第68話 漆黒よりの恐怖 ~ピョンピョン「はぐはぐ・・・」
「おい!そっちへ行ったぞ!気を付けろ」
回り込んだ知矢は獲物の鼻先に刀を向けたがその頭頂部を掠りながらも機敏にすり抜け、脱兎のごとく走り去ろうとしていたがその先にいたのは
「任せるニャ! セイ!」
短槍を中段に構え木の枝からその卓越した身体能力を生かしたバネにより閃光の如く獲物へ跳んだのはニャアラスだ。
シャキーン!
ズバッ!
「GYAAAAAAAA!!!」
見事にその首元の急所を撫で斬りその勢いのまま回転しながら着地し、返す槍を向けた時にその獲物は
「BUIIIIIIII・・・・・・」ドスーン!!
断末魔を上げ巨体で地面を揺らしながら横倒しになり絶命した。
「お疲れ!」片手を上げながら近寄る知矢に
「イェーイ!」とニャアラスもその手を合わせハイタッチを交わす。
二人の前には静かに横たわるのは ”ビック・ドン”という魔獣でその肉の味わいは硬めの豚肉の様に知矢は感じたが噛むと非常に旨味を感じてこの肉でBBQしたら美味いだろうなと思っていた。
二人は”六角獣”が現れる大森林より南の街道を少し入った森にいる。
先に商人たちに雇われた者達が生け捕りにした”六角獣”を閉じ込めてある狩りの小屋がある場所だ。
その小屋は作りこそありあわせの丸太や木の枝だが結界の魔道具を使用しており簡易的な檻となっていた。
その中に見えるのは大小4頭の六角獣
六角獣たちは落とし穴や眠り草などの罠を使い捕獲されていたが移動させようとすると残りの六角獣が奪還の為か執拗に攻撃を仕掛けるため未だこの場に留め置かれたままである。
周囲には商業ギルドに雇われた傭兵などが警戒しているものの、六角獣の執拗な襲撃ですっかり疲弊していた。
彼らと話をした知矢達であったが皆一様に「帰りたい」と話し六角獣の恐ろしさも語るのだった。
「そもそも我らは対人戦闘のプロであって対獣戦闘の経験など殆ど無いんだ」とぼやく始末。
「君たちが奴を討伐するか追い払った段階で我々も契約が終わる、ぜひ頼む!」
と弱気な事を言い出す始末でとても知矢達と連携を取り相対する様な訳にはいかなかった。
今知矢達は今夜の夕食の為に近くに現れた獣を狩っていたのだがこれは半分二人の連携を試すことと慣れない知矢の対獣戦闘の経験の為でもあった。
知矢も傭兵たちと同様に対人戦等は経験しているが魔獣や魔物はほとんどない。
ラグーンの周囲には比較的狩りやすいうさぎの魔物”ホーンラビット””キラーラビット”そして鹿の魔物”デス・スピア”等を狩ったがこれらは知矢のレベルであれば易々と狩れる部類だったので夕食のおかずに度々狩っていた程度だ。
先ほど仕留めたビック・ドンの血抜きをし解体を始めたニャアラスの脇で周囲を警戒していた知矢の肩に乗っているクモの魔物”ゴールデン・デス・スパイダー”のピョンピョンが知矢の首をツンツンして何か合図を送っていた。
「何だピョンピョン?ああその獲物が食べたいのか。後で分けてやるからもう少し待て」
と従魔になったピョンピョンとまだ慣れないながらも主従ラインのおかげか何となく喋れないながらも思考を感じ取り会話になっていた。
「しかし奇妙な話だニャア」と慣れた手つきで解体するニャアラスが呟く。
「何が奇妙なんだ」
「その従魔だニャ。ゴールデン・デス・スパイダーがそもそも人に近づいてくるのが不思議だニャ」
ゴールデン・デス・スパイダー:幼体は10mm~50mm程。
脱皮を繰り返しながら成長し生体だと1m以上になりその身体能力はスピードで獣人を上回り、攻撃力でも人を遥かに超えた冒険者でいう所のS級と呼ばれる人外の力と同等と言われている。
一般的に人に馴れる事は無く基本単体で狩りをするが同族で群れを成し大型魔獣や魔物を攻撃する事もある。
小さな龍族であるワインバーン等もその糸にからめとられ地上へ落とされれば一巻の終わりとまで言われているのだった。
積極的に人族などを襲う事は無いが美味しそうな獲物を見つけると相手を見ずに食を優先する傾向がある為人族と争う時は獲物の取り合い位だったがその恐ろしさ故ゴールデン・デス・スパイダーに獲物を取られたら諦めるのが一般的だった。
「でもこうして傍にいても可愛いぞ。なあピョンピョン」と指先でクモを撫ぜると喜んでいるようにも見える。
「ホント奇妙だニャ」と半ばあきれながら横目で様子を窺がうニャアラスだった。
ニャアラスが内臓を取り除き皮をはぎながら肉を切り分けていると知矢の肩でピョンピョンが興奮した様子で跳ねている。
「何だ?ああ、それが欲しいのか。おいニャアラスその内臓はどうするんだ。ピョンピョンが欲しがっているんだが」
と脇に避けられた内臓を指さしながら聞いてみると
「ニャ、ニャイ臓は美味くないから埋めるニャ、そんなんで良ければ全部従魔にやるニャ」
と言ってくれたので知矢はピョンピョンにそこに置いてある奴なら食べていいぞと言うとピョンピョンはその名の通りぴょーんと知矢の肩から一足飛びに置いてあった内臓へと向かい夢中で食べ始めた。
その様子を微笑ましく見送りながらニャアラスと話す。
「さてニャアラスさんや、傭兵の方々の情報は聞いたと思うけど。思った通りだがそれ以上に手ごわそうだな」
「ウニャ~ま、・・・まあまあだニャ」と少し焦りを見せるニャアラス。
先に幾たびかの六角獣の攻撃を受け辛くも生き残ってきた傭兵たちから詳しい戦闘の様子を聞き出した知矢達。
「とにかくやつは俊敏に左右を自在に駆け回り的を絞らせんのだ。我々の魔法攻撃など当たる気がせん。しかもたまにまぐれか当たったとしてもほんのかすり傷程度だ。攻撃力に特化した魔導士でもなけりゃありゃあ倒せん」
とリーダーの弁
「それに矢はもちろん効かないうえに俺たちの剣や槍じゃあ皮に傷つけるのが精々だ。余程の切れ味の大剣でもなきゃあ急所を差すどころか血の一滴も出やせんぞ!」
と他の仲間たちも代わる代わるその強さを告げるのだった。
「ニャアアア、トーヤの剣なら斬れるか?」
「う~んどうだろう。切った事は無いが俺の刀なら切り裂くことも可能かもしれないが、そこまで近づいて逆にその巨体に打ちのめされるだけだろ。
それに奴にはいざとなったら例の”雷撃”がある。対魔法装備でも電撃は易々と凌げないからな」
解体し終えた魔獣の肉に塩や香辛料、香草をまぶしながら二人で考えるがやはり良い考えは浮かばない。
拾ってきた木の枝を薪にしながら肉を焼きだす二人。
いつもならここで酒と言いたいところだが流石に魔獣たちの領域ではその勇気はない。
六角獣だけでなく他の魔物たちも多く住む東の大森林のたもとだ。暗闇の中から今も何かがこちらを見ているのを知矢のレーダーは示していた。
ただ警戒し観察するだけでむやみに襲い掛かってくる様子もないので食事だけはじっくりできそうだ。
知矢は無限倉庫からテーブルや椅子を出し木製の皿やカップを並べる。
さらに無限倉庫から取り出した野菜やパンを並べとても狩りに森へ来た食事の様子には見えない。
少し離れた場所で狩った獲物を焼いただけの粗末な食事をしているこちらを窺がっている傭兵たちもあきれ顔だった。
そんな様子を意に介する事も無く二人はあれこれ六角獣についての論議を交わしながら食事を勧めていた。
ときたま少し離れた場所で同じく食事をするピョンピョンの様子も窺がうが相変わらず一心不乱に食事中である。
その時だった
「おい!」
「ニャア!」
二人同時に異変を察知する。
知矢はレーダーの表示に赤い点滅アラートを確認。
ニャアラスは流石と言うべきか獣人の野生の感で何か危険を感じたようだ。
「方向はあっちだ。距離およそ800m程だ」
知矢は森のある方角を指し示すがニャアラスも同意のようだ。
その何かは明らかにこちらに対して殺意を持って近づいてくる。その移動速度は決して早くはないが感じる脅威は強者のそれであった。
「おいお前ら!何か強そうな気配がこっちへ近づいてくるぞ!」
少し離れた場所で同様に食事をしていた傭兵たちへ注意を促す。
「なに奴が暗くなってから現れた事は無いぞ」
「じゃあ何だてんだ」
「くっそ飯位ゆっくりくわせろ」
「おい盾を構て陣形を整えろ。矢の用意は良いか!」
対獣魔に慣れてはいないと言ってもさすがに傭兵、いやこの数日で嫌程獣魔戦をやらされていた成果かもしれないが口々に文句を言いながらも素早く戦闘準備を整えるのだった。
知矢とニャアラスも漆黒の闇を睨み木々の奥から迫る何かを凝視していた。
「あと500m」
「あと300m」
知矢がレーダで距離を確認して皆へ告げる。
なぜそんな事が解るのかも不思議に思う余裕もなく皆が集中する。
そしてそんな知矢の左手には何か紐がつけられたものを握っているのが見受けられる。
「あと100m」知矢の声にさらに緊迫する、そして知矢も握っている何かをぎゅっと確かめる様に握るのだった。
「80」
「70」
巨大な木々がその何かに揺すられ大きくたわみがさがさと枝葉を揺らしている。
皆の脚も地をギュギュっと踏みしめる気配と弓矢を引き絞るギギギと響く音、漆黒の静寂を切り裂いて近づく何か!
「60!」と知矢が発したその時その手に握られた何かに知矢が魔力を込めた!
すると!!!
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