「波」

 君は空の青がよく似合った。冬の遠くにある青ではなくて、夏の目に焼き付くような青がしっくりきた。だから君が白い飛行機で飛び立つ日も、こんな空だったことを私は嬉しいと思った。今、あの日の港には私が、来るべき船出の時を待っている。君の門出の瞬間とよく似た空だ。青と白の対比が目に眩しい。私は、海の青、その波の示す方向に逆らう旅に出る。ここには二度と戻らない。誰もここには戻ってこない。出立の日は人によりけりで、老人もいれば幼い子もいた。私も君が行ってしまわねば、まだここにいただろう。波の終着点、空の果て、何も始まらない場所、安心し切った停滞の中。甘い夢は終わった。私は君を探しはしない。

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