第67話 新たな出会い  ~ えーとお前は何食べる?



 東の大森林

 そこは遥か彼方まで続くかに見える深い深い森を指した名だ。

 広大過ぎるその森林の全てを見たものなど誰もいない未踏の森である。


 生えている木々も、周辺に広がる林や森と異なり、太くその高さは天を衝くかの如く聳える。そんな木ばかりが育つ森、その中は人の生活する場所には考えられないほどの多くの魔獣、魔物が住んでいた。


 稀に森から出て来る魔獣はいるが余程大森林が住みやすいのか多くはその世界から出てはこない。


 しかしその魔物、魔獣に肉は旨味に溢れ、一口食べるだけで力が湧いてくるほどだと言われるが、普通に入手する事が大変困難である。


 先ず凶暴な巨獣ばかりが住む大森林へは人が入る事が叶わない。一攫千金を夢見て足を踏み入れたものの、帰ってこれなかった冒険者は数知れない。


 稀に大森林から出てきた魔獣を討伐する機会があったとしてもその強さに死屍累々の大被害を受ける事も多い。もし討伐が可能であった場合でもその被害に見合う報酬を得られるかが難しいため、そもそも討伐を言い出すことが少ない。


 人里へ魔獣が向かう事が有れば騎士団を総動員し、やっとの思いで追い払うなどが精々であった。


 10年ほど前、商業中核都市ラグーンの衛星街へ魔獣が数頭現れ大騒ぎになった事が有った。

 その際はたまたまラグーンを訪れていたA級冒険者のチームが複数いた。彼らの手で討伐が行われた結果、九死に一生を得た事が有ったのだが、それ以来、魔獣が接近した事は近年無かった。



 そんな東の大森林を望む街道を今、二人の冒険者が悠々と歩を進めていた。


 「トーヤ、ニャんでそんなにだんまりなんだニャ?」

 短槍を肩に担ぎ背には小ぶりの盾を背負い、腰に豪剣を下げた猫獣人の男がのんびりともう一人に声をかける。



 声をかけられた男、未だ大人にはなり切れてないが精悍な顔立ちに引き締まった体躯、背には小ぶりのリュックを背負い、腰には細身の剣を下げた知矢であった。


 「・・・・」


 声をかけられても未だ答えない知矢は少し不機嫌な様子であった。



 「ニャア、依頼料も数倍にニャッたしこの依頼が完遂したら俺もB級冒険者に上がれるってニャーニャさんも言ってたニャ。何としても狩りを成功させるニャ!」

とニャアラスは意気揚々であった。



 先日商業ギルドを友好的に訪問しギルド長のルコビッチより依頼の真相を聞き出した二人であった。

 その結果、依頼内容に齟齬があった為、ルコビッチ氏を同道の上(引きずって)冒険者ギルドに赴き、冒険者ギルド長のガインと商業ギルド長ルコビッチによる話し合い(怒号に恫喝)の結果、依頼内容を大幅に変更。

 改めて知矢とニャアラスへ調査を含む討伐依頼が出されたのである。


 なお、討伐に関しては可能な限りと言う注釈が付いた他に、さらにすでに捕獲している群れの生体を場合によって無傷・無償で放たれたとしても商業ギルドは一切苦情・賠償を言い出さない旨の確約を友好的に得ている


 当初の依頼内容はこうである。


・直接の依頼主は商業ギルドだが本当の依頼者はその街道をいつも利用し行き来している商会達が危険を感じ仲間同士で依頼金を出し合い討伐の依頼として受け付けた。


・その依頼に重ねて冒険者ギルドの調査部が依頼金を積み上げ調査を依頼した。


・討伐に関しては1頭のみの目撃の為1頭分の成功報酬。素材等は討伐した者の物。


・調査部は多頭生態種が何故1頭のみしか目撃されていないのかを疑問視し他の群れが近くにいないかを調査希望。


・今のところ獣魔により被害は報告なし、目撃例は多数しかし距離が在った為詳細の確認は出来ていない。




 対して新に交わされた依頼は


・依頼主は商業ギルド


・討伐又は追い払う


・依頼金は中金貨5枚ただし討伐の場合、素材の権利は討伐した冒険者


・討伐経費が発生した場合商業ギルドが別途支払う(中金貨1枚以上かかった場合全額)


・手負い獣魔と認定、追加冒険者を雇った場合も、その費用を討伐経費として認める。


・万が一、手負い獣魔により市民、都市などへ被害が発生した場合は商業ギルドがその被害に対し賠償責任を追うものとする。


 上記の約定を両ギルド長連名で交わしたのであったが何故か商業ギルド長は甚く(いたく)憔悴した様子に見えたのは気のせいであろう。



 そんな経緯ではあったが、ニャアラスが積極的な事もあり、不承不承ながら合同でその依頼を受諾した知矢であった。しかし聞くほどに討伐対象の魔獣”六角獣”をやすやすと狩る事は出来ないのではないかと思っているのは変わらない。


 冒険者ギルド長のガイン等はほくそ笑みながら「うむ、貴殿ならきっと成し得るであろうトーヤ殿」

と口では知矢を評価する様な事を言いつつ心の中では(フフン、今度ばかりは苦労して泣きついてくるといいな)と思っていたのであった。


 そんなこんなでラグーンを発し街道を上機嫌で進むニャアラスと気が進まない知矢の二人組であった。


「で、ニャアラス。まさかお前六角獣を狩るつもりじゃないだろうな」

 知矢としては手負いの魔獣に二人で対する事を端から否定しているのだから、ニャアラスも追い返すつもりでいてくれることを僅かに願って聞いてみた。


 「ニャに言ってるニャ、トーヤ。狩って素材も手にするニャ!」

と相変わらずの様子。



 「だから何度も言ってるだろ、俺とお前の二人で勝てる見込みなど無いだろう。作戦でも考えているなら別だが。」


 「作戦?」


 「そう、作戦だ。六角獣を、しかも手負いで怒り狂っている相手を、まさか真っ向から突っ込んでその槍で一撃などとは、言わないよな。」


自分の肩に担いでいた槍を見つめるニャアラスは

「おう!知矢。その作戦で行くニャ」


 がっくっとうなだれる知矢

「お前そんなの作戦って言わないだろ。死にに行くようなもんだ。」


 「ニャア、トーヤの作戦はどんニャだ」


 「討伐は諦めて大森林へ追い返す。群れの仲間、まあ家族だろうがそれを取り返したい執念なら捕獲している仲間は諦めて開放する。それで満足して帰ってくれたら御の字だ。」


 「ニャア!それじゃ素材は!ドロップした素材を売れば大儲けニャ!」


 「諦めろ、今回は依頼金のみで十分だろ。何だったら俺の分もお前にやるから今回は我慢しろ」



 知矢のセリフに立ち止まって呆然とするニャアラスを追い抜き知矢は先へ進むとハッとしたニャアラスは素早く疾走し知矢の前へ回り込んで



 「ダメニャ!素材が手に入らないと子供たちを全員大都市へ呼んで学校へ行かせられニャイ!」




 ニャアラス達猫獣人が各所へ別れ生活し稼いだ金を送金して故郷の街で暮らす年寄りや女子供の生活資金や、北の大森林に分け入って亡くなった”白き猫の女王”に変わる新たな女王もしくは別の場所で生まれ変わっているかもしれない女王を探す者達の分も代わって生活費を仕送りしているのであることは前述の通りである。


 知矢はその話を聞き悩むのだった。

 ニーナからも聞いていたが獣人族はそのたぐいまれなる身体能力を使い生きてきたが次第に時代の変化に対応できなくなってきた者もいる。


 具体的に言うと、読み書き計算が出来ない者が多く人の好い獣人が騙される事案が多く見受けられるようになり、それが元でトラブルになって逮捕されたり借金を負うことになる等、今まで経験しなかった事に増えて来たのであった。


 それらを踏まえ知恵のある指導的獣人達が若い世代、特にこれから育つ者達に狩りや身体能力に頼るだけではなく、きちんと基礎教育を行うことで人族と変わらぬ生活を送ろうと決めたのだ。


 知矢はその話を聞いたとき(うちの使用人にも一人いたな)と思い出すのだった。

 知矢の使用人魔道具商店で警備を担う1人猫獣人のミレはそう言ったトラブルがきっかけで奴隷になったのである。

 本人は「騙された」と言っていたが、知矢が詳しく聞いた事によれば、どうやら思い込みと勘違いによるものが多くを占めていた事が判明した。それらの事も若い頃から読み書き計算を覚え、社会の仕組みを学べば、減らしたり、なくす事ができた筈である。


 そう言われて、知矢は転移前の地球でも、未だに読み書きも出来ない計算も出来ない種族が搾取されて虐げられていた実態があった事を思い出したのだった。ニャアラス達が、子供たちに学ぶ機会を与えたいと切実に考えての行動であるならば、助けたくはなるのだが。


 「ニャアラス、お前、失敗したら死ぬぞ、今回の依頼は。そしたら今まで少しずつでも送っていた仕送りさえも無くなるんだぞ。」



 「失敗しニャい!トーヤがいる!」



 「お前やっぱり何も考えてねえじゃねえか!俺頼りかよ!

 俺がもしお前をだまして魔獣の餌にしている間に逃げたり一人で討伐してぼろ儲けを考えてたらどうすんだ!」



 「ニャアニャア!トーヤはそんな奴じゃないニャ。」



 「簡単に言うな!」



 「何度か一緒に戦ったり行動してそれは確かだニャ」

 事も無く言うニャアラスに知矢は呆れかえる。しかし、それだけ何を信じてくれているのかは理解できなかったが、獣人独自の勘なのだろうか、その点は強く主張するニャアラスを見て



 「仕方ない、何か考えるか。だがな依頼料は別にしても素材はまず無理だぞ。そこは言っておく」

と釘を刺すのだった。



 「トーヤが動いてダメなら仕方がない。そこは諦めるニャ」

と引く事も知っているニャアラスさんであった。



 話を変えて、腹が減ったニャと言い出したため、二人は街道脇の木陰で休憩する事にした。



 知矢が無限倉庫から簡易イスとテーブルを出し宿のミンダに作ってもらった弁当を二人分だし食べ始めるのだった。


 夢中で食べるニャアラスに水筒とコップを出してやり知矢も食べ始めた。


 食べながら周囲の景色に目をやると空には千切れた雲の間から青空が見え目線を移すと心なしか木々の葉も色付き始めているようだ。


 この世界に四季が明確にあるかは知らないが、秋めいて来たなと思いながら、ふと弁当に目を戻すと、何かがいた。


 知矢の弁当、ミンダ特製のサンドイッチや焼いた肉を細切れにして、これまた細切れにした根菜類と炒めたようなサラダ代わりと、果物を切ったデザートが木箱に詰められていたのだが、その細切れの肉を一生懸命掴み口に運んでいる・・・クモが一匹いたのである。


 「おいおい、お前俺のお昼を横取りするなよ」

と言いながらも知矢は排除するわけでもなく小さい体で一生懸命手足を駆使し肉にかぶりつく様子を見守っていた。



 「ニャア!!トーヤそのクモは”ゴールデン・デス・スパイダー”だニャ!すぐ殺すニャ」


と弁当を掴み取ろうとしたが、間一髪、知矢がその前に弁当を、ニャアラスの手が届かないところへ持ち上げた。


 「おいおい急に何する。こいつはただ俺の弁当横取りしようとしているだけだろ」

とクモをかばうのであった。

 知矢が面前に寄せその蜘蛛をよく観察すると、


 体長15mm程手足を伸ばしても全長30~40ミリにしかならないそれは知矢のいた日本では家の中で身近にいた”アダンソンハエ取り蜘蛛”のメスによく似た個体だ。

 アダンソンハエ取り蜘蛛はその名の通りハエやダニ、その他人間が害虫と呼ぶ家屋に浸入する虫などを掴まえて食べる蜘蛛だ。


 知矢や知矢の家族はその蜘蛛を見かけると「おっピョンピョンがご出勤だ、今日もありがとうな」と踏まないように注意して見送っていた。


 そんな蜘蛛に似ていたため知矢はニャアラスの手から目の前で昼食を横取りしたこの蜘蛛を守ったのだった。



 「トーヤその蜘蛛は成長すると1m位になるニャ、何でも食べてしまう恐ろしい蜘蛛で集団で襲いかかると小さなドラゴン種でも逃げ出すほどだニャ」

と解説する。


 「毒は有るのか?」


 「毒は聞いたことが無いニャ、でも狩った獲物を一晩表においておいたら朝には食い尽くされるくらいの凶暴な奴だニャ」

と危険な蜘蛛だと力説するニャアラスだが知矢にはそんな怖い蜘蛛には見えなかったのである。


 人に害をなすと言うよりはそこに美味しい獲物があると純粋に思って食べただけなのでは?と。



 「まあ、良いじゃないか。腹が減っているんだろそれにこんなに小さな個体ではそんなに量を食べるわけではないのだし、おいピョンピョン、好きなだけ食べていいぞ」

とニャアラスを押し留め蜘蛛に語り掛ける様にいうのだった。


 俺のはやらんと言い自分の弁当を手で覆い隠しながら慌てて食べるニャアラスを横目に見ながら


 「お前も人の物は勝手に食べるなよ、ちゃんと言えばやるから」

と一生懸命小さな手足を動かし肉を頬張るクモに話かけながら観察していた。



すると





”ピーン!!”

例の音が知矢の頭に響き目の前にスクリーンが浮かび上がった



”獣魔が仲間になりたそうにしています。仲間にしますか YES ・ NO ”



とアナウンスが流れスクリーンに 可否が映し出される。





(えええっ?)

この時始めて知矢の能力”獣使い+(獣神の加護)”が発動したのだった。



 今、知矢の獣使いのLVは1であるが +(獣神の加護)の力なのかLV1(加算10)と表記されていた。

 (このクモを仲間って・・獣使いって虫とかクモも含まれるのか?)と驚きを隠せない。


 しかしこのクモを見ていると日本で生活していた頃のの”ピョンピョン”を思い出し初めての使役する魔獣がこんなに小さくても可愛いから良いかと思いながら知矢の弁当を未だ頬張るクモを見ながら


  ”YES”を押すのだった。


 ”ピーン クモ、ゴールデン・デス・スパイダーが仲間になりました

名前を付けて主従ラインを結んでください。”

と告げるので知矢は迷わず”ピョンピョン”と名付けたのだった。


 ”ピョンピョンにて登録完了、以後従魔としてギルドカードへも登録されます。”


 と何故か鉄壁のガードを誇っているはずのギルドカードが書き換えられその裏には”従魔:ゴールデン・デス・スパイダーLV3、呼称:ピョンピョン”と記載されたのである。


 不思議な出来事だが最高神が監修しているシステムなのだから何でもありなのだろうと納得したのだった。


 未だ弁当を食べ追加で魚の唐揚げを頬張っているニャアラスに

「おい、ニャアラス。このゴールデン・デス・スパイダーは従魔になったぞ」

と告げると


 「ニャ?ニャに言ってるニャ?」と言っている事が解らないようなので知矢は黙って自分のギルドカードの裏を見せつけるのだった。


 「・・・・? ニャア!!ニャんだと!!トーヤお前獣使いだったのかニャ?だけどゴールデン・デス・スパイダーが従魔なんて聞いた事ニャイ!」


 驚き困惑するニャアラスだが、実際ギルドカードへ従魔と記載されて名前までついているのだから受け入れるしかなかった。


 「でも俺の飯はやらん!」

とあくまでも自分の食事は死守するニャアラスであった。



 「大丈夫だよ、おいピョンピョン、俺のやる食事以外勝手に食べるなよ、腹が減ったら言えばやるから・・・あれ?クモって喋れないよな」

とピョンピョンに注意を伝えながらどうコミュニケーション取るのか思案しているとピョンピョンは前脚?を上げ左右に振り”了解”と言っているように感じた。

 これが主従のラインがつながると言う事かと妙に納得した知矢であった。


 その後食事を終え無限倉庫へ荷物をかたずけた知矢は食事を終えて満足した様子のへピョンピョンを肩に乗せニャアラスと共に再び魔獣”六角獣”が現れた場所を目指し歩き出したのだった。







後書き


ニーナ「キャー!トーヤさんクモですクモがトーヤさんの肩に!!!」


知矢「あっこれ新しく従魔契約した”ピョンピョン”です、ニーナさんよろしくお願いします」


ニーナ「実家に帰らせて頂きます!」




ピョンピョンをめぐり新婚生活の危機を迎えた知矢


この結末や如何に!!




(本編とは全く関係ございません)



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