第61話

「大丈夫よ。みんなにまた会えたから、あたし頑張れるから」



心配かけたくなくてそう言うと、汰緒が「そうか、そんなに俺たちに会えてうれしいのか」と、ニヤニヤ笑う。



「なによいやらしい顔して。いっておくけどあたし、男の趣味にはうるさいんだから、汰緒なんか相手にしないわよ?」



そう言うと、汰緒は「ちぇっ」と、小さく舌打ちをしたのだった。


☆☆☆


休憩時間を終えてレジへ戻ると、1レジの上に美影が寝ころんで昼寝をしていた。



その寝姿が可愛くて、あたしは美影のお腹をツンツンと指先でつついてみた。



美影は少し寝がえりをうち、そしてまた寝息を立て始めた。



「おーい。起きなよぉ」



小声でそう言って、また美影をつつく。



すると、美影がうっすらと目をあけた。



「おはよ、美影」



「……なんだ月奈かよ」



寝ぼけた声でそう言い、再び目を閉じてしまう美影。



「なんだとは、何よ」



プッと頬を膨らませると、今度はしっかりを目を開けてあたしを見つめる美影。



すると、途端に飛び起きて「月奈!?」と、声をあげた。



「ひさしぶりだね」



ヒラヒラと手を振ると、美影はジャンプをしてあたしの肩に飛び乗った。



「俺のこと、見えるのか!?」



「見えるよ」



「俺の声、聞こえるのか!?」



「聞こえるよ」



「マジかよ……」


少しの間無言になったかと思えば、美影はあたしの頬にくっついてきた。



その感覚はすごくくすぐったくて、でも心地よい。



「よかった……。月奈がもう俺の姿が見えなくなったんだと思ったら、俺、どうしていいかわからなくて……」



「美影……」



本当に苦しそうな声でそう言われると、あたしの胸もギュッと悲鳴をあげる。



「また、見えるようになってよかった。月奈……」



「あたしも、また会えてよかった」



そして、あたしの頬にチュッと音がして、美影がキスをしたのだとわかった。



「さすが、月奈は俺の女だな!」



「そういう事しないでよ。っていうか、いつ美影の女になったのよ」



プッと頬を膨らませて反論したけれど、あたしの心臓はドキドキしていたのだった。



そして、その日。



久しぶりにみんなと再会したあたしは、花火大会の時と同じように、バッグに妖精たちを入れて帰ってきていた。



「みんな、大丈夫?」



部屋に入ってようやくバッグをあけると、みんなあちこちに体をぶつけたようで顔をしかめていた。



「ごめんね、できるだけ揺らさないように歩いたんだけれど……」



そんな申し訳ない気分を吹き飛ばすように、4人は一斉にバッグの中から飛び出してきた。



クッションには白堵、ベッドには美影。



テーブルの上に汰緒、本棚の前に菜戯。



みんな、さっそく自分の好きな場所に走っていく。



その姿が可愛くて、あたしはクスッと笑った。



なんだか、その姿を見ているだけで嫌なことが忘れられるようだった。



「なぁ、月奈」



「なに? 美影」



「今日、花火は?」



「花火?」



その言葉に、他の3人も視線をこちらへむける。



みんな、花火がかなりお気に入りになったみたいだ。



でも、今日は平日だから花火大会をしているところがない。



キラキラと輝く期待の満ちた瞳を受け止めながら、あたしはどうしようかと考えた。



「そうだなぁ……家庭用の花火なら、できるかな」



庭付き一軒家だから、隣に迷惑のかからないような花火なら、できると思った。



「家庭用花火?」



白堵が首をかしげる。



「コンビニに売っているような花火のことだ」



菜戯が、クイッとメガネを直しながらそれに答えた。



花火がしたいのなら、買って帰ればよかったなぁ。



「その、家庭用花火っていうのは、どんなやつだ?」



美影が聞いてくる。



「手に持ってできるタイプの花火だよ」



「あれを、手に持つのか? 熱いんじゃないのか?」



怪訝そうな表情を浮かべる美影。



「ちゃんと、熱くないようにできているから大丈夫よ」



そう答えて、あたしは再びバッグを手に持った。



買い物にいくなら、早い方がいい。



晩御飯のおかずも、ついでにコンビニで買ってきちゃおう。



そう思い部屋を出たのだった。

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