第12話

と、次の瞬間。



棚に向かって体重をかけていたため、キャスターチェアーが後方へと動いた。



「きゃっ!?」



と、悲鳴を上げた時にはもう遅い。



右手でつかんだ童話が手から離れて空中を舞い、あたしは前のめりになって椅子から落ちてしまった。



「いったぁ……」



床に置かれていた本が衝撃で崩れ、本棚からも何冊か分厚い本が落下した。



棚にぶつけた鼻を涙目になって抑えつつ、あたしは落ちた童話を探す。



「あった……」



他の本の上に落下していた童話を拾い上げ、小脇にかかえて椅子を自室へとし、トンッと腰をかけた。



痛い鼻をさすりつつ、表紙の作家名に目をやると【美影 白堵】という名前が飛び込んできた。



「美影白堵!?」



驚き、一瞬鼻の痛みさえ忘れてしまった。



レジの中にいた妖精2人と同じ名前だ。



これって偶然?



まさか、こんな偶然って普通ないよね?



ドキドキして、思わず誰もいない室内を見回し、そして本を開いたのだった……。


☆☆☆


童話は、妖精が小さな女の子と冒険をする物語だった。



町中に散りばめられた3つの宝石を探し出し、それを北の魔女へと差し出すと、妖精が人間になれる。



というお話だった。



それはどこにでもある童話で、作者名以外に特に珍しいところはなかった。



そして、その本を見つけた翌日も、あたしはバイトのシフトが入っていた。



「今日もバイトかぁ……」



ロッカールームで制服に着替えながら、憂鬱なため息を吐きだす。



バイトなのに休暇希望はなかなか通らないし、人の代理出勤もしょっちゅう。



扱いも雑だし、時給も安い。



結果、そろそろ潮時かな……。



なんて思うのだけれど、なにせ仕事がないから辞めたくても辞めれない。



「鳥谷さん、今日は売り場換えあるからね」



「えぇ~!?」



しかも今日はめんどくさい売り場換えか。



商品の陳列を変えるため、棚ごとごっそり移動するのだ。

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