第69話 闇に光  ~俺の斬撃もにゃかにゃかだろ!



 傭兵たちの脚が地をギュギュっと踏みしめる気配と弓矢を引き絞るギギギと響く音。

 漆黒の静寂を切り裂いて近づく何か・・・・・・



 「あと60m!」

すると!!!


 ベキベキベキと木々が激しく軋む音がした途端!ズシーンと大木がなぎ倒されそれは姿を現した。


 直後に知矢が発したその時その手に握られた何かに知矢が魔力を込めた!

 

「ワッ!」


 「何だこの眩しさは!」


 「何だこの明るさは!」

と叫び出した傭兵たち。



森の木々や周囲をまるで昼間の如く広範囲に灯りが照らされその何かを映し出した。



 「あれは!イエロー・キメラニオンニャ!」


 煌々と照らされた灯りに浮かび上がったのは身の丈4m程ライオンのような顔を持ち山羊の角を生やす魔獣であった。

 その巨体と俊敏な動作で敵をなぎ倒し時に鋭い角で相手を串刺しにする恐ろしい魔獣である

 イエロー・キメラニオンは木々をなぎ倒し姿を現したが突然前から目に激しい光を浴びせられ視力を失い苦しんでいる。

 すると瞬時に間合いを詰めた知矢が刀を大きく振りかぶりながらイエロー・キメラニオンの横に回り込みなぎ倒された木々を足場に飛び上がりその太い首筋に刀の一撃を振り降ろした。


 「GYAAAA!GYAAA!!GYAAA!!!!!」


 流石にその太い首を一刀両断とはいかなかったが知矢の斬撃は確実に切り込まれイエロー・キメラニオンは突然の激痛に激しい絶叫をあげた。


 一撃を加えた知矢は魔獣の足元へスタンと降り立ったがすぐにその身を後方へ退避させ痛みに暴れる巨体を避け後方へ回り込んだ。


 すると「何だこの尻尾は」


 後方に回り込み更なる一撃を加えようとしたがそれを阻むように尻尾、見るからに獰猛な蛇がその身をくねらせ本体を守るかのように知矢をけん制しながら尾を振り睨む。


 「そいつの尻尾は毒の牙があるニャ!」

とニャアラスが叫びながら地に伏して苦しむ獣の頭をけって飛び上がり上空から降下、携えていた大剣を上段より一気に振り降ろし尾を付け根から切り離した。


 斬りおとされた尻尾はまるでそれが一匹の生命体の様に攻撃したニャアラスへ毒の牙を向け着地の後の間を狙うようにその身を一気に伸長させ飛びついてきた。


 「そうはいくかよ!」と目標を外れた知矢がつかさず伸長したその身を両断し分離した蛇の様な尻尾はニャアラスに到達する前に左右にその身が分れ落ちて行った。


「サンキュウニャア」


と知矢に礼を言うとニャアラスは再び俊敏に立ち回り未だ息があり苦しみに悶える本体の心臓めがけて大剣から背負っていた槍に持ち替え強烈な一撃を打ち込む。



「これで終わりニャ!!」


 ザスッ!


 「GYA!!!!GUUUUUUUUUN」その巨体を大きく痙攣させるように跳ね上げた後イエロー・キメラニオンはドスーンと体躯を地面に打ち付けた後動かなくなった。

 絶命したのである。





 突然現れた魔獣と眩い光、瞬時対応が出来なかった傭兵たちが立ち直った時には既に魔獣がその巨体を横に倒し絶命した後であった。


「な、何だったんだ」

「えっ?もう終わったのかよ」

「イエロー・キメラニオンだよなあの猛獣の」


 あまりに瞬時に事が終息してしまい思考が追いつかない傭兵たち。


 その場をまるで昼間の様に照らし出した光は勿論知矢の魔道具であった。


 闇夜の中襲われる危険を回避するためこの場に到着後周囲を照らし出す光の魔道具を全方向へ設置していたのである。


 この魔道具は知矢の魔道具商店で一般販売されている者の比ではなくわかりやすく比較するならば一つの明かりが大光量のサーチライト数字で表すと1つ当たり約10000LMにもなる灯りを周囲に20カ所ほど木々の幹や枝に括り付けたのであった。


 暗闇に目の慣れている魔獣がそれほどの明かりを直に浴びせられたのだから目がくらむ以上に激しい苦痛を覚えた事であろう。


 傭兵たちにも言葉では事前に説明していたが未知の魔道具の明かりにやはり対応できなかったのだが知矢はその辺りも想定の範囲内であった。




 「ニャアラス、良い連携だったよな!」

 再びハイタッチを交わす二人は互いの動きを察知しながら上手く動けたことを喜び合った。


 「ニャア、この調子なら六角獣も簡単ニャ!」


 「おいおいいい気になるなよ、この魔獣に比べたら六角獣の方が上だろ。速度も攻撃力も。きっと防御ももっと固いぜ」


 「ニャアニャア、知矢の斬撃ならやつの角も切れるニャ」



 六角獣はその象徴たる六角形の角から発する雷撃が一番恐れられる攻撃であるが実はその角こそが急所でもあった。


 角を折る、又は斬りおとすことが出来たなら即その動きは鈍くなり苦しみだすと言われている。

 これはニーナが収集してくれた六角獣の過去討伐記録資料にもいくつも記載されていた。



 「だがそれこそ至難の業だ」とあきれる知矢。

そこへ



 「冒険者諸君、いや驚いたよ。まさか聞いていた灯りがあんなに眩しいものだとはね。おかげでこちらも驚いて身動きが出来なかったが君たちが瞬時に退治してしまったのだからやはり傭兵と冒険者は全く違う物だと痛感させられたよ」

と多少自虐的ではあるが知矢達の力に感心していた。


 「我々はこの仕事を終えたらやはり本来の傭兵家業に戻る事にしたよ。いくら実入りが良くてもどう動くか予想もつかない魔物の相手は人とは違い過ぎる。

 これなら南の奴らに槍を打ち込む方がよっぽど楽だよ」

と言いこの後の見張りは請け負うから二人は休んでほしいと言い残し去って行った。


 イエロー・キメラニオンの解体も請け負ってくれたので知矢とニャアラスはテント代わりの屋根だけ張ったたシートの下に再び椅子とテーブル、そしてごろ寝用の革を敷き毛布を出して寝る準備を始めるのだった。



 「あれ、そういやピョンピョンの奴は?」

となりたて従魔を探し周囲を見渡すと先ほど与えた内臓を食べつくして満足げにひっくり返っていた。


 「オイオイ、お前どれだけ食べたんだよ、しかもその体のどこに入るんだ。・・うっん?」


 大量に合った獣の内臓を食べつくした従魔に呆れながらも疑問を持ち観察するとどうも様子がおかしい。



「ピョンピョン、お前なんか大きくなってないか?」

 さっきまで足を広げても40から50mm程度だったはずだが満足げに大の字で横たわるその体は60mm以上あるように見える。


 そしてその体躯の少し離れた場所には透明な抜け殻が殻を破った状態で落ちていた。

 「ピョンピョン、お前脱皮したのか?」


 そく鑑定してみると



・ゴールデン・デス・スパイダー

・LV4

・名称:  ピョンピョン

・知矢の従魔

・攻撃力: 40

・威嚇:  30

・速力:  A

・魔力:  B

・特力:  糸を吐く、仲間を呼ぶ、かみつき


と出た。



 「おいおい、お前戦ってもいないのに何でレベル上がってるんだ」

と尋ねると起き上がったピョンピョンは「??」とまるで解らないと首をかしげるような素振り。


 「解らないって・・ひょっとして食べれば食べるほど成長して強くなれるのか?」


 「!!」そうそうと言うように片手を振り上げるのだった。

 そして傭兵たちが解体を始めたイエロー・キメラニオンの方を向き必死に手を振りアピールする。


 「お前まさかまだ食べる気か。もう無理だろ」とあきれる知矢だがピョンピョンは必死にお願いと言う素振りを見せる。



 「なあニャアラス、ゴールデン・デス・スパイダーって食べた分だけ強くなる種族なのか」

と革のシートでゴロゴロしているニャアラスに聞いてみた。


 「ニャ?そんな話は聞いたことがニャいけどそもそも人の従魔になったにゃんて話も聞かにゃいからわからんニャ」


 「だよな」と知矢も困り顔。


 その間も必死にアピールを続けるピョンピョンに「わかったわかった」と伝え傭兵たちの元へ行き内臓の一部を分けてもらい従魔にあげたのだった。



 「もう今夜はこれで我慢しろよ。っていうかさっきより多いから食べ過ぎないようにな。明日の分も残しとけよ」

と伝えると「了解!」と声が聞こえたようなそぶりを見せたのであとは自由にさせるのだった。


 六角獣はニーナの情報によると夜間は活動しない種類らしいので明日に備え知矢とニャアラスはさっさと休むことにした。


 一応気になるので知矢はクリーニングの生活魔法を二人にかけサッパリとして床に就くのだった。


 床と言ってもなめした革のシートに横になり毛布を掛けるだけだが冒険者としては屋根代わりのシートが有るだけで十分だった。


(そういや土魔法で毎回小屋を作る話も読んだな)


 と横になりながら昔読んだ異世界転生物の内容を思い出しながらそれらの話もヒントにして生活改善を考えるのも手だなと思案しているうちに寝てしまうのだった。


 ちなみにレーダーの感知魔法は絶賛起動中である。






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