第15話

☆☆☆


それから3時間後、なんとか売り場換えが終了し、あたしはロッカールームけん、休憩室けん、事務所で大きく伸びをした。



「疲れたぁ……」



ズッシリと重たい体でつぶやくと、入れ替わりのバイトの女の子が「お疲れ様ですぅ」と、甘ったれた声で言ってきた。



香水の匂いをさせて、耳にはピアス、首にはネックレス。



店内で調理をしているコンビニでは御法度なものたちを、気にすることなくつけている。



「あんたが3時間遅れたせいでしょ?」



そう、今日はこの子の代理出勤だったんだ。



「そうですよねぇ、ありがとうございますぅ」



なんて言いながらも、こっちは見ずに鏡の前で口紅を塗っている。



今日休んだのだって、きっとわざとだ。



自分が売り場換えをやりたくないから、あたしに押し付けたんだ。



そうわかっているけれど、あたしはそれ以上何も言わなかった。



この子はバイトを始めたころからずっとこの調子で、誰が何を言っても効果がなかった。



だから、もうみんな諦めているんだ。



「じゃぁ、あたし帰るから」



「お疲れ様でしたぁ」



やる気のない声を後方に聞きながら、あたしは事務所を後にした。



お局さんに挨拶をして店を出ようとした、その時、ズボンの裾を引っ張られる感覚がして、あたしは立ち止まった。



もしかして、ガムでも踏んじゃったかな?



さっきまで学生たちが店内で騒いでいたから、捨てて行っていてもおかしくない。



そう思いつつ、視線をやると……。



そこには美影と白堵がいたのだ。



あたしのズボンを一生懸命引っ張っている。



なにこれ、もしかしてあたし、引きとめられてる?



どうしようかと悩んだが、自動ドアの前で突っ立っているワケにはいかない。



あたしは美影と白堵に「わかったわかった」と、小声で言い、少し離れた雑誌売り場まで移動した。



「なによ、どうしたの?」



しゃがみ込んでそう聞くと、「俺たちを、外へ出してくれないか?」と、美影が突然そんなことを言い出したのだ。



あたしは驚いて目を見開く。



「外? なんで?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る