第2.5話 望んだ未来(パブロの視点)


(…これは夢だな)


 と、俺は夢の中で思っていた。

 

「魔王サタンを封じた、勇者たちの帰還ですぞ…!!」


 明るく跳ねた声で、オズワルド王国の宰相ネロ様が告げる。

 色とりどりの紙吹雪がはらはらと舞って、吹奏楽団がラッパを愉快に吹き鳴らす。


 オズワルド王城に集まった王都の民たちが、拍手と声援を送ってくれている。

 皆、サタンと闇の魔術師グレゴリーの脅威から解放された安堵感で浮かれた顔をしている。


 俺は慣れない手つきで、王城のバルコニーから王都の民たちに手を振る。

 俺の隣には――魔界で一緒に戦った勇者――ユリウスとリアと、ロミオがいて、同じく手を振っている。


(よかった、皆無事だったんだな…)


 夢だとわかっていても、元気な姿の仲間を見てなんとなくホッとした。


 それも束の間、俺の夢はサクサクと次の場面へ転換した。


(ここは…)


 俺の家、フルーム伯爵家の屋敷だ。

 玄関の前に立っていた俺は、目の前のドアを開く。


「兄さん…!!」


 迎えてくれたのは、妹のエレナだ。


「おかえりなさい!」


 エレナは俺に抱き着いて、透き通るようなクリーム色の髪を俺の肩にうずめた。


「エレナ…苦しい」

「よかった、無事で…」


 そう言って、俺を見上げたエレナは、うっすらと涙を浮かべながら、エメラルドグリーンの瞳を細めて微笑んだ。

 幼いころから変わらないこの笑顔に、何度救われたことかわからない。


 俺もエレナを抱きしめ返して、「ただいま」って言った。


 けど、これは夢だから。

 ふわふわとしていて、現実味がない。


「パブロ、よくぞ帰ってきた」

「父上…!」


 屋敷の奥から現れたのは、俺を育ててくれた父さん。


 夢の中でも、王国騎士団長としての威厳が伝わる。

 エレナと同じクリーム色の髪で、あごに髭も蓄えている。


「立派に育ったな。お前を我が子にした自分の選択を、誇らしく思うぞ!」


 父さんは腕組みをして、良く通る大きな声で、そう告げる。


「…はい!」


 父さんはずっと、両親を失った俺を本当の息子みたいに育ててくれていた。

 だから、その期待に、愛情に、ずっと答えたかった。

 

「お前を息子にしてよかった」


 それは、俺がずっと欲しかった言葉だ。

 だからこれは、凄くいい夢だ。


「さて、夕食にしよう。パブロ、お前の武勇伝を聞かせてくれよ」


 父さんがそう言って、にかっと笑った。

 エレナが俺の手を引っ張る。


「おい、引っ張るなよ」

「いいでしょー?」


 悪戯っぽく笑うエレナに引かれるまま、俺は食卓へと向かう。


 食卓には、弟のカルロスと、母のアリスも待っていた。

 久しぶりに家族が皆そろった。


「パブロ、やるじゃん。見直したよ」


 上から目線でそう言うカルロスも、なんだか可愛らしくて。

 夢なのに、俺は嬉しくて涙が出そうだ。


「……っ」


 このままずっと、夢見ていたいなって思ったんだけど。


 全身を覆うピリピリとした痛みに呼び覚まされ、

 俺の意識はゆっくりと覚醒した。


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