思い出は「いし」になる

 思い出は「いし」になるらしい。ある時は波に洗われたシーグラス、ある時は幼い頃に集めたビー玉、ある時は鉛玉。噛み砕くにはかたく、飲み込むには冷たく、持ち運ぶには重い。見ていて心が浮き立つものでもない。持て余して用途を探るに、それは人に放つのに適しているらしい。

 それには銀色に光る刃のような格好よさはなかったけれども、ずっと遠くまで届いた。私は大した狙撃手だった。ふときた道を振り返ると、そこにはなにも、壊れたものの欠片さえも残っていなかった。ただ道の遥か向こう、その起点に、朧げな灯りが灯っているのみだった。

 あの先にふるさとがあることは分かったけれども、蜃気楼に似て到底辿り着けるものではない。仕方もなく、私は先に進むことにした。鉛玉すら手元にはなく、きらきらと光ばかり通す「いし」の類はなくして久しい。賑やかだった道は標識すらなくなり、舗装された歩きよさは、いつからか望むべくもない。

 見通しは悪く、足元だけを注視した。惰性で運ぶ歩みが、先へ進んでいるのかも分からぬ。道はますます深まり、草丈は背に及んだ。振り返ってみても、四方に同じ景色が広がるだけである。私はとうとう目を閉じた。……そうしてそこに、あの日の光に似た、それよりもずっと弱い灯火を見出したのである。

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