第13話 獣人の歴史 ~ ニャンか用か!



「うむう、国家体制や歴史はおおよそわかりましたけど、じゃあ、あの流民か移民の男性が言ってた卑下する様なセリフっていうのは何故なんですか」



「ええ、その話は複雑な感情と事情の入り乱れている事なのですけど・・」



ニーナはどう説明したらよいか言葉を選びながら続ける。



帝国建国以前、小国家時代からも両国に行き来は少なからず存在した。



おもに行き来するのは商人で他国に無い商品を流通させその価値を高め利を得るのは当然のことであったがその行き来するルートにそびえ立つ山々や魔物が多く住まう深い森を避けさらにこっこと流れる大河を渡る命がけもおらず必然的に海を渡っての船によるものが大方を占めていた。



だが細々と険しい山々にルートを見つけ己の身体能力のみで決死の覚悟で行き来をするもの達も一群いた。


それが山のふもとに広がる地域で暮らす獣人達の多く住まう小国家であった。



獣人達が主に運んでいたのが希少な魔物の部位、そのうま味にあふれた肉などが殆どだった。


希少な部位や肉であったが希少が故数も少なく、うまい魔物の肉も量を運べず決して楽ではない山越えに命を懸ける代償は細やかな物であった。



しかしその国民の殆どが獣人であった為自身たちが生活する糧は国の周りに広がる豊かな森や山で得る力を持ち生活には困る訳では無かったが獣人達は元々決死の覚悟で山を越えなければならない理由があった。



それは獣人達の神ともいうべき〝白き猫の女王”、がその険しい山を越えた王国側の谷へ居を構えていたからである。



なぜそこの女王は居を構えるのか、獣人達はなぜその真っ白な雪豹を女王と崇めるのかは定かではない。



しかし獣人の本能なのか神に定められた行いなのか獣人達は代々代わる代わる命がけで山を登り谷を進み”白き猫の女王”へ貢物である魔物の肉を届け続けるのであった。




しかし、ある時よりその谷のふもとに住むようになった王国人より


「山を越えて侵入するなら税を払え」と言われるようになってしまった。



獣人に言わせると大昔から神へ捧げている習慣は王国の人間がそこへ住む前からの行事、信仰である為無視を続け女王への捧げものは続けていた。



しかしその話を耳にした王国の役人が兵を連れ谷を封鎖し〝白き猫の女王”である雪豹は王国の物であるから通行税を払うように強要して来た。


払わなければ雪豹を王国首都へ連れてゆき王に献上するとまで言い放つしまつ。



怒った獣人達は当初力ずくで〝白き猫の女王”である雪豹を守り取り返そうとしたが如何に運動能力と攻撃力を備えた獣人も多くの武器と防具を身にまとった兵士に敵うはずもなくしかも〝白き猫の女王”は猫質?に取られている有様では戦いにならなかった。



その時から獣人達は希少な魔物の部位や肉を税として納めそうしてやっと女王に見える(まみえる)ことが可能となった。



そんな状態が何十年と続いていたがある年の春、さすがの獣人も極寒の冬山へ登る事が出来ない為例年冬場は女王に近寄る事も出来なかったが暖かくなりその年初めてのお供え物を持った獣人達が〝白き猫の女王”が住まう谷を訪れるが女王がいない、


すぐ周囲を探し回った挙句掴んだ情報は王国の皇子の命で王国の首都へ連れていかれ国民の見世物として扱われ挙句の果てには見物人に石を投げつけられたり棒で突かれ死んでしまったので大河に捨てたと言い放つ兵士の言葉だった。



怒りに震え兵士に飛び掛かった獣人だがそうなることはわかっていた兵士に散々痛めつけられ逆に命からがら逃げるのが精いっぱいであった。



そんな事が有ってからというもの獣人達は王国民を全て敵とみなし一族愚か全獣人の総意で一生涯王国を敵に回すと亡き神である〝白き猫の女王”に誓ったのであった。



この女王虐殺の真意は船を用いて商売をしていた商人たちからも実際に目撃した者や王国国民から聞いたという話がいくつも寄せられたため真実であったのだろう。



なぜそのような暴挙に出たかは獣人の小国民たちには全く理解できなかったが一生許すまじと言う感情が自分たちに根付いたことはしっかりと分かって代々口伝していったのである。



そんな事が起こる以前から王国では元々獣人を忌み嫌う民族性が有った為普通に王国を訪れたり商売で行った先でも冷遇や時には犯罪者呼ばわりされることが殆どであったので商売としても王国へ近寄る獣人は皆無であった。



そんな南の大国から経済的な理由や同国人に迫害された者、政争に敗れ逃げてきた者、犯罪をたくらみ密入国してきたものなど少なくない数の元王国人が住まうのも帝国には事実である。



そんな元王国人は帝国都市に来ても獣人を異常に嫌う物言いや行動を止めない為獣人やその他のあらゆる種族と融和して長い歴史の中当然のごとく生きてきた元小国家群、帝国人たちには決して許される行為では無かった。



ただ、敵から逃げ出してきた者を受け入れる寛容さももった国民性である帝国の民は静かに裏通りで暮らすだけなら黙って受け入れるし、また交友を阻害するつもりも商売を邪魔するつもりも全くなかったが元の王国民側の根強い獣人差別に対しては絶対寛容になる事は無かったのであった。






「そうですか、そんな深い話なのですね」と知矢は昼間出会った流民と思しき青年を思い浮かべ川辺で出会った獣人の事も思い出すのであった。






「そうにゃ!!あいつらはそれで意味もなく俺たちを馬鹿にしたりさげすんだりするんだにゃあ!!」



突然聞こえた賛同の声に振り替えるとやつがいた



「えっ?えええええっ!!」



昼間出会って怒らせてしまった獣人、猫人の船頭がそこに立っていた。



しかも盆とジョッキを抱えて。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る