星那と海からの帰り道
――その後、女の子は決して一人で出歩かない事、という約束を遵守した結果、大したトラブルも無く昼過ぎとなっていた。
シャワーで体についた潮と砂を洗い流し……着替えた後は一面の海を眺められるベンチに陣取って、屋台で買ってきたザンギやフランクフルトなどのおかずになるものと、今朝の卵やリエットなどの残りを使って星那が持参したサンドイッチでご飯を済ませ、のんびりした後帰路に着く。
途中で少しコンビニに寄って、今夜のバーベキュー用にジュースやお酒などの必要な物を買い足す。
男性陣はクーラーボックスやビーチパラソルなどで手が離せないため先に帰っており、星那の手にも少し増えた荷物。
少しは重いがこのくらいは、と柚夏と手分けして、頑張って抱える星那なのだった。
「んーっ、この三日、本当に良く遊んだねぇ」
そんな柚夏は荷物の重さもなんのその、一行の先頭で大きく伸びをしていた。
彼女の言葉通り、本当によく遊んだ日々だった。心地良い疲労感が体を満たしている。
「朝陽なんて、本当に真っ黒になって……」
「へへん、これは学校が始まったら友達に自慢できるね」
そう言って、浅黒く染まった体中、クッキリと残った水着跡を自慢げに見せてくる。
「こーら、朝陽、はしたないからやめなさい」
「きゃー、お姉ちゃんに怒られたー」
「そう言って、何でくっついてくるのかな、この子は……」
星那がその行為を咎めると、悲鳴を上げながら何故か嬉しそうに腕に抱きついてくる。
そんな妹の様子に、まったくもう……と溜息を吐いて苦笑する星那なのだった。
……星那の白い肌は日に焼けると赤く腫れてしまう体質なため、このように健康的に日焼けする事はもう出来ず、こまめにUVカットクリームも塗り直さなければならない。
故に、こうして気兼ねせず肌を焼ける小学生の妹が、少し羨ましく思うのだった。
そんな風に、朝陽にぶら下がられて歩いていると。
「ねぇ、なっちゃん。この後どうする予定だっけ?」
「んー、特に予定は無いかなぁ……バーベキューの火起こしまで、自由行動?」
柚夏の疑問に、少し困った様子で答える星那。
なんせ、遊びに行こうと思ったところはあらかた回ってしまったのだ。
「そっか……なっちゃんは、どうするの?」
「私は……おにぎり用のご飯を準備したら、のんびり温泉三昧かな」
柚夏や陸、夜凪あたりはご飯も無いと足りないだろうから、結構用意した方がいいかな、残ったら明日の朝に、醤油か味噌つけて焼けばいいし、と算段する。
それとバーベキュー用のタレも作ってしまわないと、と思い、材料があったかどうか、ざっと冷蔵庫内の記憶を精査する
だが……それが済んでからでも、まだのんびりできる時間はたっぷりある。
「えー、なっちゃん枯れてるー」
「ごめんね、でも今日はもういっぱい遊んだからクタクタで……」
明日の掃除に備えて、体力を温存しておきたい星那だった。朝にはお風呂のお湯も抜いてしまい、あとは大掃除なのだから、今日のうちに思う存分入るのだ。
温泉に浸かってはゴロゴロして、また温泉に入って……というのんびりとした過ごし方に、実は憧れがあった星那なのである。
「ねぇ柚夏ちゃん。私、瀬織のおじさんの家の周りを探検したい!」
「お、朝陽ちゃん良いねー、私も付き合うぞー! ボディガードに陸も誘ってみようか?」
「あ、私知ってる、護衛の傭兵だね!」
「あはは、良いね良いね、冒険っぽい!」
まだまだ元気な二人は、そんな話で盛り上がっていた。なんだかゲームみたいになってる……そう、星那は一人苦笑する。
楽しそうな話ではあるが、残念ながら星那の体力では途中で力尽き「おお、しんでしまうとはなさけない」となりそうなので……ここは涙を飲んで、やめておく星那なのだった。
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