それぞれの夏 始まりはしない

土蛇 尚

夏休みの学校

 帰宅部だと夏休みに学校に来るってだけで特別感がある。もう3年も通ってるから見慣れてるはずなのに廊下も教室も新鮮に見えた。受験の夏。


 私の高校は中の下の普通科、同級生は推薦で大学行くか専門学校に行くかで大きくは分かれる。でも中の下だから就職組はそんなに多くない。

 一番少ないのは私みたいな「一般入試組」


「それでは夏季特別講習を始めます。全員揃うのが今日だけって事がないように。ではまず数学2Bから」


 クーラーの効いた教室には、先生二人と生徒が5人。予備校で同じサービス買ったら何万になるのって感じ。先生達は去年まで県内の上の上にいたらしい。こんな高校に何で夏季特別講習なんてあるのかはかなりの謎。


「では今日はこれで終わります。土日を挟んだらセンター過去問の提出をお願いします。お疲れ様でした」


 どうにか数3まで手が回りそう。帰ったらまた勉強だ。単語帳見ながら駐輪場まで歩いていく。『unrelated』の意味を何度か赤シートで隠して見返す。長くもないのに覚えれない単語ってある。

 そんな風に赤シーンをぺらぺらしてたら突然、首にタオルをかけた男子に話しかけられた。背がかなり高い。陸上部みたいだ。


「ねぇ君、受験組の人?」


「え?あ、はい。なんですか?」


「ごめん、なんか珍しいなって。みんな結構、一般入試組の話してるから」


 マイノリティだって自覚はあったけど話題になってるとは思ってなかった。


「来る時にも見かけたんだけどさ、なんか緊張してなかった?」


「夏休みに学校きた事なかったから。」


「あぁ部活やってないと来る事ないもんね。どこの大学行く為に勉強してんの?」


「関大、理系の」


「そうなんだ。俺もスポーツ推薦で関大行くんだ。ほぼ内定してる。受験がんばってね」


「ありがとうございます。」


 三年行ってて初めてあの男子と話した。彼には彼の努力があったんだろう。そんなルートもあるんだなって思った。私には関係ないけど。

 駐輪場で日焼け止めを塗って自転車に跨る。教室で塗っておかないのは女子としてダメなのかなぁって思う。帰ったら勉強する。


 あの男子、汗くさかったな。


終わり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それぞれの夏 始まりはしない 土蛇 尚 @tutihebi_nao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ