第3話先ず街を散策先に宿か?~あっヒロインはまだ出ません

転移間もなく取りあえず都市へ入場した知矢は一安心した。



 何となく理解はしてるつもりだが”指南書”の知識だけでは不安があったが、一歩街へ入るとそこは想像していた通りの街並みが広がり、大勢の人々がおもいおもいに買い物をしたりしている光景があったからだ。


 皆楽しそうに暮らしているのがうかがい知れる。


 そんな街の様子を観たからこそ安心したのだった。



 「う~んまず何しようかな?

 時間は太陽の高さからすると・・・昼過ぎ、午後だろうな。

 先ずは今夜の宿か、でもチェックインって日本のビジホとかだと15時位だけど何時から入れるのかね? そもそも宿のシステムがわからん、うん、聞いてみるか。」



 街をぶらぶらながら屋台や商店を眺め方針を考えていたが取りあえず誰かに聞いてみる事にした。



 一軒の出店がたまたま目についたので店番らしい中年の女性に声をかけてみることにした。


 青菜の様な野菜や色とりどりの果物と思しき物が板の上に山積みされているのを見ながら



 「こんにちはお姉さん、俺今日この街に来たばかりなのだけれどお姉さんの売っているこれって果物?甘そうなのが有れば少し欲しいのですけどお勧めありますか?」



 「おや新顔かい、これらはそんな珍しいもんじゃないけどどこから来たんだい」


 新規の客に笑顔を振りまく女性は愛想よく聞いてきた。



 「北の方の林を抜けて街道から3日程外れた小さな村だよ。森で木の実や何だは採ってたけど果物はほとんど食べたことがないんです」



 「ああ、北の村々からかい、なら仕方がないね。ここいらで売ってる物の殆どが南の山で採れたり、南の村で栽培された物ばかりだからね、そうだねここいらが甘くてたっぷり水分含んだ美味しい果物だよ”アリ果の実”って言うのさ」



 どれ!っといって女性は1つ手に取ると1/4ほど切れ目を入れて切った実を食べてごらんと知矢に差し出した。



 そのまま素手で受け取った知矢はゆっくり匂いを確かめる様に口に運び微かな甘い香りを確認するとそのまま口へ放り込んだ。


実は”鑑定”も表示されてたから安心なんだけどな。


 ”アリの実、甘い果実、南方の山間に地生するがこれは栽培品”



 「うわっ!思ったより甘いや、そしてホント瑞々しい!喉の渇きが癒される様だ」


 アリの実は日本で言う処の梨に似ていてサッパリとしているが甘さもありとてもおいしかった。



 「気に入ったかい!今の時期は丁度一番おいしい時期さ」


 「ハイ気に入りました!10個程下さい、お幾らですか?」


 元の世界でも大好物だった梨に似たアリの実を気に入った知矢は購入する事にした。


 「あらそんなに買ってくれるのかい、ありがとうよ。1個銅貨1枚だから10個で1銀貨だけど1個おまけして11個で1銀貨で良いよ」


 銅貨一枚10円位だよな安いな!



 「お姉さんありがとう」とマジックバックのリュックから小分けしてポケットに入れていたコインから1小銀貨を渡し有りの実を11個受け取りマジックバックであるリュックにいれると



 「おやマジックバックかい、良い物持ってるね、商売でもするのかい」



 すぐにマジックバックであることに気が付くとは思っていたより当たり前の事なのか?


 と知矢は思ったが逆に様子がわからないうちに出し入れをうかつに見せたことは今後注意しないととも考えた。


「ええ、でもこのリュックの倍くらいの容量しかないんですよ。見ての通り古いので商売するほどの容量は無いですが旅には役に立ちますね。」



 「私も大きいサイズが手に入ってればもっと大きな商売が出来るのだけどね」と残念そうだが


そこで話題を変えるために本来聞きたい宿の事を聞いてみた。



 「ああ、初めて都市に来た者にも親切でこそ泥なんかの心配のない宿は何軒もあるよ」



 と4件のそれほど高級でもなくでもきちんとした設備のある親切な宿を教えてくれた。


さらに「でもね、こんな平和な都市でもね、夜には行っちゃいけないエリアもあるから注意しなよ」


 とまだ若く見える知矢に親切にも治安の悪い場所も教えてくれた。


宿の料金は中銀貨5枚程度が多く食事は対外別途で朝夕一食で中銀貨一枚が基本らしい。


日本円で一泊5千円、朝夕食セットで1000円ぐらいの感覚だろう


もっとも高級なところはその何倍もするし、部屋の様子や調度品、サービスもかなり幅が有るらしい。まだ当分お世話になる予定はないがいつか泊まってみたいかな。


安い宿は1中銀貨(1000円位)であるらしいけど、ただ屋根の付いた板の間に大勢で雑魚寝する様な仕様でもちろん枕泥棒(寝ている間に金品を盗まれる)も覚悟する様な所らしい。


こういった所は逆に集団の冒険者などがチームで借り切ったりすることが多いらしい。



 ありがとうと礼を言い早速宿の様子を観て回ることにした。



 宿は比較的まとまったエリアにあるようで4件教えてもらった宿のほかにも通りながら見てみたが高級そうな宿には入口の前にドア番だか用心棒替わりか男が立っているのが多いみたいだ。


 表から覗こうとしても若い金を持ってい無さそうな知矢にはジロリと警告に視線を投げるだけで声もかけない。


 所持金でいえばどんな高級な宿でも泊まれるがやはり見た目が若返ったのだし大金を持っている様子を見せると何かトラブルになっても嫌なのでやはりお勧めの宿に泊まることにした。



 気に入らなかったら日ごとに替えても良いかと丁度目についた看板がそのうちの一軒だったので入ってみた。


 ”木こりの宿とご飯”と入口上に木の板でに彫りこんでいる看板が目印らしい。



 そういえば知矢はいつの間にかに異世界の文字が読め言葉が通じているのに気が付いた。


 都市の入り口で門番と話したときは緊張していて気が付かなかったが、相手の発する言葉は最初一瞬は聞いた事の無い言語に聞こえたのだが瞬時に理解出来ていて、逆に自分の発する言葉は日本語のつもりでも実際はこの国の言葉を発していたことに気が付いた。



 気が付いたときは違和感この上なかったが会話をしていく内に当然の様に慣れてしまいこの世界の言葉を理解して発するようになっていた。


 強いて言えば思考の状態はやはり日本語で考えているがそれを喋る時は異世界言語と言う訳だ。


 どういう仕組みかはわからないがこれも最高神様のおかげだと納得する。



 ”木こりの宿とご飯”の戸を引いて中へ足を踏み入れてみると戸にベルがぶら下がって来客を告げたおかげですぐに奥から声がかかった


 「いらっしゃい、食事かい、泊まりかい?」


 声の主は忙しいのかカウンターの奥から中年女性と思しき大声だけが聞こえてきた。



 「ああ、泊まりで頼む、空いてるかい」と告げるとすぐに声の主が現れる



 「何だい、若い子じゃないか、声だけ聴いたら大人かと思ったよ。1人かい?なら1泊中銀貨5枚、朝夕食付なら中銀貨5枚に銀貨5枚だよ」



 知矢の物言いはやはり60歳のものに聞こえるらしいが、声も若く見た目も若返っているので生意気な感じに見えるらしい。そこは商売人だ大人と同等の対応をしてくる、まあこの世界は16歳ともなると既に十分大人として扱われることが普通なのではあるが。


 だがよくよく考えて言い方を注意、改めた方がトラブルになりにくいかと考えて注意する事にした。



 「ハイ、その値段で結構です、お風呂はありますか?」知矢としてはそこは元日本人としては確認したいところだった。


 「ははっ、残念ながらうちはそこまでの高級宿じゃないね、皆裏庭で水樋の水を盥に溜めて魔法が使えるやつは自分で温めて使っているよ、この街は水に恵まれてるから水は使い放題で小銀貨1枚だ。盥は有るのを自由に使っとくれ。それとも高級宿へ行くかい?」



 風呂がないのは残念だが水をたっぷり使えて魔法を使える知矢はには取りあえずは十分だと思った。いずれかは家を手に入れて風呂を設置したい欲求はあるが。



 「いえ、十分です。では朝夕食付と水込みで取りあえず2泊したいので銀貨11枚と小銀貨2枚で良いですね」


 とポケットから出した硬貨を数えながらわたした。



 「おや計算が早いね、育ちがよさそうだが商人には見えないし剣を持っているが冒険者かい?」



 「まだ冒険者ではありませんが都会に出てきてこれから色々チャレンジしようと思ってます。計算は簡単な物だけは村で昔商人だったという古老に教わったんです、都会でだまされないようにと」


 と考えていた設定を話してみた。



 「おやそうかい、田舎でも良い人がいたね、確かに計算が出来ないと見るやごまかす輩もいるからね。その人に感謝しなくちゃ。夕食は出来たら声をかけるよ部屋は3階の通り側だけどいいかい、昼間は喧騒があるが夜は静かだから寝るには十分だろ」


 と青銅製の様な棒状のカギを渡してくれた


 「はいこちらこそお世話になります、私はトーヤと言います。今日この都市に来たばかりなので何もわからない田舎者ですけどよろしくお願いします。」



 とういうと、あらご丁寧にと返され「私はミンダ、亭主と二人でこの宿をやっているのよ。夕食時には亭主の顔も見られるからよろしくね、でも熊魔と間違えて驚かないでね」


 と言いながら階段の場所を教えてくれた。



 ではまた夕食時にと別れて3階まで上がるとカギについている部屋番号を探し鍵を開けて部屋に入った。


 どうやらこの世界では安い部屋は人力で上がる為に上の階にあるようで4畳半ほどの部屋には木のベットと小さなテーブルに椅子しかなく窓は木の板上の一か所だけだ。もちろんガラスなどない。


ベッドには毛布の様な厚手の敷物が敷いてあり上掛けなのかこれも毛布の様な薄でのものが置いてあった。


心配していた衛生状態は良さそうだったが念のため覚えたばかりの”クリーン”魔法をベットや部屋に使ってみると毛布類は綺麗だったようでそれほど変化はなかったが部屋の床、壁天井が若干綺麗になったように見え室内の空気も澄んだように感じる。


クリーン魔法便利だ!一応自分にも服の上から魔法をかけてみたがそれ程汚れていなかったので見た目は余り変化はなかったが多少汗ばんでいた感覚がすっきりした。


水浴び要らないかな?まあでもお金払ったし試しに後で浴びてみようと思った。




 リュックをテーブルに置いてから上に押し上げる様にして開いている木の窓から外を伺ってみると右の方にやや傾いてきた太陽が見える、15時過ぎの感覚か。


 下方を見るとそろそろ帰宅時間なのか行きかう人はのんびり買い物というよりは足早に過ぎ去るように見える。


 電気の無い世界だから当然日の沈む前に用を足して食事の支度をし早々と寝る為であろう。


 もちろんランプは有るが油は水と異なり貴重な様で一晩数時間使用できる量で1ランプ銅貨3枚と言われたが知矢は初級魔法の”ライト”が使えるので借りなかった。



 多分知矢の魔力量だと一晩中つけていても余裕であろう。



 初めての異世界、初めての都市、人々、太陽が沈む様子を眺めながら少し寂しさも覚えたがホームシックという程ではないのはやはり知矢が人生を長く歩んできたせいもあるのかもしれない。



 だが妻や子、孫や友人ともう二度と会えないと考えると何か感情がこみ上げてきそうだったので明日から、これからの事を考える事にした。



 まず宿に泊まり続けるにはお金が必要だ。


 むろん知矢には最高神より渡された資金がそれこそ山の様にあるので本来は心配ないが働きもしない見た目16歳が毎日ぶらぶらして金を使っているのは外聞も良くないし色々疑われたり悪い奴に狙われるかもしれない。



 なので収入を得ていますよ!と言う体裁を点けなければならない。だが本来”のんびり老後”がこの世界に来ての目標であるため、生活の為に必死で小銭をかせぐ若者の姿というのは本来の目標とかけ離れ過ぎている。



 どうしたものかな?と思案していると、


「泊まりの方!夕食をどうぞ!~」と宿主の妻である中年女性、確か「ミンダと言ったな」が階下から声を張り上げていた。



 外を見るとまだ日は完全には落ちていないが完全に暗くなる前に食事を提供する様だ。


 知矢が日本で仕事をしていた時は社長の立場になってからも社員が全て帰宅してもまだデスクで仕事を続ける事がほとんどで、夕食は23時近くに帰宅してから妻と食すのが当たり前の生活を何十年としていた。



 こりゃあ生活習慣から見直さないとなと思いながら部屋に鍵をかけ階下の食堂へ降りて行った。



 食堂はどうやら泊り客だけではなく一般の客や近所の住人も利用する様でわいわいがやがや多くの人がめいめいに食事や酒を楽しんでいた。



 空いていたテーブルに着くとミンダがすぐパンとスープに焼いた骨付き肉が乗ったプレートを持ってきてくれて


 「スープとパンは御代わりしたけりゃ声をかけてね、何か飲むかい、別料金だけど」


 知矢は酒は何が有るか聞いたところ


 「おっ若いのにいける口かい、ワインにビール位しかないけどどうする?」


 というミンダの飲めるのかい?っという表情は気にせず「ビールをおねがいします」と注文した。



 「あいよ、ビールお待たせ」


 早速来たビールはやはりガラスのジョッキと言うものは存在しない様で、でも薄い金属の大ぶりなコップはジョッキのような形はしていた。



 泡ごとごくっと一口飲んでみたところキンキンに冷えてはいないがそれなりに冷たく何か冷やす方法があることが窺がえた。


知矢の大好きだった日本のラガービールとは風味や香り味は異なり、若干の酸味が感じられるのは製法と材料の問題なのかと思案した。


鑑定してみると ”お酒、エール、上面発酵で醸造、ただしホップを少量使用しているため苦みとコクがラガーに似ているがフルーティーな酸味は酵母を常温で短期間発酵させているエールの独特の味”



と出た。まだこの世界はラガーは無かったみたいだがそれでも十分な美味しさだった。



 プハーッ!旨い!と飲み干す知矢だが初日からべろんべろんに成るのもどうかと踏みとどまり今夜は一杯で止めておこうと食事に手を伸ばした。


因みにビールという名のエールは小銀貨5枚500円、この世界では高めの料金と感じた、ワインは小銀貨4枚らしい。



それほど硬いパンではないが黒パンとでもいうのか濃い色の木の実が練り込められており咀嚼していく内に甘さを感じて普通ににおいしかった。


日本で言うところのクルミパンの硬い物かと思いながら豆やベーコンの様な肉片が少々入ったスープにつけて柔らかくしながら味わった。


肉の方は牛より豚に近いが野趣あふれ、少々筋張っていたが噛むと肉汁と脂が程よいうま味になり香草と塩だけの味付けでも満足できた。



 周囲を見渡すと同じようなメニューを食べているのが殆どだったが、その人々はそう、見た目西洋人的な雰囲気の者や知矢の様な日本人的な黒い髪と顔つきの者も少々おり自分の存在がそれほど違和感がないのにも安心した。



 実は転移して若返った体ではしゃいだ後小川で水を飲んだ後流れの緩やかな水面に映った自分の顔を確認して驚いた。


 なんと本当に知矢の若いころそのものの顔であったからだ。


 おかげで自分に違和感を抱くこともなかったが、ひょっとして金髪に白顔、青眼になるのでは?と、勝手に思い込んでいたため少し拍子抜けしていた。



 まだ食堂の賑わいは続いていたがお腹が膨れて、疲れもあったのか眠気を覚えたので部屋に戻ろうとコップやプレートを持ち厨房のカウンターへと運んで声をかけた。


 「ご馳走様でした!ここに置いておきますね」



 奥では忙しそうに あらありがとう!と返事が返ってきた。忙しいのだろうかミンダの姿は見えないが踵を返そうと振り返った瞬間目の前を遮る巨大な影が知矢を襲った、訳では無く知矢が見上げるくらいの大男が太くて大きい両手両腕にいくつもの皿やコップを抱えて立っていた。


 「・・・おうありがとな」と一言つぶやく様に言うとその大柄な体に似合わず知矢の横をするりと厨房へ入っていった。



 「あれがご主人かな、なるほど熊みたいだ。いや熊魔だったかな、言葉は少なそうだけど良い人っぽいし似合いの夫婦かもね」



 と感想を口にして階段を上り部屋へと戻ったのであった。

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