第29話

そして、そこから顔をのぞかせたのは、陽菜ちゃんだった。



今日は休日なのか、まだパジャマ姿のままの陽菜ちゃんが「ちょっと話したいことがあるの」と、部屋に入ってきた。



「いいけど……」



あたしはTシャツをスルンと着て、ベッドに座った陽菜ちゃんの横に、腰を下ろした。



「話って、なに?」



そう聞くと、陽菜ちゃんは「断った方がいいよ」と、突然言った。



断る?



一体、なにを?



キョトンとして陽菜ちゃんを見つめる。



「昨日の花火大会で、告白されてたでしょ? あれ、断ったほうがいいよ」



え……?



昨日のって……白堵の告白のこと?



「大丈夫だよ陽菜ちゃん。白堵はどうせ本気じゃないし、あたし、からかわれただけだよ」



ぶんぶんと首を振ってそう言ってから……あれ?



陽菜ちゃん、なんで白堵からの告白を知っているの?



と、思考回路が停止した。



「本気だったらどうするの?」



「えっ……ちょっと、待って? 陽菜ちゃん、白堵たちが見えていたの?」



そう訊ねると、陽菜ちゃんは無言でうなづいた。



うそっ!!



昨日のあれ、全部見えていたの!?



とたんに、白堵にキスをされたことを思い出して、顔が熱くなっていく。



「あたしもね、同じことがあったのよ」



そして、陽菜ちゃんは静かに離し始めた……。



「あたしの彼氏ね、妖精だったんだ」



「えっ!!?」



陽菜ちゃん、今なんて言った?



彼氏が妖精だったって、そう言った!?



驚いて目を丸くし、次の言葉をなくすあたし。



「職場に置いてある少し古いパソコンの妖精。名前は彗(スイ)。



最初彗や、他の妖精たちが見えたとき、本当に驚いた。



でも、一緒に過ごすうちに徐々に慣れて行って、そして彗に惹かれていく自分がいた」



そして、陽菜ちゃんは『彗』を思い出したように軽くほほ笑んだ。

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