「宝」

 形のないものなど、僕にとっては存在しないも同然だった。見えないものは確かめようもない。宝物と言われれば目に眩しい宝石が思い浮かんだし、それは僕には縁のないものだった。ポケットに手を入れてみたところで空っぽだし、生憎僕はいつも身軽なのだ。海に投げ出されたって、財宝の重さで沈んでしまうことなどないだろう。秋の気配が裏寂しく、翳り始めた陽に身震いをする。思わず目を閉じれば、波音が聞こえる。潮風が鼻腔に忍び込む。砂浜に砕ける波の白さが眩しい——あ、何だろう。指先に触れたものを掴んで目を開くと、そこにはあの日君がくれたシーグラスが、ほのかな温もりと共に夏の名残を留めていた。

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