第28話
「ちょっと、黙ってよ! まだ寝たいんだからっ!」
そうやって怒鳴ると一瞬だけ部屋の中は静かになり、そして再び話し声でいっぱいになった。
どうやら、あたしが怒ってもこの子たちにはなんの効き目もないらしい。
あたしはあきらめてため息を吐き出し、そして渋々ベッドから降りた。
とりあえず、着替えよう。
そう思い、クローゼットまで行くが、取っ手へ伸ばしかけた手を止めた。
ちょっと、待って?
妖精は妖精でも、一応はみんな男の子だよね?
年齢不詳だけど、みんな『僕』とか『俺』って言っているし。
くりんっとみんなの方を振り向く。
見た目も、どう考えたって男の子たちだ。
あたしは昨日の籠バッグを広げ、みんなに入るように促した。
「おでかけするの?」
白堵に言われて、「違う。着替えするの」と、答えた。
「着替え?」
首をかしげる美影。
妖精は元々服を着て生まれるから、着替えとかはしないんだろうか?
「着ている服を変えるのよ」
「なんのために?」
「それは……」
答えかけた言葉を遮って口を開いたのは菜戯だった。
菜戯はいつものようにメガネをクイッと直すと、「汚れたり汗をかいたりすると、人間は着替えをする」と、言った。
「妖精は、着替えないの?」
「俺たちは基本的に汚れねぇもん。ちょっとしたことなら、自然回復するからな」
そう言ったのは汰緒だった。
そういえば、沢山タバコを吸っているわりに汰緒から煙のにおいはしない。
「すごぉい、便利ね……」
関心していると、今度は美影が口を開いた。
「っていうか、俺たちに服だの飲食だのが必要だったら、それこそ大変だろ? それぞれに生きやすいように生まれてきているんだよ」
「なんだか、美影にしてはいい事言うね」
「月奈は俺をなんだと思ってんだよ」
「あはは、ごめんごめん」
言いながら、あたしは4人をバッグに入れて蓋をしめた。
どうやら、男女の性別の差は理解しているらしい。
バッグの中から「月奈の体フワフワなんだぜ」と言っている、美影の声が聞こえてきたので、一度大きくゆすってやった。
すると、あっという間に静かになる。
まったく、今日の美影といい、昨日の白堵といい、人をからかうんだから。
プリプリと怒りながらクローゼットを開けて着替えをしていると、部屋をノックする音が響いた。
「今、着替え中!」
お母さんかな?
朝ご飯の準備ができたから、呼びに来たのかもしれない。
そんな事を思って手早く着替えをしていると、部屋のドアが開いた。
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