第14話ニャアラスさんは働き者  ~「ニーナさん送りますよ」「えっ!」



「あっ、昼間の船頭さん!」




ニャアラス「あ?お前にゃんだ?」




「こんばんは、ニャアラスさん今夜もアルバイトですか」



「ニーニャさんおつかれだニャ、はいだニャ仲間にもっともっと仕送りしニャいとならんニャ」



ニャアラスは二人のテーブルに追加の食事と酒を持ってきたようだ。




「トーヤさんこちら獣人族のニャアラスさんです、昼間は船着き場で船を操り、暇が有ればあちらこちらに手伝いに行ったり夜もこうしてアルバイトに励む働き者さんなのですよ」


と感心しながら知矢に紹介する。




「ニャアラスさん、こちらは最近この都市へいらした冒険者のトーヤさん、若いですが凄腕なのですよ、よろしくお願いしますね」



と知矢のことも紹介してくれたので


「ニャアラスさん昼間は大変失礼しました、改めまして新人冒険者のトーヤです、解らない事ばかりなのでよろしくお願いします」と改めて詫びを入れ改めてきちんと挨拶をすることにした。



「あら、トーヤさん昼間ニャアラスさんにお会いしましたの?」




疑問に答えて昼間の出来事を語ると


「ああ、お前あの時のやつだにゃ、こいつも俺の事を馬鹿にしやがった!」



「違います、誤解ですよ」



思い出すように激高するニャアラスへなだめながら再度経緯を話して理解を求めた。



「そんな言葉信じられニャイな!」と中々怒りを納めないニャアラスに



「ニャアラスさん、こちらのトーヤさんは信義に厚い、義を重んじる方です、ニャアラスさんや獣人族の方を蔑んだりは決してしません、私が保証しますよ。」



とニーナが必死に援護射撃をしてくれたのが功を奏し



「まあ、ニーニャさんがそこまで言うなら信じるニャ、でもいつか俺の操船術を見せてやるからな!」



「はいわかりました、よろしくお願いします」と言いつつ先に鑑定していた知矢は




ニャアラス(25)獣人族(猫種)


冒険者ランクC、剣術lv25、槍術lv40、船槍術lv30、操船術lv25


加護:白き山の豹神加護(小)


特力:基礎生活魔法LV5、水魔法LV15、身体強化魔法(自動)lv28





と出ていたので腕は確かなのと槍術にも長けているのが興味が湧いた。



知矢は薙刀や槍術に興味があったが日本にいる頃習ったり対戦したことが無かったのが心残りの一つだったがニャアラスがかなりの腕だと発見したのでいつか機会があれば胸を借りたいと思っているのは今は内緒である。



怒気を納めたニャアラスは「じゃあ仕事があるニャ」と忙しそうに厨房へ去っていった。



「ふぅー、ニーナさんまた助けて貰っちゃいましたね、ありがとうございました。」



「うふふっ、いえいえ」



知矢は初めてギルドへ登録へ行った際のトラブルを思い出したがあの二人には良い思いと感情が無い為二人の事は忘れようと思うのだった。



「そう言えば、ニャアラスさんは船頭以外にもいろいろやっていて働き者だと言ってましたね、本人も仲間に仕送りしないととか。家族以外に養っているなんて大変ですけど凄い方ですね」



老後のつもりでのんびりとか考えていた知矢だが、最高神の好意で若返らせてもらった為いざ老後と考えていた自分が働き盛りに見える元気な若い容姿でぶらぶらするのも何だかなと色々悩むようになっていた。



だから余計に”他人、他の仲間の為”と精を出すニャアラスを見た時後ろめたさを覚えて心に刺さる物があった。



だが実際知矢は日本に置いて精一杯働いてきた事も純然たる事実である。



老後をのんびり送りたいという思いに後ろめたさを覚える必要はないはずなのだがいかんせん若い姿で転移してしまった現状は変えられない。



その大いなる矛盾との葛藤が余計に進路、方針、何をして過ごすかを決めかねる一因にもなっていた。



そんな知矢の心の苦しみを知らないニーナはニャアラスの事を話し始めた。



「彼とその一族は先ほど話した南の国境際にそびえる山々の麓で小国を納めていた王家に仕えていた家系だったそうです。あの〝白き猫の女王”に供物をささげる名誉を担っていた役もその一族の仕事の一つだったそうで女王を殺された後一族は責任を取り小国の役を辞し全員で国を離れていったそうです。」



えっそんな・・・と知矢が悲しい顔をすると


「いえ、当時の国王も、他の一族や同僚、いえ小国全国民も彼らに”責任は一切ない、悪いのは南の大国だ!”と全力で押し留めたらしいのですが・・・ショックと責任の重圧も有ったのでしょう結局国を離れて魔物の住む大森林の際で一族だけで暮らしているそうです。」



「でも、帝国建国前の話なのでしょう?なぜ今もってそんな暮らしを?都市国家群を形成し行政改革や住民の生活向上も積極的に行ってきたと話に出ていましたよね」



「ええ、この話は後々帝国行政府にも伝わり、王国の犠牲者の1族に含まれるので帝国政府の名のもとに仕事や居留地の斡旋や賠償金の肩代わりなどのの政策を示したそうですが誰も首を縦に振らず”なすべき事が有るので構わないで欲しい”と言って聞かなかったそうです。」



ニーナも寂しそうに一族の事を語り、知矢は帝国がそこまで国民の事を考えて行動している事に驚いた。



転移前の日本、いやそのほかの国家でもそこまで充足した政策をとっている国家は無かったと思うまして長きにわたる戦争を未だ継続中なのに相手国への賠償金を先に肩代わりして国民に賠償するなんて。いつ戦争が終わるか相手から賠償金が貰えるかなんてわからないのに。



そんな事を考えていた知矢はふとした疑問を持ったがそれは後日聞こうと思った。それより



「でもその成すべき事って何なのでしょうね?」



「私も本人たちから直接聞いた訳では無いのですが・・ひょっとしたら新たな女王、いえ彼らの神である〝白き猫の女王”は死んだのではなくその姿は消え失せたが魂は転生してどこかで新たな身柄を得ているのではないか?と考え都市群で暮らさず大森林や山の麓で生活し森や山に分け入り時には密かに国境を越え新たな獣人の神を探している・・という噂は絶えません、私もそうなのではとニャアラスさんや他の獣人の方と話すときに言葉の端々にそう感じる事が有ります。」



「それは途方もない話ですね、でも神と崇めた女王様が本当に転生しているのだったら、出会う事が出来れば数百年の一族の苦労も報われると言う物ですが・・果てしないですね。」



知矢は最高神と会い転移や転生が実際可能であることを身を持って体験しているため獣人の思いが夢物語には思えずいやおそらくどこかにいるのだろうと漠然とした感覚ながら確信にも似た物を感じた。



「そう、途方もない話なのです。ですがそれを信じているニャアラスさんの一族は必死に山に分け入っているためそのほかの者達が生活費を稼いで送金したりしているそうです。」



「一族の結束も硬く互いに助け合いながら数百年の思いを忘れずに今も懸命に努力するか


・・見つかるといいですね〝白き猫の女王様”いえ絶対見つかりますよ、そして獣人の一族を導いてみんなが幸せに暮らせる日がきっと来ますよ、よし私ももっと冒険者として力を付けたら大森林でも王国でも分け入って探す事に協力しますよ!」



と、当面は冒険者としてのlv,ランクアップをして行く事を一つの方針にしたのだった。



「ええ、でもトーヤさん、先ずは今週中に一度、その後も週に一度以上依頼を受けてくれないと資格が消滅しますから気を付けてくださいね」


と夢を膨らませる知矢を現実に引き戻すニーナだった。



「おっと、そうでしたせっかくニーナさんにお手間を取らせてギルド証を手にすることが出来たのですから、ハイ


頑張ってコツコツこなしていきますよ。」


「ハイ!待ってます」と知矢に笑顔を振りまき盃をささげるので知矢もジョッキをささげて互いに”チーン”と打ち鳴らすのであった。



「じゃあ、今日はそろそろお暇しますね、長々とお付き合いいただきありがとうございました、とても楽しかったですよ」



と身支度を始めるニーナだった。



知矢は(そう言えば昨日はそのまま分かれたけどどこに住んでいるのかも知らないや?)



「そうですね、明日も頑張る為にはもう休まないと、ニーナさんもう日が暮れてますから途中までお送りしますよ、お自宅は近いのですか?」



「えっ、ええ、まあ、ちょっと歩けばすぐですからご心配なくまだ人通りもありますから大丈夫ですよ。」



と動揺しながらも遠慮するが知矢はそうはいきませんよと先に席を立ち、ミランダには支払いは自分に付けておいてと頼みニーナを促すのであった。



ミランダは何かを勘違いして解ったように「あいよ、今日は帰らないんだね」などと呟いてニヤニヤしていたが何を馬鹿なとあきれ顔を返すだけにとどめてニーナと”木こりの宿とご飯”を出て行くのであった。



外はだいぶ少ないが未だ人通りはあるもののすでに日は陰り浅い暗闇が広がり始めていたのだった。



注意”ニャース”ではなく”ニャアラス”さんですのでどこぞの悪党の手下と混同しない様にお願いします。



(でも書きながら脳内推敲しているとニャアラスの声がニャースで再生されているのは何故だろうか、きっと気の迷いである)



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