第62話
☆☆☆
そして、その日の夜。
あたしの部屋に妖精がいるのを見て驚いていた陽菜ちゃんに、ちょっと恥ずかしかったけれど、全部を説明した。
「そっか。その、秋生さんって人、あんまりいい人じゃなかったんだね」
「……うん……」
「月奈、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
うなづくあたしに、「うそつき」と、軽く笑う陽菜ちゃん。
妖精がまた見えるようになっている時点で、そんなに大丈夫じゃないって、陽菜ちゃんにはわかっているから。
でも……。
あたしは4人の妖精たちを見回して、自分がずいぶん元気になっている事に気づいていた。
「本当に、大丈夫だよ。みんながいてくれて、元気をくれるから」
「……そっか」
陽菜ちゃんは、少し切なそうな表情を浮かべた。
そして、また口を開いた。
「できたら、月奈には妖精に頼らない生活をしてほしいって、思っているよ?」
「え……?」
「妖精に元気をもらうのはわかるけれど、妖精を見ることができない人たちは、どうにか自分の力で元気を出すの。
だから、自分の力で困難を抜け出す努力も、忘れないでね?」
「陽菜ちゃん……」
「って、妖精にハマッちゃったあたしが言うと、説得力ないけどね」
そう言って、「あははっ」と、笑い声をあげる。
その表情がとても痛くて、あたしは陽菜ちゃんの上着の裾を握りしめた。
「さ、今日は浴衣でも着てみる?」
突然会話の内容を変えた陽菜ちゃんがそう言った。
「浴衣?」
「うん。今年になってから、一度も着ていないでしょう?」
そう言われて、そういえば着ていないということを思い出す。
花火は見たけれど、会場までは行っていないし。
もしかしたら、秋生さんと行けれるかな? なんて、思ってはいたんだけれどね。
「月奈、着させてあげるからあたしの部屋においで?」
「うんっ!」
あたしはうなづき、微笑んだ。
外が暗くなってきた8時ころ、あたしと陽菜ちゃんは浴衣を着て庭へ出ていた。
あたしは黒にピンクの花柄。
陽菜ちゃんは紫に赤の花柄だ。
妖精たちは浴衣が珍しいのか、こちらを見上げた状態で制止している。
「あんまり見ないでよ」
あたしは手持ち花火を準備しながら、4人に言う。
なんだか、照れちゃうでしょ?
「みんな、月奈の浴衣姿に見惚れているんでしょ?」
陽菜ちゃんが言うと、汰緒が「陽菜も似合ってる」と、すぐに言った。
その瞬間、陽菜ちゃんは驚いたような表情をして、そして頬をポッと赤く染めた。
「な、なに言っているのよ。ほら、花火始めるわよ」
明らかな動揺を隠すように陽菜ちゃんは手持ち花火に火をつけた。
先端から出てくる花火に妖精たちが歓声をあげて、ようやくあたしたちから視線がそれた。
あたしも陽菜ちゃんに続いて花火を火をつける。
赤や青、黄色やオレンジに色を変える花火。
「すげえぇな。こんなに近くで花火が見れるなんて」
美影の言葉に「でしょ?」と、なんだか特異な気分になるあたし。
「僕も持ってみたい!」
白堵がそう声をあげると、他の3人も目を輝かせ始めた。
できるなら、やらせてあげたい。
でも、どうやって?
小さな妖精が手に持てる花火なんて、どこにもないし……。
困っていると、陽菜ちゃんが汰緒を膝に乗せて、手持ちの部分を一緒に掴ませた。
「これで、いい?」
「おう! ここから見ると、また迫力が違うな!!」
たったそれだけで、すごく満足そうな汰緒。
そっか、そうしてあげればいいんだ。
あたしは納得し、他の3人を見る。
すると、一番最初に美影が膝に飛び乗ってきた。
「あ、美影ずるい!!」
白堵が文句を言う。
「うるせぇな。月奈の膝は俺のもんだ」
「そんな事、誰が決めたんだよ!!」
そう言いながら、同じように膝に乗ってくる白堵。
「も~、仕方ないなぁ」
あたしは花火をもう一本取り出して火をつけた。
これで、2人同時に花火を楽しませてあげることができる。
2本同時に花火ができるとわかった菜戯まで、陽菜ちゃんの膝に飛び乗った。
結局、みんな一緒にすることになった。
そして、手持ち花火が少なくなってきたころ、美影があたしの肩に乗ってきた。
「花火、持たなくていいの?」
「あぁ。月奈と同じ場所から見たくなった」
ちょっと恥ずかしいと感じるような言葉を簡単に言ってしまう美影に、あたしは一瞬ドキッとする。
「月奈、浴衣すげぇ可愛い」
「そ、そう?」
いきなりほめられたら、とまどってしまう。
あたしは花火に集中する。
「俺が人間だったら、よかったのに」
「……え?」
「俺が人間だったら、月奈を傷つけたりないのに」
あぁ……。
美影も知っているんだ。
人間が、妖精を見ることができる理由を。
「っていうか、俺のせいだよな。月奈が傷ついたのは」
「え?」
「あの、男のせいなんだろ? 俺が、告白しろって背中を押したりしたから……」
「違う! 美影のせいじゃない!」
思わず、声が大きくなっていた。
「あたし、美影には感謝しているの。あの時背中を押してくれたから、彼がどんな人かわかった。
付き合う楽しさも、辛さも知ることができた。彼があまりいい人じゃなかったのは、ただあたしに見る目がなかっただけで……」
そこまで一気に言って、呼吸をする。
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