第70話 激、雷撃、対峙、疾走  ~ハイハイ皆さんご主人様がお帰りに成るまで気を抜かない様に!良いですね!



 夜半の騒ぎが嘘のように平和で静かな夜が明けた。


 未だ朝靄が立ち込める森の中。100m先も見えない程だが風も無くしんと静まり返っていて逆に怖さを感じる者もいるかもしれない。


 朝飯を作る為か傭兵たちの方ががやがやと人の動く気配がしだし微かに薪の燃える匂いが漂い始めた。


 毛布一枚で寝ていた知矢達だが屋根が有りのシートのおかげで夜露でびっしょりになる事も無く安眠できたがいくら傭兵たちが夜番をしていてくれたとはいえ自宅の様に熟睡できたわけでもなかったが毛布をめくって起き上がった知矢はそれほど疲れを残した感じでは無かった。


 「オイ、ニャアラス朝だぞって、あれもういない」

隣で寝ていたはずの猫獣人族ニャアラスは既に寝床から出てどこかへ行ったようだ。


 知矢は起き出し、テントや毛布を無限倉庫へ仕舞いこみ、代わりに朝食の準備を始める。


 テーブルと机を出し、木皿を並べパンやスモーク肉を切り分けあとは知矢は試験的に作ったドライフードのスープの素を木のカップに入れお湯の魔道具で湯を入れればカップスープの出来上がりだ。


 このインスタントカップスープはトウモロコシのような塩味のスープを魔法で無理やり乾燥させてみたら出来た物だが力技で乾燥させるとカッチカッチのスープの残骸が出来るだけで最初は上手く行かなかったが試行錯誤を繰り返し何とか飲める程度にはなった。

 いつか商品化しようかとも思ったが知矢にしか作れそうにないので労力のわりに単価が低く無ければ売れない商品だと気づき自分たちで使うためだけに止めている。


 「トーヤ起きたニャ」


 ニャアラスが手に取りの魔物を持ち林の中から現れた。


 「見るニャ、レインボーコカトリだニャ。焼くと美味いニャ」

獲物を持ち上げ成果を披露してくれた。


 「朝ごはんはあるからそいつは夜に食べるか。」焼き鳥ならビールと行きたいが残念と知矢は思いながら成果を受け取り取りあえず無限倉庫に収納した。



 最近無限倉庫もLVアップし入れてあるものをゾーニング出来る様になり食料や生もの、飲料、酒、道具、武具その他分けて収納できている。

 収納量が膨大な為何を入れたかわからなくなるのを防げ特に緊急で武器などを出すのに便利だった。

(そういや昔の漫画で青い狸が慌てて四◎元ポケットから物を出すのに出せなくて慌ててたな)

そんな事を薄ぼんやりと思い出しながらニャアラスと二人朝食を食べるのだった。


 「オイ、ピョンピョンどこだ?」

 知矢の従魔に声をかけると屋根代わりのシートから糸を伝って降りてき、前脚だか手だかわからないが「おはようございます」と振るのだった。


 「おおそんなところにいたのか。お前朝ごはんはどうするんだ。パンとか燻した肉しかないが」

と聞くと


 「あれあれ」と指をさす方向には昨夜追加であげたイエロー・キメラニオンの内臓があった場所を指し示し、お腹の辺りをさするのだった。


 「おいおい全部食べたのかよ。しかももう朝食済んでいるんだな。お前を従魔にしたことを少し後悔するぞ我が家のエンゲル係数とんでもない事になりそうだ。」

とその身の大きさに全く違わぬ食欲にまたげんなりした知矢だった。


 そんなことは解らないピョンピョンは知矢の肩へふわっと乗り移り「大丈夫大丈夫」と言うような感じの波動を送るのだった。




 朝食を終えた後、知矢は昨日傭兵たちと打ち合わせをして決めた範囲にいくつかの罠を仕掛けた。

 罠と言っても土魔法を使った落とし穴や木と木の間に水の魔道具を利用し魔獣が通過した途端ジェットのような鋭い水撃を放つ程度の物だ。

 最初スタンガンの様に電撃をお見舞いしようと思ったが雷撃を放てる魔獣にどれだけ効くのかと考えそれはやめた。


森や林の木々への延焼を考えると炎系の魔法も使えないので結局土と水に落ち着いた。


「さてあとは奴さん待ちだな。繰り返すが一当たりして無理そうなら引けよ。あとは捕獲した仲間を解放するからな。」



「ニャア、残念だけど分ったニャ。でもこっちの攻撃が通用する様なら追い込むニャ!」

 いまだ未練が捨てきれない様子のニャアラスであったが彼も歴戦の冒険者だ。引き際は心得ている。


 「ああ、そうだな。いけそうならナ!」


 その後は椅子に座ったりゴロゴロ寝転んだりといつ来るかわからない相手に緊張していても疲れるだけだとのんびり待機していた。


 だが勿論知矢のレーダーは常に展開しており周囲1km程は優に索敵中である。


 時折何かの魔物の反応は見受けられるが小物ばかりであった。


 知矢の上に乗ったりピョンと飛び降りたりして遊んでいるような従魔を見ながら時間をつぶす知矢。


 ニャアラスはゴロゴロしたり時たま高い巨木に器用に登り周囲を観察したりと思い思いの様子で待機していた。


 傭兵たちは交代で周囲を巡回したり武具の手入れをするもの、夕食用の獲物を狩るものなどしているようだ。





 刻が過ぎ、太陽が頂点を過ぎた頃森の奥から、かなり遠い距離のようだが魔獣の遠吠えが聞こえてきた。



 「来たぞ、奴だ!」



 その声に聞き覚えがあるのだろう傭兵たちが臨戦態勢に入った。




 知矢のレーダーにはまだ何も反応が無いので未だ距離がありそうだ。

 だが二人もいすやテーブルをかたずけ武具を確認し六角獣との対決に備える。



 「おいお前は危ないからこの木の上にでも隠れてろ」

と手のひらに乗るピョンピョンを木の枝に置いた。

 

 「私も戦います」とでも言うように足を振るが


 「おまえ潰されて終わるぞ。気持ちは嬉しいがもっと大きくなったらな」と声をかけ知矢は離れ罠の発動準備を始めた。



 次第に地面に伝わる足音が感じられるようになり、繰り返される魔獣の咆哮も大きくなってきた。


 簡易な檻で閉じ込められていた囚われの六角獣の群れも立ち上がりそわそわ動き回りながらその咆哮に答えるような遠吠えを始める。


 既に知矢のレーダに捉えられている魔獣の影は確実に真っ直ぐ仲間の元を目指していた。


 その速度は決して早くはないがノロノロとした感じでは無く着実に歩みを進めるように感じる。


 知矢とニャアラスは左右に距離をおきながら魔獣の迫る方向を見据えていた。


 傭兵たちは数度の戦闘に寄り学習した為か檻の周囲に展開しつつもいざとなったら逃げる算段であるがこれは事前に知矢達も了解済みの事であった。

 逆に連携も取れず攻撃も出来ない彼らがいては知矢達も動きが阻害されかねないので当然の事だった。


 森の木々を無理やり押し倒すような昨夜のイエロー・キメラニオンとは異なり大木の間を縫うように歩を進めて来る六角獣。


 魔獣はもうすぐそこまで、今一歩進めば巨木の影から姿を現すほどの距離に迫っていたが何か考えたのかもしかすると罠の存在を感じ取ったのかその巨体から発せられる地響きを止め森は一刻の静寂を迎えた。



 その静寂は緊張を生み傭兵たちは冷や汗をかきながら森を注視する。


 知矢はその手に罠の発動スイッチである魔法陣を書き込んだ木の板を握りいつでも魔力を流せる様集中していた。


 ニャアラスは腰の大剣を背中に背負いなおし盾と括っていた。手には短槍だけを握り今にも助走を付けてかけ出す準備は出来ている。



 いやな刻が静かに過ぎていく。

 実際そう何分も経過した訳では無かったが当人たちにとってはそれが30分1時間のように感じていたかもしれない。


 傭兵たちの緊張がピークを迎えそうになったとき突如それはおこった。




 「KUUUUUUUUUUU!!」



 巨木の影から六角獣の深く息を吸うような声が聞こえた瞬間


 BARIBARIBARI!!!!!!!!!!


 昼間なのに目がくらむような閃光と共に衝撃波が襲い掛かった。



 「「「「「ウワーッー、ギャーーー!!!!!」」」」」


 轟音と共に襲い掛かる衝撃、六角獣はその姿を現す前に檻の周囲に固まって隠れていた傭兵たちの方へ雷撃を放ったのである。


 放たれた雷撃は真っ直ぐ木の間から放たれた後、収束を解き大きくその範囲を広げながら襲い掛かった。


 左右の端に構えていた数人以外その雷撃をまともに受け跳ね飛ばされていった。


 閃光がゆっくり終息した時、雷撃の通過した跡は黒く焼け焦げまともに直撃をその身に受けた傭兵たちは黒い物質に変わり周囲位に散らばっていた。

 直撃を受けなかった数人もその衝撃波により死んだのか定かではないが立っていた者はだれ一人いなくなっていた。



 同じく雷撃の直撃を受けた檻は防御の魔道具のおかげか全くその姿を変えることなく内部に止められた群れを保持したままだ。



 その惨劇を目の当たりにしたニャアラスは震えるような小声で

 「トーヤ俺が間違っていたニャ。無理だ、あんニャの狩るいや狩られるのはこっちだニャ・・・」

 ニャアラスは未だその視線は魔獣の方へ強い意志で向けられてはいるがよく見るとその尻尾は垂れ下がり丸く巻き取られている。

と、突如知矢が1人脱兎のごとく六角獣へ向かい走り出した。


 「トーヤ!!!」ニャアラスの叫びも聞こえないのか知矢は右手に刀を持ち全力で魔獣へと迫るのだった。


 知矢の接近を察知した魔獣は陰になっていた大木よりその姿を現し向かってくる矮小な生き物を眼下に見据えた。


 六角獣、一見すると馬の様な体躯だがその巨大な体は昨夜仕留めたイエロー・キメラニオンをしのぐ巨体を持ち象徴たる六角錘の角を眉間に薄青色く光らせているのが特徴である。

 馬のように4脚で高速に駆けその巨体に似合わず俊敏な動きも対した者を驚かせる。

 姿を現した六角獣の角が薄青いのを確認した知矢は真っ直ぐその巨体の足元へ進みよった。


 如何に矮小な生き物でも下部へ入り込まれるのを嫌ったか魔獣は前脚を前方へ振り知矢を排除しようとする


 しかしその轟音を出しながら迫る脚をサイドステップで躱しさらに魔獣の足元へと疾走し、そして前脚が戻る隙に後ろ足の腱めがけて刀を一閃するとつかさず左手に持っていた投げナイフを3本一気にその腹部へと放ちそのまま後方へ駆け抜けたのだった。

 後方に駆け抜けた知矢は少し大木を縫うように迂回しニャアラスの待つ方へと一度戻り六角獣の動きを確認した。


 一度バランスを崩したその魔獣はすぐに体勢を立て直すと前方へ回り込んだ矮小な生き物を再び目に捉え「BARUBARUBARU!!!!」と咆哮を上げていなないた。



  あっけにとられたニャアラスは知矢の無事な姿を見ると

 「ニャニャニャ!!トーヤお前死ぬ気かニャ!」と無謀な攻撃に驚きの声を上げた。



 「いやー、まだまだ死ねないね。

 俺はこれからのんびりとした人生を送るって決めてるからな。」

と余裕の表情を見せニャアラスに微笑みかける。


 そんな知矢を見たニャアラスの尻尾は再びまっすぐ伸び顔を綻ばすのだった。

 「ニャ、トーヤが一閃浴びせたんニャら俺も!」

と槍を構えその俊足を誇る脚に力を込めた時



 「いや待てニャアラス。」

と知矢はその行動を止めるのだった。





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