わせたかのように脱兎のごとく左右別々の方向へ走り出した。
その直後
「KUUUUUUUUUUU!!」
六角獣の深い息遣いが聞こえたと思うと
BARIBARIBARI!!!!!!!!!! 先ほど傭兵たちを葬り去った雷撃が再び放たれ地面と大気を揺るがす轟音と閃光が辺りを埋め尽くした。
周囲の木々もなぎ倒され黒く焦げた残骸と煙が周囲を覆う。
「ニャアラスー!!!」
知矢が避けた方角では無くニャアラスが走り去った方へ雷撃が走った。
知矢は倒れ、焦げた木々を縫うように走りながら大声でニャアラスを探す。
その時、知矢の肩口に「ピョン」と何かが触れたと思うと
「ピョンピョン!お前も無事だったか」
木の陰で隠れているようにおいて来た従魔を心配していたが無事合流してきた。
焦げた木々のエリアを抜けると大岩がいくつもせり出す崖があった。
その岩の影にニャアラスの尻尾が見える。
「おいニャアラス!」
駆け寄った知矢はニャアラスの体を見て回ると煤で汚れているようだが怪我は無さそうであった。
息はしているので衝撃で気を失ったのかもしれないが念のため知矢は生活魔法で覚えた”回復(小)と状態異常回復(小)”をかけてみたが目を覚まさない。
このまま岩陰で休ませておこうと思い
「おいピョンピョン。ニャアラスの奴が目を覚ますまでここでお前が見張っててくれ、他の魔獣が来て無理なら逃げても構わない」と従魔へ指示すると「了解です!」と前足を振り答えた。
知矢は素早くその場を離れ六角獣がこの場を意識せぬよう気配と音を出しながら檻が有る方へと走った。
六角獣はそこにいた。
群れの仲間が囚われている檻の前で何度も何度も前脚を蹴りつけ檻を破壊しようと試みている。
中にいる仲間、家族を取り戻すため必死に檻を蹴ったり体当たりしたりを繰り返す様を少し張られた場所から見ている知矢。
敵を葬り去ったと思っているのかそれとも仲間を助ける事を最優先にしているからなのか六角獣はいま隙だらけに見える。
この瞬間知矢が全力で斬りかかればもしかすると致命傷を与えたり、弱点と言われているその魔獣の象徴たる六角錘の角を切り落とすことも出来るかもしれない。
だが、知矢は斬りかかる事はせず大木の影から必死に助け出そうとその身の全力を傾けている姿を見るにとどめた。
どれくらい時間が過ぎたであろうか。
いまだ檻への突進や打撃破壊を試み続けている六角獣はかなり疲弊してきているようにも見えた。
そこに「ぴょん」知矢の頭の上に従魔が降り立った。
すると後方から「ニャア」と近づいて来たニャアラスが小声でこえをかけた。
「おい、大丈夫か!」小声で返す知矢。
「ニャ、大丈夫ニャ。心配かけたニャ」と無事な様子を見せてくれた。
「であいつはどうした」
「見ての通りだ。さっきからずーっと休まず仲間を助けようと死力を尽くしている。だが奴自信もかなり疲弊してきてるみたいだ、が・・。」
どうするかとニャアラスを見ると沈んだ顔をして六角獣の突撃に見入っていた。
「ニャアトーヤ、討伐は諦めるか・・・」と視線は未だ六角獣に向いては板がその顔はうつむき加減で覇気を無くしていた。
ニャアラスは二度にわたる六角獣の必殺、雷撃に怯えた訳では無い。確かに最初傭兵たちに放たれた閃光と衝撃を目の当たりにし獣人の本能と言うべきか強敵の力をまともに感じ取り一度はまさに尻尾を巻いてしまった。
だが果敢に隙を突きながら魔獣へ挑む知矢の姿を見て心を奮い起こしたニャアラスにはもう怯えは無かった。
しかし・・
「トーヤ、元々は森から只出てきただけで商会の奴らが手を出さなければ誰も傷つくことも無かったんだよニャ。
アイツはたんに囚われた仲間、家族を助けたいだけニャんだ・・・」
その身が傷つくのを顧みず仲間を家族を助けたいがため防御の魔法がかけられ破るのが叶わないと知ってか知らずか突進を繰り返すその六角獣の姿にニャアラスは自分たちの仲間同胞がもし南の大国に囚われでもしたらと姿を重ねたようだ。
「ああ、俺も賛成だ。だが・・・どうするかが問題だ。」
防御結界を破壊する事は出来る。実はこの魔法の防御結界は魔道具によって発せられている為魔道具の魔力が潰えるか魔道具が破壊またはスイッチを切ればその防御のシールドは停止し中に囚われた六角獣たちも解放されるであろう。
しかしその魔道具の場所が問題だった。
防御結界が張られた檻の直ぐ裏側に埋められておりそれ自体も破壊防止の結界が張られている。
破壊防止の結界は十数メートル離れた木大木の裏にあるテントに下にある魔法陣に寄り操作可能だ。
だが魔道具の結界を解除しさらに檻に近づいて防御結界を停止させるには怒り狂う六角獣に近寄らなければならない。
それをどう可能にするかが問題だった。
「仕方がない、ニャアラス俺が奴の気を引きあの場所から遠ざける。そのすきを見て魔道具を停止させてくれ。」
と知矢が陽動を買って出ると申し出た。
「ニャアダメニャ言い出した俺が奴をおびき寄せるニャ!」
今回の討伐依頼に知矢を誘ったニャアラスは責任を感じより危険なおとりの役を自分がすると言って聞かない。
だが知矢もニャアラスはおそらく自分より足が遅く瞬時の対応も自分の方がより適切に出来ると考えていたが余りにもストレートに指摘するのもどうかと思い言葉を選ぶせいか中々ニャアラスも引かないのだった。
二人が互いにおとりをやると言い張っている間も六角獣は未だ防御魔法がかけられた檻への攻撃の手を緩めてはいない。
その姿はあちこちが擦り切れ体を覆っている体毛も削り取られ血が滲み度重なる突撃でおそらく内臓周囲の骨などにも大きな負傷を折っているであろう、さらに知矢の攻撃で負傷した脚も血まみれであった。
おそらく腱が一部切れているであろうその後ろ脚にも構わず突進や後ろ足を軸に大きく前脚を振り上げる打撃。前脚の蹄にも多くの血がみられる。
これ以上やらせておいては助けに来たはずの六角獣も命が危ないかもしれない。
そんな状態で未だ言い合いをする二人の間に割って入るものがあった。
「ピョンピョン! 何だどうした?」
突然間に入ってきた従魔に話を聞くとどうやら自分に任せろと言っているように感じる知矢だが
「おまえ何言ってる。それこそ一瞬で踏みつぶされて終わりだ。」
と知矢が言っているさなか前脚を振り挨拶をするようなしぐさを見せたゴールデン・デス・スパイダーの”ピョンピョン”は軽く知矢の肩からぴょーんと空中に飛んだと思うと音も無く地上に降り立ちその小さな体と脚からは思いもよらぬ健脚、速度で六角獣に迫るのであった。
「ピョンピョン!!!」知矢が思わず叫び声をあげた時その声が耳に届いたのか今まで檻を破壊する事に集中していた六角獣がその挙動をぴたりと止めた。
突然停止した六角獣の目は知矢達に向けられそのまなざしは当然怒りに満ち溢れている。
すると薄青い六角錘の角が金色に輝きだしたのだ。
「やばいニャ!逃げるニャトーヤ!」と一目散に走って行く
「ピョーン!!」飛び出していった従魔を心配しながらも仕方なく知矢も再びニャアラスとは別の方角へ走ってその場を離れるのであった。
二人は互いに安全圏と思しき距離まで走り大木の陰に身を隠し雷撃の衝撃に備えるのであった。
だが衝撃波が来ないどころか閃光も無く静かなままである。
もう少し間を置きながら木の影から顔を出し六角獣の様子を観察すると・・・。
六角獣はその象徴たる六角錘の角を金色に発光させていたがその光は徐々に強さを弱め次第に薄青い色を取り戻すのだった。
そしてうつむき加減で何かを凝視する様な姿。
知矢もニャアラスも一体何が起きたのか未だ雷撃に注意しながらその様子を見ていた。
「ニャ? おいトーヤ六角獣の鼻先を見ろ!」
獣人の特徴である目の良いニャアラスには何かはっきり見えるらしいが知矢には今一つ明確に見えない。
「六角獣の鼻先に、ゴールデン・デス・スパイダー、従魔のピョンピョンが居るぞ!しかもその鼻の上でジャンプを繰り返してる」
そうニャアラスに言われよくよく観察してみるとうつむき加減の六角獣、その巨体に比して誇りほどの小さな存在。それが自分の存在を訴えるかのように六角獣に何かを訴えているかにも見てた。
「「一体何が・・・」」
知矢とニャアラス隠れていた巨木の影から姿を現し一歩一歩様子を窺がいつつ六角獣とゴールデン・デス・スパイダーへと近づいて行く。
再び姿を現した矮小な生き物を察知した六角獣は鼻息を荒く知矢達を睨んだように見えたがその鼻先でもっと小さな生き物が身振り手振りと言うのだろうか全身を使い何かを訴えると六角獣は再び静かにその小さい物を見つめるのだった。
少しすると今度は鼻先にいる従魔が知矢を振り返り手を足を振りながら何かを訴え始めた。
「ニャんだ?」知矢の隣まで近づいてきたニャアラスはその様子を知矢に尋ねる。
「・・どうやら、多分今のうちに檻を開放する様に言ってると思う。」
主従ラインが繋がったばかりの知矢とピョンピョンは未だその意思の全てを明確に疎通出来てはいなかったが何となくそう感じたのであった。
「あいつが六角獣と話を付けたって事かニャ?」
今もって六角獣が再び怒りをあらわにしないかと警戒しながら近づいている二人だがここまで接近を許すこと自体が今までと何か変わったのは理解していた。
だがそれが知矢の従魔のおかげなのか考えあぐねている。
そんな二人を見て従魔は何度も何度も手を振り足を上げ何かを訴える。
「分った分った、今から檻の六角獣を開放するからと伝えてくれ。」
従魔からの再三の訴えを聞き届けた知矢はニャアラスに魔道具の防御結界を解除を頼み自らは檻の結界解除の準備に入る。
「おおい!解除するニャ!」数十メートル離れた巨木の影に設置された魔法陣を解除するニャアラス。
結界の解除を確認した知矢は魔道具の動作制御をしている魔法陣のカバーを開けた。
そこには複雑な文様が幾重にも書き込まれた魔法陣が書き込まれていた。
解除しようと魔法陣へ手を伸ばそうとした知矢、
「ニャアラス!不味い、この魔法陣解除の仕方が解かんねえやつだ!」
ピョンピョンの仲介で戦いを避けられるかに思いきや
魔法陣の解除方法が解らない知矢。
檻に閉じ込められた六角獣の運命や如何に!
助けに現れた六角獣の怒りは収まるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます