第9話
「妖精ってさ、花とか木にいるイメージなんだけど?」
「あ、嫌だなぁ。それ、僕たちの存在を否定してる?」
「そういうつもりじゃないけれど……」
でも、一般的に知られている妖精といえば、自然の中に存在しているものばかりで、機械の中にいる妖精なんて聞いたことがない。
「人形に、魂が宿るっていうでしょ? それと一緒で、人間がいつも使うものには魂が宿るんだ。
その魂は小人や怪奇現象、いろいろな形で現れるけれど、僕たちは妖精という形で現れたんだ」
へぇ……。
日本人形の髪が伸びるシーンとかは、夏になるとよくテレビに映ったりする。
そんな怪奇現象として姿をあらわされると怖いけれど、こうしてレジの中にちょこんと小さなイケメンが座っているのは、ほほえましい光景だ。
「でもさ、なんであたしには見えて他の人には見えないのよ?」
「それは、僕にもわかんないなぁ。もともと、月奈だって見えてなかったじゃん」
そうなんだよね……。
ついおとといまでは普通にレジを打っていて美影や白堵の姿なんて見えていなかった。
「なんであたしだけ見えるんだろ……」
なにか悪いものでも食べてしまっただろうか?
頭をぶつけたり、派手に転んだことはあっただろうか?
それとも、知らない間に誰かに催眠術をかけられちゃったとか!?
ここ最近の自分の行動を思い起こしてみるけれど、思い当たる出来事なんてどこにもなくて、あたしは眉間にシワをよせた。
「そんなに考え込まなくてもいいじゃん。僕、月奈と話せてうれしいよ?」
スラッとそんなことを言われて、あたしの頬は熱くなる。
学校を卒業してから異性とあまりかかわっていないから、なんだか変な気分だ。
「で、でも、あたしの幻覚や幻かもしれないし? 最近疲れてるし」
あわててそう言い、そっぽを向く。
すると白堵は小さく笑い、「ねぇ、ちょっと。手の平出して?」と、言ってきた。
「え?」
視線を戻して聞き返す。
「手のひら」
もう1度同じことを言われ、あたしはおずおずと右手をレジへと近づけた。
すると、白堵はあたしの手のひらに「よいしょ」と言いながら、乗ってきたのだ。
かすかな体重が、あたしの右手にかかる。
白堵の体のぬくもりが手のひらに伝わってきて、ドキドキした。
本当に、生きてるんだ。
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